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十五話


 病室に戻り四人に話を聞こうと思った。だが、みんな疲労していた。それもそうだ。愛美、陽菜、派手な髪の少女はスライムに取り込まれていたし、昴はスライムと戦った。そのあと、起きた飛び降り騒動だ。疲れていないはずがない。時計を見ると三時を回っていた。

 今日はとりあえずもう寝るように言う。明日に改めて、起きたことについて詳しく聞くことにした。特別事故処理班の二班の三人と合流し、ハックされていたかの情報を聞く。どうやら外部からのハックがあったようだ。でもどこから入ったハックなのかうまい具合に情報が消されていた。

 明日、そのことについてもっと詳しく調べてみようと話がまとまり解散となった。

 シュアには屋敷に帰ってもらおうと思ったが、私が病室に泊まると聞くと一緒に残ると言ってきかなかった。もう三時を回っているので、帰るのもつかれるかもしれない。病室には四つベッドがある。私と女の子たちがベッドを使い、シュアと昴は別の開いている病室を特別に借りることになった。

 昴がとても嫌がったが、「女子の病室で男が寝るな」とシュアが問答無用で連れて行った。昴の拒否ぶりに、アヤメも連れてってもらおうとしたが、シュアに過保護とにらまれた。


 女子だけになった病室の電気を消す。病室の電気は完全に消えなく小さな明かりが残っているが眠るには支障ない。明日に備えてもう寝よう。ベッドにもぐりこんで寝ようとすると、私の隣のベッドに潜っている陽菜が声をかけてきた。

「ねぇ、アーネさん」

「何?」

「翻訳機ってブレスレット以外の形であるんですか?」

「あるわよ。耳元に近いほうが聞き取りやすいとかで、イヤリングにする場合もあるわ」

「さっきはブレスレットしていませんでしたが、翻訳機はつけていましたか?」

 あ、しまった。私、日本語で話しかけられたときは日本語で答え、こちらの言葉で話しかけられたときはこちらの言葉で返すようにしていた。昴と愛美がブレスレットをしていない時、私のブレスレットが壊れた後も、日本語で話しかけられたら日本語で答えていた。

 もともと、愛美と陽菜には私が昴を兄といったところを聞かれていたかもしれない。私が日本語を理解できると、確信しているのだ。

「いいえ」

 誤魔化すことはいくらでもできる。でも、私は正直に答えた。

「アーネさんも渡りなんですね」

「そうよ」

「そうなの?」

 愛美がベッドから飛び起きて私の方によって来る。愛美は気づいていなかったのかもしれない。愛美は陽菜のベッドの横に座り、陽菜は体を起こして私を見た。私はベッドに横たわったまま二人を見ていた。

「アーネは日本人顔だもんね。なんとなく、見知った顔に似ているとは思っていたけど。日本に帰れなかったの?」

「ええ。私はドームの外に落ちたから、歪を計算するだけの機材のないところに出たの。だから、戻ることができなかった」

「ドームの外……」

 愛美だけではない、派手な髪の少女の声が二つ重なる。私は体を起こして、派手な髪の少女を見た。彼女には日本語がわかるシステムの入ったブレスレットを渡してある。派手な頭の少女の素性を知るために昴たちと仲良くしてほしいからだ。昴たちを利用するともいうだろうが、彼女に何かあるならば、知る必要があるのだ。

「ドームの外に興味があるの?」

 派手な髪の少女は体を起こして私を見ていた。少女は私と目が合うと、あわてた様子で首を左右に振り布団の中に潜った。

「アーネ、ドームの外ってどうなっているの? ドームっていうけど、ここ太陽も星も見えて外と同じように感じるよ。これは映像なの?」

「ええ、一つの都市を完全に囲っているの。太陽も星も全部映像よ。本当の太陽も星もここからは見ることができない。ドームの外はね、危険が多いの」

「どんな?」

「今日いた、スライムあれみたいなのがいっぱいいるの。それに、細菌兵器ってわかる? いろいろなところに仕掛けてあるらしいわ」

 愛美と陽菜がお互いの体を抱き合って震えている。スライムに飲み込まれた恐怖を思い出してしまったのかもしれない。暗い中でもわかるほど、血の気が引いている。

「怖いところなのね」

「そうよ。だからドームの外に興味を持ってはダメよ」

「行きたいとは思わない」

「うん。怖いもの」

 愛美と陽菜が頷きあっている。

「アーネさんは何歳の時、こっちに来たんですか?」

 陽菜が聞く。

「六歳の時よ」

「苗字はなんていうんですか?」

 陽菜がまっすぐと私を見る。

佐藤彩音さとうあやねよ」

 陽菜がやっぱりとつぶやき、よく理解できていない愛美が私の顔を見て驚いている。

「私の従妹で、昴の妹の彩音ちゃんですよね?」

「そうよ」

「え、よくわからないんだけど。なんで、彩音ちゃんなの? 彩音ちゃんは洞窟内にはいなかったでしょ? どうして巻き込まれるの? でもだって、六歳の時に来たって。今、二十八歳なんでしょ? おかしいでしょ?」

 愛美が混乱している。

「三人が洞窟内に入って、一度消えたのを見たわ。それから。十分ぐらいしてから、三人は戻ってきたの。戻ってきた三人が家に向かって走っているのを見た。そのあと、洞窟内に興味で入っちゃったのよ。そしたら、歪に落ちて時空もねじれていたのね。今から二十二年前のドーム外に落ちたの」

「本当に彩音ちゃん?」

 愛美はいまだに信じられないように見ている。

「愛美、覚えていないの? 三日前にお菓子を包んでいた赤いリボンで彩音ちゃんの髪を結んで遊んだでしょ。そのリボンをしていたから、初めから不思議に思っていたの」

「あぁ。赤いリボンしていたね」

 愛美が思い出して手を叩いた。私が持っている唯一の日本の物だ。服も懐中電灯もドームの研究者に渡したけれど、何か一つは残したくて、髪を縛っていた赤いリボンだけは残した。普段から付けているわけではなく、渡りのある時願掛けのように、赤いリボンをするようにしていた。

「マダムルルのお菓子のリボンなんてこっちにあるのは変だし、昴に罵られたとき悲しそうな顔していたし、私たちのこと保護してくれるから、何かあると思って。映像見たとき、昴のこと兄って言っていたからそれで、もしかしてって見ていたの。初めは、私たちを利用しようとしている人かとも思ったんだけど、そうでもないようだし」

 陽菜がたまに私を見ていたのはそういうことだったのね。

「なんで、黙っていたの?」

「私は、帰ることができないから。それを昴に言ったら、怒りそうでしょ?」

「なんで帰ることができないの? 私たちと一緒に帰ればいいじゃない」

「来た時と同じ数値で帰らないと、歪をうまく利用してもとに帰ることができないのよ。私が三人に混ざって一緒に帰ろうとしたら、三人とも歪の中を彷徨うことになる」

「でも、彩音ちゃんが家に帰らないと、お母さん心配するよ?」

「そうね。でも私はこっちで幸せに暮らしているの。そのことを伝えてもらうために三人には無事に帰ってほしい」

「本当にあの彩音ちゃんなの?」

 愛美はまだ信じられないようだ。

「あの、泣き虫で、無謀で、我儘で、駄々をよくこねていた彩音ちゃんなの?」

「愛美が私をそんな風に思っていたなんてショックだわ」

「だって、すっごく大人っぽい。切れ者お姉さんって感じになると思わなくて。時空を超えるって本当にあるの? 従妹が従姉になったって感じで変な感じ」

「渡りを戻した後で不安定だったのよ。そこに入ったから、二十二年前に落ちたのよ」

麻紀まきおばさんにそっくりでしょ? それに、昴と同じくせっけ」

 陽菜が言うと、愛美は私の顔をじっと見つめる。そして納得したようにうなずく。麻紀おばさんとは私の母のことだ。

「ほんとだ。麻紀おばさんを若くして、昴を足したような顔している。本当に彩音ちゃんなんだ……」

「二人にはお願いがあるの。昴にはまだ秘密にしてほしい。昴が、私を彩音だと知ったら面倒そうでしょ?」

 二人は顔を見合わせて、確かにという。

「彩音ちゃん、結婚してラブラブだもんね。それは、帰りたくないよね」

「うん。旦那さんかっこいいもんね」

 二人が納得して頷いている。

「まだ、結婚してないんだけどね」

「え、だって、シューアムさん彩音ちゃんのこと奥さんって言ってなかった?」

「婚約中なのよ」

「同棲中なんだね。ねえ、いつから付き合っているの? 出会いは? 付き合って何年目? 結婚式いつするの?」

 愛美が次々と質問してくる。恋愛話に目がキラキラ輝いている。陽菜はどこから出したのか、手帳を手に私の話を聞こうと目を同じように輝かせている。恋愛話に盛り上がる年頃だよね。

「寝なくていいの? もう四時だよ」

「大丈夫、コイバナは別腹だから!」

「そうそう、男どもがいない時しかできないし。教えてよ!」

 のりのりの二人だ。テンションが上がっている二人を見て、それから、向かいに寝ている派手な髪の少女を見る。寝ているように寝息を立てているようだが、この呼吸のリズムはまだ起きている。話に興味があるのか、先ほどよりも乱れていた。

「しょうがないな。これ聞いたら寝るんだよ。それにここで聞いたことは女同士の話でほかには漏らしちゃだめだからね」

「うん」

「わかったよ」

 元気よく頷く。布団に入る前に疲れ切っていた顔がうそのようだ。


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