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二十三話

 地下の中にあるホテルにも窓はある。でもこの窓から見えるものは、ただの映像だ。星空が映しだされて、今が夜であることを教えている。この部屋に閉じ込められて、過ごしているので時間の感覚がマヒしてくる。この映像がそのマヒを誘発させているのだろう。本当に今が夜なのかも疑わしい。

 私は、アヤメに時間を確認することにしている。そうでないと、今が本当に何時なのか判断できなくなるからだ。

 今、ベッドで寝ている四人を見ながらこれからどうするか考えている。ここを抜け出さなければ、実験道具のように使われて生きていく事になる。

 そんなこと、絶対にダメだ。

 絶対にここから抜け出して、三人を無事に日本に帰す。私がここにいるのが、三人が無事に帰れる証明じゃないか。でも、パラレルワールドのように時空がゆがんで別の次元があったとしたら、三人が無事に帰れる証明ではなくなってしまう。


 考えよう。ここから抜け出して、無事に帰れる方法を。

 小指にしている婚約指輪を見る。シュアに助けを求めれば、もしかしたら抜け出すきっかけを作ってもらえるかもしれない。でも、シュアに助けを求めて、そのあとどうなるのだろう。おそらく、恩師と同じ目的で政府の過激派が昴たちを狙っている。

 シュアは政府の最新技術開発室に勤めるエンジニアだ。助けを求めたとして、彼の職は、今後は、どうなるのだろう。ドームの政府に楯突いて、生活できるのだろうか。

彼のキャリアがすべて無駄になる。悪くて犯罪者にさせてしまう。大切な人の未来を潰したくない。


すべてを投げ捨てて私を助けてと、言えるはずがないよ。


「シュア……」


 もしかしたら、二度と会えないかもしれない。そう思うと胸が苦しくなる。最後に会ったとき、幸せにすると言ったのに、できなくなってしまってしまうと思うと辛かった。




 ベッドに寄りかかり今後の事を考えているといつの間にか寝てしまっていたようだ。誰かがかけてくれた、掛布団をどけて起き上がる。すでに昴と愛美と陽菜が起きていて、何か話し合いをしていた。難しい顔をして話し合っている三人に嫌な予感以外しないのは、今までの事を考えると仕方がないことだと思う。

「おはよう。何を話していたの?」

「おはよう、アーネ。俺たち、ここを抜け出す方法について話をしていたんだ」

 私は三人のそばに行く。

「言い忘れていたけれど、ここ、監視カメラもあるし音声向こうに聞こえるようになっているから、話していた事はすべて筒抜けだと思う。日本語も、恩師は理解できるの」

「ええ、そのことを想定して、ちゃんと対策は取っているわ」

「日本語じゃなく、英語の会話ってやつ。俺たち三人しかわからない言葉だろ」

 得意げに言う三人に、確かに第三の言語で話していたら、向こうに会話の内容が分からないだろう。

「どんな内容なの?」

 三人は顔を合わせて首を横に振る。

「今ここでアーネに言ったら実行できなくなりそうだから、言わない。でも、この作戦は危険を伴うから最後の手段にする」

 昴が真面目な顔をして言う。

「言わなければ、アヤメに聞くからいいわ」

 私が覚えている英語なんてほとんどないけれど、口調から読み取れるものもあるかもしれない。

「あー。ずるい」

 私がアヤメに近づいて、寝ている間の事を聞こうとすると、昴と愛美が私を止める。

「だめ、内緒なの」

「危険なことを考えているのなら、それが何のか言ってくれないと、私がどう動けばいいのか分からないわ」

「わかった。いうよ。まず、食事を持ってくる人に毛布をかぶせてやっつける。それから、武器を奪ってやっつける。襲ってくる奴らをやっつけながら、武器を奪って逃げる」

 昴が考えそうないかにも短絡的な行動をあげてくるので、信じてしまいそうだが、昴のこの顔、嘘をついている時の顔だ。

「そう」

 私は頷いて納得したような顔をして二人の手を離させる。

「アヤメ、昴たちが起きてからの言葉を再生して」

 私はアヤメにわかるこちらの言葉で命令する。アヤメは元気よく返事をして、起きてからの昴たちの会話を再現し始めた。

「わぁぁ。ダメだって!」

 昴がアヤメの口を手でふさぐ。


 その時、何かが破壊されたような爆音とともに、地面が揺れた。さびれたホテルの天井から、ほこりが降ってくる。

 爆弾が降ってきているような爆音は、一度だけではない次々と何かが破壊される音が聞こえて、地面がその都度揺れた。

 昴たちにしゃがむようにいい、上から落ちてくるものから頭を守れるように、布団をかぶせた。私はアヤメに手伝ってもらいパイプベッドを一つ破壊して、武器になるものを作る。片腕ほどの長さの棒を手に入れて、構える。音に起きたラッテに、動かないように伝えて今起きている現状を把握するために、扉に手をかけた。



「リーダー!」

 私が手をかけるよりも先に扉が蹴破られた。

 見ると特別事故処理班の一班の人が居た。戦闘服を身に着けて、私を見つけると一瞬ほっとしたような顔をしてすぐに気を引きしめた。

「怪我はありませんか?」

「大丈夫よ。状況を教えて」

「リーダーがマフィアに連れ去られたと報告を受け救出に着ました。DKが地下を襲撃中です。五分以内に脱出します。急いでください」

 DK、あの殺戮マシーンが地下を襲撃しているのなら、マフィアも逃げることしかできないだろう。通常売られているデータの防御シールドを張っていても無駄だ。特殊班が使う防御シールド並みの強度がなければ、すり抜ける弾を使う。

 この地下にいるマフィアを殲滅させる気なのだろうか。あの殺戮マシーンは危険すぎる。

 それほどまでに、私たちの救出を大事なことと考えているのだろう。だが、それだけ利用価値のある者とみられていると思うと喜ぶことはできそうにない。

 これは、この混乱に紛れて、逃げることがいいかもしれない。


「ブレスレットを奪われたの、彼らに防御シールドをお願い」

「了解」

 私たちのやりとりを心配そうに見ている昴たちを安心させるように笑いかけて、彼らに続いてここから脱出すると伝える。

 一班の三人に周囲を守られながら、昴たちと共にホテルを脱出した。周りから聞こえる戦闘音に悲鳴に人が焼けている匂いがする。昴たちが怯えた顔をしている。こんな光景は見せたくなかった。

「リーダーこちらです」

 一班に続いて上を見ると地下に大きな穴が開いていた。ドームの空が見える。戦闘機に乗るように言われて私たちはそれに従った。

 全員乗り終えると、戦闘機は地上へと舞い上がる。


 椅子に座りながら、どのタイミングで一班の三人を気絶させて戦闘機を乗っ取ろうかと考える。まさか、私が襲うと思わない三人なら、やれる。

 一班の三人には悪いが、昴たちを実験道具にさせるわけにはいかないのだ。


「リーダーこれを」

 一班の一人が私にブレスレットを差し出す。手にあったのは、シュアから借りているブレスレットだった。マフィアの部屋から、私がつけていた物を発見したので持ってきたという。感謝を述べてから私は受け取り。モニターを呼び出し、壊れているところがないかチェックする。発信機系の物がすべて壊されていた。

 もしかしたら、発信機さえ壊せば、転売できるとでも思ったのかもしれない。私がインストールしているシステムはドームの人でも限られた人しか使えない特殊なものが多いので高値で売れると思ったのだろう。

 でも、これは本来私のではない。シュアのブレスレットだ。私仕様に整えてくれているから、シュアにしか使えないシステムもこの中には入っていない。

 武器となりそうなシステムも、電気ショックぐらいしかないようだ。これでは、特殊班の防御シールドに対抗はできないだろう。


「リーダー」

 一班の一人が静かに私を呼び、目で今はダメだと伝えてくる。二十四歳の茶色の髪に藍色の瞳の彼は、私が特別事故処理班のリーダーに就任した時に班に配属してきた。ある事件で、私が彼のミスを助けてから慕ってくれていた。かわいい部下で、目をかけていた一人だ。

 もしかしたら、彼が私に安全ルートのメールをくれたのかもしれない。

 小さく手でサインを送ってきた。合図をするからその時に、行動を起こせという、サインだ。

 ちらりと、他の一班を見ると、私たちの動きを見ないように他を見ていた。あぁ、どうやら、他の一班も私たちを逃がす気でいる。

「救出作戦ありがとう、あなたたちが来てくれて助かったわ」

「いえ、リーダーがご無事で何よりです」

「迷惑をかけてしまいましたね」

これから、一班から逃げるのだから、さらなる迷惑をかけると言う事を暗示させて言う。

「いえ、リーダーに今まで助けていただいた恩返しができる機会があり、我々は幸運です」

 そんなに、助けたかしらと、苦笑いする。まぁ、特別事故処理班に配属されてからいろいろなことがあったなと、一瞬よぎってもう一度、一班の人三人そして、この会話を聞いている、特別事故処理班のすべての人に向けて、感謝を伝えた。




 戦闘機が本部の屋上に着陸する。

一班の人たちが先に降りて、私もそれに続いた。これから、この戦闘機をジャックして逃げるので、昴たちにはまだそこに座っているように言う。


 降りた先に、生物兵器対策班の司令と、その部下数名、他の特殊班の人も数名いる。完全包囲という感じだろうか。一歩だけ降りてその場から動かない私を不審そうに見ていた。

 私は、何人もいる人たちの中にシュアを発見して、彼を見ていた。私を見て優しく微笑む彼はゆっくりと私に歩み寄ってくる。


 私を心配して、彼らに協力して救出作戦を立てたのだろうか。また心配をかけてしまった。でも、少し違和感を覚える。こんな時、彼が笑って近寄ってくるはずがないからだ。

「シュア」

「アーネ、君が、無事でよかった」

 ざわりと、鳥肌が立った。何か言い知れない不安が広がる。なぜだろう、シュアなのに、私の最愛の人なのに。

 一歩また一歩と近づいてくる、私はシュアがこちらに来ないように手を前に突き出して静止させた。



 いままで、バラバラだったものが、私の中であてはまっていく。


 なぜ、昴たちは施設を脱走しようと思った?

『渡りのモノは高く売れる』

 その言葉を聞いたから、では、施設の人が本当に人身売買をしていた可能性は? 行方知れずになっても、誰も気に留めない渡りの子供だ。マフィアに売ることを考えた施設の人が居てもおかしくない。

 私が気にかけていたからと言って、私にそこまでの権限はない。私もまた、行方知れずになっても誰も気に留めない渡りの子だからだ。

 私が、保護され大切に扱われていたのは、マフィアのボスである恩師が裏をまわしていたのではないだろうか。


 なぜ、施設から脱走できた?

 監視カメラを壊したと、昴たちは言っていた。でも、この技術の発達したドームに、たかが子供に壊される強度の監視カメラがあるだろうか。それに、昴たちが壊せる監視カメラは目に見えて分かるものだけのはず。ドームの施設内にこれ見よがしに置いてある監視カメラなどない。子供に、それも日本に居た子供にすべての監視カメラを破壊できるはずがないのだ。

 誰かが、脱走に手を貸したとしか思えない。


 脱走してきた昴たちを私が保護することは容易に想像ができるはずだ。


 スライムの襲撃地点がなぜ、シュアの屋敷の近くだったのか?

 スライムに飲み込ませて本当に渡りの子に、生物兵器の耐性があるか確認したのだ。


 なぜ、アヤメが誤作動を起こし、シュアの屋敷から昴たちを外に出すという事をしたのか?

 前日、アヤメのシステムをシュアと共に整えた。あの時、シュアが昴たちを外に出すようにアヤメのシステムを変えていたのなら、納得がいく。


 飲み込まれたラッテ、彼女にも思い当たる節が出てくる。


特殊班の会議ではドーム外の幻の住人だろうというのが有効な説だった。

 だけど、一つの可能性が私の中で浮上していた。DNA検査した時、引っかかったDNAが存在した。ありえないことなので除外して考えていた。だが、この一連の騒動でその可能性が大きくなっていた。

 私のDNAだ。

 彼女は私のドーム外に耐性があるという部分を真似て作り出した、クローンなのではないだろうか。二十二年前に来た、私のクローンが十五歳ぐらいでもおかしくはない。

 だから、彼女は私がドームの外に落ちたと話してから、私に一目会いたかったと言ったのだ。


 すぐそばに、被験体がいればDNAも採取しやすかっただろう。


 病院でのラッテの自殺騒動は、特殊班が手を貸しているのなら、屋上の鍵を開けておくことも、飛び降り防止装置を解除することも可能だろう。


 ラッテが私と接触する前に死んでいれば、こんな事態にならなかったはずだ。

 昴たちの行動がもっと大人しければ、こんな事態にはならなかったはずだ。


 ラッテは、私がいつも監視されていると言っていた。

 私の右手の小指にはまっている婚約指輪。これは、緊急事態にシールドを張ることのできる高機能が付いている。そんな仕様になっているのなら、発信機ぐらいついていてもおかしくない。


これほど近くにいれば、誰も疑いもしないだろう。



「ねぇ、シューアム・ローレンス。いつから、あなたはそちら側なのかしら?」


 銀色の少し長めの髪を後ろに一つに縛り、スーツの上に最新技術開発室の白衣を上に羽織っている。深緑色の瞳がゆっくりと細められて、ほほ笑むシュアが悲しいほど綺麗に見えた。


 今まで大切にしていた物が、崩れていく。

 ねぇ、私の勘違いだと言って。馬鹿だと、考えすぎだと言って。

 早く結婚したいと、子供が欲しいと言っていた言葉に他意はないと、お願いだから、そう言って。


 ねぇ、シュア。



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