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三話


 三人を保護官に引き渡し、私は特別事故処理班に戻る。歪の状態をデータに移し、研究所から撤退をする。特別事故処理班の本部に帰り今日の事の報告書を作成する。

 昔は世界中に歪の場所があったが、それをこのニノドームの時空歪研究所一か所に集めたのだ。自由に空間を操る事が出来ないか研究している。

 元々、時空歪研究所からの通報で私達は一週間研究所で張り込みをしていた。周期的に他の世界と繋がる事がある。それは危険な生物や、未知の病原菌だったりする時もある為、私達特別事故処理班が出動する事になっている。


 書類を全て提出して家に帰ってきた。居候先は私の婚約者の住まいだ。彼の両親は違うドームに別の住まいがある為、二十七部屋ある古い屋敷に二人で住んでいる。部屋の掃除は自動掃除システムがあるので、広い家に住んでいても困る事はない。ただ、古い屋敷なので、たまに幽霊が我が物顔で歩いていたりする。ちょっと恐い屋敷だ。

 

 自分の部屋のベッドの上に、そのまま倒れる。一週間ぶりの部屋、そして今日は本当に疲れた。

「おかえり、アーネ」

 私の帰宅に気がついて婚約者のシューアムが入って来る。深緑色の優しげな瞳に、柔らかなで真直ぐと伸びる顎の長さまで伸びている銀髪の彼が、いつも以上に格好良く見えた。元々、整った顔立ちの男前だが、一週間ぶりに見たからだろうか、それとも私がシュアに飢えていたからだろうか。

「シュアただいま」

 私が倒れているベッドの横に座り、お帰りのキスをしてくれる。愛しのダーリン。

「渡りは無事に成功したの?」

「うん。三人共、異常なしで元気だったよ。施設に入れるように手続きした。あとは私が無事に帰れるようにデータを精確にして送り出すだけ」

「良かったね」

「うん」

 シュアが私の長い黒髪を縛っていた赤いリボンを外す。ゆっくりと髪を撫でる。

「頑張ったね」

「うん」

 シュアに褒められて、私は嬉しく幸せな気持ちになる。この大きな手で触れられるのが好き。一週間頑張って張り込んだのだ。今夜はシュアに一杯甘えて、過ごすのだ。

 シュアを誘うように手を絡めて、ベッドに沈む。あぁ。シュアの腕に包まれて、やわらかな香りが下りてくる。幸せだ。

 その、幸せを崩すような、アラームの音が聞こえる。私の携帯端末の呼び出し音だ。

「後でいいよ」

 アラームを無視してシュアが頬にキスを落とす。

「シュア、ちょっとどけて。端末起動って、ブレスレットしてない」

 シュアが私のしていたブレスレットをいつの間にか、取り外してどこかに隠していた。何時の間に奪われていたのだろう気がつかなかった。

「一週間も会えなかったのだから、一時間ぐらい仕事を忘れて俺に時間をくれてもいいじゃないか」

 シュアが髪を軽くかきあげて文句を言う。欲情している濡れた瞳に色気を感じて少しだけ、動揺するが、いまはそれよりも仕事が優先だ。

「だめ。大事な知らせだったら困る。ブレスレッド返して」

「わかったよ。奥さん」

 シュアが私の手を取って、ブレスレットを返してくれる。

 まだ、結婚してないから、奥さんじゃないし。でも、後少しで本当に奥さんになるから、そこは突っ込まないでおく。


「端末起動」

 私の声にブレスレットが起動して連絡先と音声を繋げてくれる。映像も送る事が出来るが、余程大切な時以外は音声通信が基本だ。

『お休みの所申し訳ありません、保護施設のミキナスです。今日渡りをしてきた少年たち三人が施設から脱走しました。監視カメラの映像もすべて破壊されていて、何処に向かったか行方が分かりません』

「なんですって! ブレスレットは?」

 施設で用意した彼らの言葉を翻訳するブレスレットには、何処にいるか分かるように発信機がついている。

『ブレスレットは発見されたのですが全て別々の場所に捨ててありまして、行方が分かりません』

「アイ救システムは?」

 アイ救システムというのはドームの中にある監視カメラを分析して行方不明者、不審者を見つけ出すシステムの呼び名だ。

『まだ発見されていません』

「分かりました。私も捜索してみます。引き続き捜索をお願いします」

 音声通話を切り、私はベッドから飛び起きる。身支度を軽くし、シュアが持っている私の赤いリボンを奪い、きつく結ぶ。

「シュア、三人を探すわ」

 シュアもベッドから起き上がり、服を軽く整えている。

「それなら、俺も手伝うよ」

「いいの?」

 シュアは最新技術開発室に務めている、エンジニアだ。様々なプログラムを作り発表している。彼が捜索に手を貸してくれたら、すぐに見つけるプログラムを作ってくれるだろう。

「アーネが直ぐに戻って来られる様に、手伝うのは夫として当然だろ」




 シュアが作ってくれて捜索プログラムにより、三人の居場所が直ぐに見つけ出す事ができた。私は特別事故処理班に連絡を入れる。私が責任もって三人を見つけるから、なるべく大事にしないで欲しいと頼む。そう頼まないと、危険な異分子の渡りとして、本当に三人は帰るまで監禁されてしまう。

 本来なら、特別事故処理班の分野ではない。彼らが、元の場所に帰るサポートをするのが役目で、彼らの生活を保障するのは保護官の役目だからだ。

 でも、私には個人的に三人が無事に七日間を過ごせるように見守りたい理由があるのだ。

 


 シュアの捜索プログラムによると、三人は何故か別々の場所にいる。とにかく一番近い垂れ目の少女陽菜が居る場所に向かった。


 陽菜が居るのは施設から少し離れた歓楽街裏路地だ。翻訳ブレスレットを付けていないのだから、面倒な事に巻き込まれていないと良い。夜も深まり歓楽街にはお酒の入った人達の笑い声や、話声が響いていた。私も絡まれそうになるが、上手く交わして陽菜の場所に向かう。

 その場所に行くと陽菜は、建物の影に小さく膝を抱えて座っていた。俯いている為、表情は見えない。

「陽菜ちゃん、探したよ」

 私の声を聞いて、陽菜はゆっくりと顔を上げた。目が少し赤く泣いた痕が残っている。

「アーネさん……。どうしよう……」

 ぼろぼろと泣き始めた陽菜の肩を優しく手を置く。

「他の二人はどうしたの?」

「昴は、何処かの女の子助けるって行っちゃって、その後、愛美は変な人に攫われちゃった」

「愛美は誘拐されたの?」

「うん、黒の長いコートのような変なスーツの人に攫われたの」

 私は頭を抱えたくなった。黒服の男。それはこの歓楽街をまとめているマフィアが好む服装だ。そして、裾が長いのは幹部が着る服だ。でも幹部クラスが誘拐なんて下っ端の仕事をするはずがない。なにか幹部の気に障る事をしたのかもしれない。

「どんな状況で攫われたか詳しく教えてもらえる?」

「愛美が黒服の男にぶつかったの。男からぶつかってきたのに何も言わずに居なくなろうとしたって、謝りなさいって愛美が怒っちゃって。何か男が言ってたんだけど、なにを言ってるのか分からなくて、愛美それでも怒鳴り続けたら捕まっちゃった。私止めようとしたんだけど、上手く出来なくて」

 私は愛美の場所を地図に浮かび上がらせる。カジノがあるホテルの一室だ。最上階の場所にいる。

 警護官にたちに知らせるべきなのだろうけれど、マフィアと正面からやりあってくれるか微妙なところだ。裏社会を仕切っている彼らと警護官の相性は最悪だ。下手したら、愛美を囮に何か作戦を作って来るかも知れない。渡りの少女一人犠牲にしたところで警護官は気にしないはずだ。

 特別事故処理班に頼む事も出来るが、役職を逸脱している事を頼むのには、上長を説得しなければ問題なってしまう。


 私は、腹をくくる。よし、私が何とかするしかない。これで、問題に為って特別事故処理班を除名されても、愛美を救う方を優先させるべきだ。


「陽菜、私はこれから愛美を助けに行くわ。一緒に行くのは危ないから、タクシーに乗せるから着いた場所の人に事情を説明して。私からも陽菜を保護するように伝えておくから」

「私も、行っちゃだめですか?」

「何があるか分からないから危険だわ」

「でも、愛美が無事なところをちゃんとこの目で確かめたいの」

 陽菜が頬を流れていた涙を拭って私を見る。でもここで陽菜を連れて行ったとしても唯の足手まといだし、一緒にいられると気が散って上手く対処できそうにない。


「気持ちは分かった。なら、これを持って行って。これは私の行動が映し出されるチップが入っているの。彼女の無事も映し出されるから」

 私は自分がしていたイヤリングを一つ外して、陽菜も使えるようにデータを入力してから彼女にわたす。

「映像再生って言えば映し出されるから、家に着いてから再生させてみて。どうしてもできなかったら、家にいるシューアムっていう男の人がいるから彼に聞いて」

「一緒に行きたい」

「それはやっぱり無理よ。必ず愛美を連れ戻すから大人しく言う事をきいて」

 まだついて行きたがる陽菜を、捕まえたタクシーに乗せてシュアの家に送り貰うように頼んで無理やり乗せた。

 シュアに今起きた事を簡単に教えて、陽菜が行くから家にあげて欲しいと頼むと承諾し、こっちからも少し調べてみると言ってくれた。


 


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