一話
ニノドームにある研究室で時空の歪をセンサーが感知し、けたたましいサイレンの音が異常事態を研究室内の者に達に知らせていた。
画面と睨みあいをしていた私も、その音にすぐさま反応して椅子から立ち上がった。腕につけているブレスレットを確認する。
ここ一週間の張り込みどろり時空に歪が出来たのだ。
「どの研究室?」
「第十二空間歪研究室です! リーダー」
「第一警戒態勢。各自防護シールド発動させて。一班、レイザー銃装備、捕獲弾を持って、第十二空間歪研究所に向かいます。ニ班モニターで状況報告、三班各部署に通達。以上速やかに行動してください」
私の言葉にスタッスは速やかに行動を開始する。私はブレスレットを操作し防御シールドを発動させて、第十二歪研究所に足を向ける。
「渡りでしょうか」
「第十二ラボだからそうかもしれない。危険生物かもしれないから、気を引き締めて」
六人からなる一班の尖鋭達を引きつれて私は、第十二空間歪研究所室の扉の前に立つ。白い扉の前に、モニターを呼び出し中の映像を映し出す。
『空気正常。危険物ありません。生命反応、三。人型』
ニ班から報告を受ける。
「中に入ります」
「はい」
扉に触れず横に指を滑らせると扉が開いた。魔法陣の中に三人の十三から十五歳ほどの子供が倒れている。
「再チェック」
指を三人の方に向けると淡い光が三人を包み込み、体をスキャンする。再度倒れている三人に此方に危害を加える可能性がないか確認する事は大切なことだ。変な病原菌を持っていないか、血を採取して確認する。
『再チェック終了。危険物無し、有害病原菌ゼロ。人型、生後約5200日、男一人、女二人。知能あり、言語機能あり』
一班の張りつめた空気が少し和らぐのを感じる。私も少しだけ気を抜く。いつだか、獣が渡りをした時はいきなり襲いかかってきた。今回はそんな事はなさそうだ。
「人型が来るなんて珍しいですね」
「えぇ。この前、来た渡りはバクテリアの進化系だったものね。異常は見られない様だから、覚醒させましょう」
私は、少年たちに一定の距離を取った場所から指を向けて、軽い電気ショックを与えた。人が覚醒するだけの電気ショックだ。痛くはない。
「んぅ」
少年が目を覚ます。癖のある波打つ黒髪の少年は、幼いながらに意志の強そうな眼を私に向ける。辺りを見渡し、足元に倒れている、他の少女達に呼びかけている。
「*******!」
少年の話す言葉は私たちが使っている言葉と違うようで、一班の人たちが困惑している。
「第二班、言語データ483を参照してみて」
『了解』
少年が他の二人を起こす。一人は大きな愛らしい栗色の瞳の少女、もう一人は少し垂れ目の焦げ茶色の瞳の少女だ。三人は何か話し合い、それから三人共大きな声で此方に何か訴えて来た。
「認証できそう?」
『分析語源が不足しています』
もう少し喋らせないと言葉の解析が上手く出来ないみたい。
「少年たち、少し落ち着きなさい」
「**********!!!」
「************!」
「******。********?」
三人が一斉に何かを訴えてくるが解析がまだうまくいっていない為、良く理解が出来ない。
『解析完了。データ転送します』
「有難う」
いつもながら、我が研究所の第二班は優秀だわ。ブレスレットからデータが読み込まれ、脳内に反映された。
「お前達! 俺たちを勇者に仕立てるつもりなんだろ!」
「私! 巫女になんてならないんだから! 結婚もお断り!」
「何でもいいから、家に帰してくれない?」
えっと。言葉を理解した私は、困って首をかく。なんだか良く分からないが、三人は混乱しているようね。
「落ち着いて。話しを聞いてほしいの」
「言葉が通じている! 魔法だな」
「これで、間違いないわね」
「そうね」
三人は顔を合わせて何か確認し合っている。
「いきなり召喚して、俺たちを、勇者にさせるつもりなんだろ!」
癖のある髪の少年が私に人差し指を差し出し、怒鳴り付けた。何を言っているのか良く分からないけれど、人差し指を向けるのは大変危険な行為だ。何故なら、私達が使うブレスレットは指の動きと言葉に寄り発動させる。指を動かすだけで起動するシステムもあり、この世界に生きる者なら、まず絶対にしてはいけない行為と習う。
そして、その危険行為に反応して私の後ろに立っていた、一班の人達が瞬時に捕獲弾をいつでも発動できるように手にかけていた。私は片手を上げて一班の人にその必要はないと、指示を出す。
「勇者とか良く分からないけれど、そう言うモノにさせるつもりはないわ」
「じゃあ、召喚しておいてポイ捨てか!」
「召喚もしてないんだけど」
「嘘だ! どう見ても怪しい魔法使いが、国を守る為に俺たちを召喚したって感じじゃないか! その、白いローブとか、いかにも怪しい集団だろ」
私達が着ている物は、研究所の白衣で、危険分質を跳ね返し、汚れも付きにくいと言う優れもの。それにこの白衣は内側にポケットがいっぱいついていて機能性も優れている。研究所に入る時の制服なのでこの白衣を着ているのだが、怪しい集団と言われるとちょっとショックだ。
この研究所の白衣可愛いと結構人気の服なのに。
「私達は魔法使いじゃなくて、ドームのスタッフなの」
「!? 人体実験に使う為に地球の俺たちを召喚したんだな!?」
「いや、だから、召喚はしていないって」
「騙されないわよ! どうせ、人口が少ないとか、女の子が少ないとかで私達を呼んで、子供を作らせる気なんでしょ!」
「子供? 子供に子供は産ませないわよ。法律で夫婦以外が子供を作る事を禁じているわ」
「やっぱり! 無理矢理結婚させるんでしょ! 王様とか、王子のお嫁になれって言うんでしょ! そういう予言が出たんでしょ!」
「予言? 王様? 渡りの子が何で王様と結婚することになるのよ。さっきっから、貴方達混乱し過ぎだわ。ちょっと落ち着きなさい」
「女神が俺にチートな能力を授けたはずだ。だから、愛美、陽菜、こんな怪しい奴ら俺が倒してお前らを、無事に日本に返してやるからな!」
少年が、愛美と陽菜と呼ばれた少女を庇うように立つ。
「女神?」
どうやら、渡りの影響か少年たちは激しく混乱しているようだ。さっきっから言語はあっているはずなのに、理解できない事ばかり言っている。
「いでよ、聖剣!!!」
少年が天高く手を差し出して高らかに言う。一班と私はその様子をポカンと見つめてしまう。
「せいけん?」
「昴、何も起きないけど」
「つー。クソ、力が封印されているようだ! いいか、こいつらを驚かせるから、その隙を見てあのドアから逃げるぞ」
昴と呼ばれた少年は、二人に小声で言っている様だが、この部屋には監視カメラにマイクが仕込まれていから、こちらには筒抜けだよ。
「行くぞ!」
「うん」
三人はこちらにも分かりやすい合図を出し合う。何をするつもりなのだろうと、私と、一班は身構える。
「グラビィテイィライト!!!!」
昴は端末機械を取りだして、フラッシュ機能を此方に向けた。防御シールドを予め張っている私達にフラッシュの眩しさは通じない。
全く動じていない様子の私達に昴達三人は驚いている。首を軽くかいて、息を吐く。
「わかった。とりあえず、お茶でも飲んで、ゆっくり話しましょう。私達は貴方達に危害を加えたりしないと約束する」
「こ、こいつら人間じゃない……。きっと魔王の手先なんだ」
「どうしよう、魔王ルート!?」
「魔王の手先に屈したりしない!」
「人間です! 妄想広げてないで、いいから黙って、人の話を聞きなさい!!」
妄想の激しい三人を一喝して、騒いでいる三人を黙らせる。後ろの一班の人が滅多に怒鳴らない私が怒鳴って、吃驚してざわついているが気にしてはいられない。
「私はアーネ、特別事故処理班のリーダーよ。ここは時空の歪を研究している場所なのよ。世界の歪をこの研究所の二十ある研究室に集めて、調節を行っているの。時空の歪はどの世界にもあり、歪の生まれやすい場所にいると落ちると言う現象が起きるわ。運が良ければ別の歪に出て、運が悪ければ、歪の中をさまよい続ける。ここは、貴方達が居た場所とは違う次元の世界。貴方達は時空の歪に落ちたの」
「歪ってなんだよ」
「世界に元々存在するモノよ。目に見えるモノではないから、天災の様なものだと私達は捉えているわ」
「私達、家に帰れるの?」
「帰れるわ」
「本当!?」
私が断定して言うので三人の顔色が良くなる。
「今から七日後、同じ様に歪が出来るからそこに入れば帰れる。だから安心して」
「本当に。本当に帰れるの?」
「ええ。必ず、同じ時刻同じ場所に元通りに帰れると保障するわ」
「なんで、そんな事が断言できるんだよ」
疑り深い昴は私を、軽く睨みながら言う。
「私が、そうするからよ」