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三十一話

 シュアは何を考えているのだろう。私を利用するだけではないと言う事だろうか。それともまた別の意味があるのだろうか。


 あの場にシュアはいなかった。昴が使えるシステムに『生物兵器召喚』があった。その場に居ればシュアも危険だと分かったから、生物兵器対策班の司令と共に行動しなかったのだろうか。

 でも、昴がシステムを使えると分かれば、そのシステムバッチを誰が着けたものなのか検証していけばばれてしまう。それは過激派に対する裏切り行為だ。ばれた時にシュアはどうなってしまうのだろう。


「シュアから、何か言われていることはないの?」

 私は昴にシュアがシステムを着けた時の様子を聞くことにした。何を思ってシュアがシステムバッチを着けたか、その真意を知りたい。

「さっき言った通りだよ。もしもの時に使えるようにって。でも不意打ちに使うほうが、効果が出るから切り札として使うようにって言われた」

「何かが起きることを想定していた様子ってことね」

「あの時二人きりになってから、彩音を危険な目に合わせた事をめちゃくちゃ怒られてさ。それから、彩音を危険な目に合わせるのではなく、守れるぐらいになれよって。それで、万が一の時のために誰にも知られないような場所に、システムバッチをつけてやるって言われてさ。彩音に何かあったときに守れるようにって」

 シュアは私を守れるように昴にシステムバッチを着けた。シュアに何の得があるのだろう。私の事を大切に思ってくれているから? でもあの時、『アーネを愛していると一言も俺は言ったことはないよ』と言っていた。本当に言われたことはない。


「計画のために婚約者を演じている、とか言われていたもんな。笑いながら言うとか最低だよな」

 昴の声が私の胸に突き刺さる。微かにシュアが本当は何か訳があって、私を突き放す言い方をしただけかもしれないと思えてきていたのに、兄から言われると胸が痛む。あの時の会話を昴にも聞かれていたと思うと、さらにつらい。

「あの時は俺もかっとなってよく考えられなかったけどさ」

 昴がポケットから陽菜が書いていた手帳を取り出した。

「これ、陽菜がこれからの事に役立つからって、渡されたんだ。三人でいろいろ話したんだよ。これによると、あの屋敷で四年間一緒に暮らしていたんだろ?」

 陽菜の手帳に書かれている恋愛話の場所を開き、昴が見ている。って、その恋愛話、女子だけの秘密だと言ったのに簡単にばらしたな。

「そうね」

「普通さ、利用するだけの奴とそんなに長く一緒に居られるものなのかな?」

「……わからないわ」

「あの、シューアムって結構性格歪んでいるだろ。そんな奴が、いくら計画だって言ってもそんな長い間一緒に生活を共にするとは思えないんだよ」

「シュアはそんなに性格歪んでいないわよ。普通よ」

「歪んでいるだろ。自分がそばに居なくても、守れるようにって頼んでもいないのに、俺にシステムバッチを着けたんだぞ。そりゃ、ヒーロー戦士みたいでちょっとカッコいいと思ったけど。着け終わった後に、それ簡単に爆発させることできるから、人にばらさないようにしろよって言ったんだぞ。次に彩音に怪我させたら間違って、爆発させるかもって」

 つまり、シュアにとっては昴がシステムバッチを着けていても何の脅威でもないと言う事だ。シュアの計画の邪魔になれば昴を消すことを考えるだろう。

「離別している今、シュアの前にはいかないほうがいいわね。もうシュアと会う事もないでしょうけど」

「は? 何の話? 俺今そんな話していたっけ?」

「システムバッチは取り外したほうがいいのでしょうけど、ここにその機材はないわ」

「彩音、わざと考えないようにしているのか? 変に話逸らすなよ。ズバリ結論から言う。シューアムは今、ドームで何か彩音に見せたくないような事をやっている可能性がある」

 昴の言葉に何を馬鹿なことを言っているのだろうと思う。どこからその結論が出たのか理解できない。


「大体、彩音は完全にシューアムを信じていた。それなのに、逃げられる戦闘機の傍で自分は敵ですっていう必要がどこにある? 騙して利用するなら、逃げ道のないところで、敵だって言うべきだ。それをしなかった時点で、変だ」

 確かに、シュアは頭が悪いわけではない。あんな逃げやすい場所で、私が異変に気が付くように微笑んで近づいてきた。シュアが私を逃げるように誘導したと考えられる。

「システムに支配されているドームでは、どこに居ても俺たちの居場所は特定される。あの場面で、ドームの外以外に逃げ道はなかった」

「そうとも考えられるけれど、なぜ、シュアがドームで何かをやっていると言う事になるの?」

「さっき、シューアムが居なかった。俺たちを狙ってやってきた奴らは先鋭部隊って感じの奴なんだろう? そいつらを、ドームの外に出してしまえば、ドームで何かやっていても邪魔する人間は少ないだろ」

「その考えで行くと、私たちを囮にしたって事よね。見せたくない何かをやっているとして、その見せたくないと言っている本人を囮に使う?」

「それで俺の出番って事。生物兵器を呼び寄せれば、ドーム外では最強だろ。だから囮だけど、安全は確保される。さらに邪魔者は生物兵器がやっつけてくれる。一石二鳥」

 少し、昴の言う事に信用性が出てきた。シュアが考えそうなやり方だと思えてきたのだ。

「では、何をしているというの?」

「それは、わからない。ドームに行ってみないと分からない」

 シュアが、私に見せたくない何か?


「それでさ、俺、ずっと不思議だったんだけど、なんで俺たちがこの世界に来るってわかったの?」

「え?」

 突然の言葉に、私はきょとんとする。そんなこと来ると分かっていたとしか言いようがない。

「変だろ? 俺たちが消えた洞窟に入った、そのあと出てくる俺たちを見ていた。で、彩音が洞窟に入って、この世界に来た。でもその時代に俺たちが居た痕跡なんてないだろ。なのに、同じ世界に来ると分かっていた。時空の歪はいろんな世界に通じているものなんだろ。だったら、俺たちが彩音の来た時代より後に来るって確定できる何かが、あったのではないのか?」

 昴に言われて初めて、その疑問に気が付いた。私はなぜ、昴たちが私よりも後にこの世界に来ると確信していたのだろう。

 この世界に来た六歳の時、瀕死の状態をドーム外の調査をしていた恩師に救われた。次に気が付いたときにはベッドの上で治療を受けていた。言葉も通じない世界で、私は生きることに必死だった。少し言葉が通じるようになってから、兄たちの事を話した。

「先生が、兄たちはあと約二十年後に来るだろうって。そう言っていて……」

 そう、恩師が私にそういったのだ。なぜ、恩師はそう思ったのだろう。子供の私は何も考えず、恩師の言葉を信じた。二十年後に来るのなら、それまで私は勉強を頑張り、兄たちを無事に帰せるようにしようと思った。


「よく思い出すんだ、多分それが今起きている事のカギだ。洞窟のところから思い出してみよう」

 私は目を閉じて幼い時の記憶を呼び起こす。

「私は、昴たちが洞窟で消えるのを、隠れて見ていたの。それから、居なくなった洞窟を茫然と見つめたわ。洞窟に入って、何もなくて探しても、昴たちが見当たらなくて、一度洞窟を出た。それから、お父さんやお母さんに知らせようと思って、おじいちゃん家に向かって走って。でも、また洞窟が光ったわ。今度は二回時間差で光ったのが見えたの。だから、私は、また洞窟に引き返した。そこで、昴、愛美、陽菜の三人が洞窟から飛び出してきて走って、おじいちゃん家に向かっていた。私、三人に声をかけたのよ。でも三人とも気が付かない様子で走って行ってしまって。光った洞窟が気になって、中に入ったの。そこで……。私何かを拾ったわ」

 暗い洞窟を懐中電灯で照らすと、何かが光ったのだ。何かと思い幼い私はそれを手に取った。

「どんなものだった?」

「リング。銀色のリング……。今思えば、あれはブレスレットね」

 きれいだと思って手に取ったら、時空の歪に落ちたのだ。手に持っていたのでそのブレスレットも一緒に渡りをしたはずだ。でも、渡り直後の私はブレスレッドを持っていた記憶がない。ドームの外に落ちた時にそこに落としたままその存在も忘れていた。

 恐らくブレスレットを恩師が拾ったのだ。そのブレスレットの中に昴たちが来るという情報が入っていたのかもしれない。

 装飾の少ない、男用のブレスレットだった。あれは。

「銀色のブレスレット、あの時拾ったものと、似たものをシュアが付けているわ」

「シューアムのブレスレットかもしれないって事?」

「そうかもしれない」

 私が今着けているシュアのブレスレットの色は黒だ。これではなく、いつもシュアが付けている、彼専用のシステムが入ったブレスレットの方だ。


「それにしても、引っかかるのは洞窟から出てきた俺たちが走っている理由だな」

「そこ気になるの?」

「一番気にする場所だろ」

 昴は私に向かい何馬鹿なこと言っているのだという顔をする。昴にその顔で見られるとちょっとムカつく。でも、先ほどから昴は、今起きていることを真面目に考えて答えを導き出そうとしていた。そういえば、兄は学校では頭がよかった。こちらに来てから用心深く人を疑い、逃げるという事をしていた。初めから、何かを守ると言う事には敏感だった。


「俺だったら、日本に帰ったら隠れている彩音を捕まえて洞窟に行かせないようにする。愛美たちにも、日本に戻ったら彩音を洞窟に近づけないでほしいって頼んだ。でも、彩音が見た俺たちはそれをしていない」

 昴たち三人が走っておじいちゃん家に行く時を思い出す。幼い私が声をかけても気が付かないぐらい何かに、焦った様子で走っていた。

「六歳の私を捕まえるよりも、大事な何か、急を要する事柄があったと考えられるわね」

「今、ラッテが、重症な状態で日本に行っている。愛美たちが動かせずに、大人たちを呼びに行くことは予想できる。でも、洞窟内にラッテが倒れているのを見たか?」

「いいえ、人はいなかったと思う」

「そう。彩音はラッテの姿を見ていない。ラッテとは別の人が洞窟内に居て、ラッテを彩音に見えないようにしたとは考えられないか?」

「確かに人から見えなくするシステムはあるわ。このブレスレットにもその機能はついている」

 私がしているシュアの黒いブレスレットを指す。昴はそうだろうと頷く。

「つまり、今の私が、渡りをして日本に行っている可能性があると言っているのかしら?」

「そう、俺と、彩音、二回目の光の時に渡りをしたんじゃないかって思う」

「そんなこと、可能だと思えない。渡りを二回も行えるなんて思えない。ありえないわ」

「でも、そう考えると、彩音がこの世界に居ることにつじつまが合うだろ。日本に渡り終えた俺たち三人が幼い彩音を探さなかったのは、今の大人の彩音がすぐそばにいたからじゃないのか?」

「でもそんなこと……。だから、あの時、時空の歪を集める装置のスイッチを入れさせたの? いつからその可能性を考えていたの?」


「愛美たちと話している時に、俺なら絶対に幼い彩音を捕まえるって話してさ。それをしていない、幼い彩音が見た俺の行動が不思議だった。俺たちが後に来ると確信している理由と併せて考えていくと、渡りができる回数って決まってないじゃないか思えてさ。実際、俺たちが渡りをした直後に彩音が渡りをしている。時空が歪んで別の時間軸に移動したけど、それは数値を調節していないからだろうから、やればできると思う」

「無茶苦茶だわ。それに、私が、計算しているのは三人の渡りの数値よ……」

「だから、もう一人、俺たちのほかに渡りをする人がいるんだろう」

 もう一人。昴が誰を想定して言っているのか分かって、胸がざわつく。


「でも、本当にできるか、ドームに行ってみないと分からないし、日本に本当に戻れるかわからないから、さっき謝ったのはそういう意味」

「ドームに入ることも難しい状況なのよ」

 ドームの壁を破壊して外に出てきた。私は立派な犯罪者なのだ。正面から入ることなんてできないだろう。

「そこは何とかする」

 自信ありげに笑う昴に安心するよりも、不安で落ち着かない気持ちになる。今までの行動上それは仕方がないことだと思う。




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