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十三話


 スライムの中から解放されて気を失っている愛美と陽菜と派手な髪の少女を病院に搬送した。昴も念のために検査をしてもらう。付添いにはアヤメに行ってもらう。このアヤメは、屋敷の中で待機していた。昴たちを見るように頼んでいたのに、どうして機能しなかったのだろう。何か誤作動があったのかもしれない。あとで、調べることにしよう。


私は、生物兵器対策班の指令に一通り苦情を言った後、特別自己処理班に戻りスライムが破壊したものなど、事故の処理を開始する。

 もともと、ドームの外にいるはずのスライムがドームの中にいること事態おかしな話だ。誰かが作為的に、スライムを放ったとしか思えない。その辺についても、ドームの監視カメラなどを確認して調べる必要がある。

 深夜の一時までどこからスライムが来たのか検証と、ドーム内の被害についての会議が行われていた。仕事に熱中しすぎて時間を忘れていた。昴たちを病院に入れたままだった。会議中は完全に外部との連絡ができない。なのでメールや通信履歴を見ることができなかった。メールを確認するとアヤメからの報告が何件か上がっていた。

 今日はこのまま、病院に泊まるべきなのか指示がほしいと八時ごろに入っていた。最後のメールは一泊させてもらう事にしたという。シュアからもメールが入っている。私が忙しいようだから昴たちを迎えに行くということだった。

 時間を見ると、アヤメの方が遅い。どちらにしたのだろうと、シュアに通信の入れてみる。深夜の一時半だが、シュアなら起きているだろう。

 コール一回でシュアはすぐに通信がつながった。

「シュア、ごめんね、仕事が忙しくて」

「いいよ。そっちは落ち着いたか?」

「今日はとりあえず解散になった。また明日検証することになったよ。昴たちはどうしている?」

「マナミとヒナは後遺症もなく大丈夫だが病院においてきた。ひと騒動があってね。俺じゃ手におえない」

「何があったの?」

「スライムに取り込まれた、派手な髪の少女を覚えているか? 彼女は記憶喪失らしい」

「それは報告を受けているけど、それと昴がどう関係してくるの?」

 神経麻痺を起す毒素がスライムにはあり、一時的にショックで記憶を失うこともある。毒素が入らないように抗生剤のチップをつけたが、間に合わなかったのかもしれない。それに彼女は、身体に異常は見えないのだが話すことを拒否している。

 会議中にも彼女の話は出ていた。ドームのデータベースに記録がなく、ドーム外に生息するスライムに追われていたという少女。どう考えても怪しい。

 

「スバルが彼女を庇うんだ。検査一つするのにも、無理やりするなと」

「それは、邪魔ね」

 検査を拒否しているとは知らなかった。

「一緒に居たいって、守るとでも言ったの?」

「あぁ」

 頭痛がしてきた。あぁ。手に取るように昴が少女を庇う様子がわかる。無理やり屋敷に連れていくわけにもいかず、昴たちを病院においてくるしかなかったのだろう。

「わかった。ありがとう。私、病院に行ってみるね。先に寝ていてね」

「俺も行くかい?」

「大丈夫。無理そうなら、私も屋敷に戻るわ」


 シュアとの通信を切り、私は病院に向かった。

 病院の前にタクシーで着くと昴たちの位置を知るために、手のひらに彼らの位置を病院の地図上に浮かび上がらせる。

 なぜか、陽菜だけ屋上にいる。昴と愛美は十二階の病棟にいる。なんで陽菜は屋上にいるのだろう。この時間なのでもう寝ていると思った。それに、病院の屋上が解放されていることに疑問に思う。入口の真上だ。不思議に思い三十階建ての病院を見上げた。暗くてよく見えない。

 よく耳を澄ませば、風に乗って何か聞こえてくるような気がする。

 とにかく上に行ってみよう。そう思っていたら、暗い屋上で何かが光ったのが見えた。その光が落ちてくる。私はその正体を知るために明かりを周りにつけた。

 周囲が少し明るくなる。でも、よく見えない。落ちてきたものが地面にぶつかり、破片が飛ぶ。その正体を見ようと光を向けると、見覚えのある破片が見えた。昴が持っていた携帯端末だ。そのあと、腕が降ってきた。むき出しの肩から外れたような腕だ。地面で弾み私の足元に来た。

 これ、配線が見えるということはアンドロイドの腕だ。


そう思っていたら、声が聞こえてきた。

「きゃー!」

 甲高い声が落ちてくる。落ちてくる?

 それにこの声は愛美の声だ。愛美が屋上から落ちたのかもしれない。愛美の位置は十二階の病棟のはず。いや、この位置表示は彼らが持っている、ブレスレットから位置を出している。もし、ブレスレットをしていなく、病棟においているだけならこの表示されている位置は正しくない。

 愛美だけが落ちているのだろうか。降ってきたアンドロイドの腕に、昴の携帯端末が落ちてきたということは、彼もそばにいるはずだ。昴の性格を考えて、愛美だけが落ちてくるとは思えない。アンドロイドのアヤメが持てないほどの重量が落ちていると考えたほうがいいだろう。


おそらく、二人が三十階建ての病院から落ちている。何が起きたのか分からないが、受け止めなければ二人とも死んでしまう。

 システムを起動させて、二十メートル付近に網目状になるようにネットのようなものを組み上げる。落ちてくる二人の重量を計算すると、システム機能を全開にすればぎりぎり受け止めることができそうだ。防御システムの応用だから、受け取る人を傷つけないようにするのは難しい。それでも二人なら何とか受け止められるはずだ。

 

 私が作り出した明かりに、人影が見えてくる。病院の入口の明かりも伴い姿がだんだんとはっきりとしてきた。昴の手に抱かれている少女がいる。愛美ではない。三色の髪に染めた派手な頭の少女だ。

 と言う事は落ちてくるのは三人だ。

 私が装着している二つのブレスレットの機能を使って、二人までなら助けられると計算できた。でも、三人は無理だ。重量がありすぎる。跳ね返すことはできる。でも受け止めて、傷つけないようにするのは無理だ。

 もう三人はすぐそばまで落ちてきている。判断する時間が足りない。無理でも受け止めるしかない。


 昴と派手な髪の少女が落ちてきた。私が作り出した網に包まれるように、受け止められる。網目が十五メートル地点まで落ちる。ブレスレットに予想以上に負荷がかかっている。ブレスレットをしている右手首が熱い。

 そのあと、愛美が落ちてきた。先に落ちていた昴と少女の上に落ちる。十メートル地点まで網目が落ちた。ブレスレットから煙が出ている。限界だ。システムを維持できない。ブレスレットを今すぐ外さなければ、爆発する。ブレスレットは限界以上のことをすると、その負荷によって壊れるというより、ナノマシーンが噴き出るのだ。

 でも今外せば、落ちてきた昴たちが十メートルあたりから落下することになる。

 もっと、下におろしてからじゃないと、外せない。熱暴走を起しているブレスレットは熱い。燃えるように右腕が熱い。

 ゆっくりと地面に三人を下していく。だが、もう限界だ。二メートル付近でシステムが崩壊し、ブレスレットが爆発した。


 吹き飛ぶブレスレットがゆっくり見える。外すことができなかった。二人を、こんなところで死なせるわけにはいかないからだ。

 右手首が吹き飛ぶ。血が、止まらない。


 はずだった。でも、ブレスレットが吹き飛ぶと同時に、右手の小指にはめていたシュアからもらった婚約指輪が光ったと思うと防御シールドを編み出した。

 防御シールドが発動したことにより、噴き出したナノマシーンで傷つくことがなかった。痛みを覚悟していたが、起きなくほっとする。と同時に昴たちの無事が気になった。


 三人に駆け寄る。


「な、君が死ぬはずないって言っただろ?」

 昴が、派手な髪の少女を抱きしめて言っている。何を言っているのか良くわからない。ブレスレットが壊れたのでシステムを使うことができないが、昴も、愛美も、大きな怪我はしていないようだ。

 派手な髪の少女は、子供のように大泣きをし始めて、それを昴が慰めている。

 愛美を見るとそんな二人を見ると、上から二人を抱き込むように抱き着いて一緒にみんなが無事でよかったと、泣き始めた。なんだこの状況。少女が飛び降りたのを、二人が助けようとして落ちてのだろうか。

「なんて、危険なことしたのよ」

 私の声に、昴と愛美がこちらをみる。声が震えているのがわかる。もし、私がいなければ二人は死んでいた。三十階建ての病院から飛び降りるなんて、信じられない。

「俺には女神の加護があるから絶対、大丈夫なんだよ」

 何言ってんの? 私が必死で、システムを操作したから三人は助かったんだ。頭痛もするし、火傷で皮膚がただれた右手首が痛い。

 得意げに笑う昴をぶん殴りたくなった。震える手を握り締めて、立っていられなくなりその場に崩れるように座る。

「死ぬところだったのよ。私が、たまたま来たから、助けられただけで、死んじゃうところだったのよ?」

「アーネ?」

 視界がぼやける。涙がぼろぼろこぼれてくる。三人を無事に日本に帰したいそれが私の、唯一の願い。なのに、昴は危険に自分から突っ込んでいく。

 本当に死ぬかと思った。怖かった。

「女神なんていない。もしいたとしても、なんで昴を加護しているのよ! 馬鹿じゃないの!? 自分がどれだけ、特殊な存在だと思いあがっているの! いい加減にしなさいよ!」

 怒鳴り散らすと、昴と愛美が驚いた顔をする。

「あなたたちが死んだら、お母さんたちがどれだけ悲しむと思っているの? おじいちゃんやおばあちゃんだってどんなに後悔するか、わからないの? もっと自分を大事にしなさいよ!」

 私はもう、日本に帰ることは無理だ。どんなに会いたいと願っても両親にはもう会えない。私がいなくなったことを両親は、どれだけ悲しむのだろうと、いつも思っていた。だから、昴たちが来たら必ず帰れるようにしたかった。帰ることのできない私の代わりに、両親のもとに無事に帰ってほしいそれだけが、唯一の願い。

 それをまったくわかっていない。私が彩音だと言わないから? だから事の重大さがわからないの?


「アーネさんが見えたから、大丈夫だと思って……」

 後ろから陽菜の声が聞こえた。屋上から急いできたのだろう、息が切れている。その後ろに片腕のないアヤメもいる。

「ごめんなさい。その子が屋上から飛び降りて、昴が捕まえたの、でも引き上げるだけの力がなくて、アヤメと愛美と私もひっぱたんだけど、持ち上げられなくて、身動きが取れなかったの。そこに、車から降りてきたアーネさんが見えて。アーネさんなら、受け止めてくれると思って。スマホを落としてこっちに気づかせて、それから腕も限界だから、一か八かで……」

「受け止めてくれるって、私はこの高い病院から落ちてくる人を捕まえられる超人だと思ったの?」

「うん。ほら、三人とも無事だったでしょ?」

 陽菜が、遠慮がちにいう。確かに無事だった。無事だったが、それでいいのか? 私の右手首が悲惨なことになっているのですけど?


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