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十二話

 スライムの中は催眠効果のある液体を放出している。シールドを張った状態の私と、昴には利かないが飲みこまれて最悪の気分になった。ぬるりとした粘膜を通る。スライムに飲みこまれるなんて、最悪だ。

 ずるりと飲みこまれて下まで着く。中は一メートル四方の空間になっている。その壁に愛美と陽菜が赤い色の粘膜に包まれるようにいた。二人のほかに一般人と思われる人が一人飲みこまれていた。

 身体スキャンを行い、三人の生命反応を確認しほっとする。どこも怪我はしていなく、気を失っているだけの様だ。

 生物兵器対策班の司令に連絡を入れて、一般人含め三人飲み込まれていると報告する。

 昴は二人が息をしているのを見て心底ほっとした様に息を吐く。

「まだ、生きている。良かった。アーネは大丈夫か! 俺が今ここから皆を出られる様にしてやるからな!」

 兄よ。力強く言うが、私がここにいるのはお前が原因だ。だいたい中から出るのがどれだけ難しいか分かっているのか。捕虜を入れる為の袋になっているここは、簡単に破れるものではない。昴が飛び込んで来なければ私達は飲まれる事なんてなかったのに、頭痛がしてくる。

 伸びて来る粘膜に持っていた麻痺銃を撃ち込み動かなくさせる。

 中から出るのは難しい。下手に攻撃をすると酸が出て来て私達を溶かす様に出来ているからだ。愛美達が包まれている粘膜を無理矢理引き剥がしても、酸が出て来て溶かされる。今は酸素があるが、酸素も送られなくなる。シールドのある私と昴は酸素に困る事はないが、愛美達が酸欠で死んでしまう。

 ビームソードで攻撃しようと構えていた昴に理由を話して、攻撃をやめさせる。

 今出来るのは、麻酔銃でとりこまれる事を防ぐぐらいだ。でもこれもあまり激しく遣ると、酸を出される事になるので程良く遣らなければいけない。


「このまま、喰われるのを待つのかよ!」

「違う。外でスライムを動かなくするまで待つのよ」

「同じじゃないか」

「喰われる事はないから違う」

「アーネは落着き過ぎている! この状況で、助けを待つだけしか考えないなんて間違っている!」

「スライムに喰われるのは二回目だから、慌てていないのかもしれないわね。訓練生の時に、スライムの中に入る訓練があるのよ。どう対処すればいいか実践で学ぶの」

「これは訓練じゃない!」

「そうね。もしも、本当にヤバくなったら、この爆弾を起動させるわ。そしたら中から出る事が出来る」

 私はブレスレットを指差す。これには、緊急事態に使う爆弾だ。威力が強いので、防御シールド全開にしても全員を守る事は出来ないので、腕や足を諦めなければいけないだろう。幸い、再生技術は発達しているので、一カ月ぐらい治療液に浸かれば治す事が出来る。

 でも、これを使う前に解放されるとは思う。全特殊班が出動しているのだから、救出に一時間かからないはずだ。

 実際、スライムの動きがだんだん鈍くなってきているのがわかる。

「爆弾があるならさっさと使ってここから出られるようにしたほうがいいんじゃないか?」

「これは、緊急用だから使えないわ」

 一般人の身体のチェックをさらに行う。この一般人はいつから飲み込まれているのだろう。

「昴この人が飲み込まれるところは、見た?」

 十五歳ぐらいの少女だ。今はやりの音楽バンドと同じように髪を三色に染めていた。派手な頭の少女の身元を確認する。

「俺たちが化け物を見つけた時に、追われているようだった。助けようとしたら、目の前で飲まれた」

「そう」

 データベースと照合するが、身元が出てこない。おかしい。ドームで生まれた人は皆政府のデータベースに記録されるはずだ。血を採取してさらに調べてみるが、やはり身元が分からない。

 スライムの毒素にやられる可能性があるので、私は持っていた抗生剤のチップを取り出した。小指の先ほどの小さなチップには針がついていてこれをつければ、毒素から身を一時間は守ることができる。

「それは?」

 派手な髪の少女の首筋につける。

「抗生剤、スライムに取り込まれていると、神経をダメにする毒素が出されるの。それを体に取り込ませないようにするためのもの」

「愛美たちは大丈夫なのか!?」

「私たちは大丈夫」

 そう、なぜかと言われると返答に困るのだがなぜかドーム外の生物に私たちは耐性がある。私がドームの外に落ちた二十二年前ちゃんと生きていられたのはその、耐性があったからだ。昴、愛美、陽菜の血も採取して耐性があるか検査している。

「この子がどのくらい予防注射しているのか分からなかったから、念のためにするものよ。昴たちにはあらかじめ打ってあるのだから大丈夫よ」

 眉間にしわを寄せて私をみる。

「変な薬を俺たちに打っているってことか?」

「変なものは打ってないわ」

「発信機とか体に埋め込まれたりしてないだろうな?」

「してない。昔は体に埋め込んでいたらしいけど、今はほら、こんなブレスレットにしているのよ」

 世界大戦中は体にいろいろな発信機を埋め込んだり、装置を埋め込んだりしていたらしいが、発信機を埋め込んでいるものを爆発させる兵器を作った国があり、何万という人が死んだ。それ以来、機械を人に埋め込むのをやめて取り外しができるブレスレットに変えている。指輪やイヤリングやネックレスにする場合もあるが、ブレスレットのほうが取り外しが楽なのでこの形が多い。

「昔ができたなら、今だってやろうと思えばできるってことだろう」

「やろうと思えばできるけど、昴たちにそこまでの技術を使う価値があるの? 六日には戻る人にそんなことするだけ時間の無駄でしょ」

「……研究とか」

 私を疑うように見つめる昴を鼻で笑う。

「そんな研究は時間の無駄」

 昴は自分が特別な何と思いたいのかもしれない。だから、勇者とか、よくわからないことを言い出すのだろう。でも、ただの渡りの子供にそんな価値なんてものないと思う。私が実際感じたことでもある。だから変なことを考えるのをやめてほしい。

 昴は少し、残念そうな顔をしてから愛美たちの様子を見ていた。

 スライムが大きく揺れた。それから、沈むようにスライムの中が倒れてくる。このままだと、スライムの体につぶされて圧迫死する。私は、システムを起動して中の空気圧を操りこの中だけはつぶれることのないように保つ。

 どこの馬鹿だ。外でスライムを殺したやつがいる。スライムは殺したら中もつぶれて動けなくなるというのは常識だ。だから麻酔銃で眠らせるのだ。私は中の様子を通信でしらせる。外と連絡を取り、状況を聞く。


 生物兵器対策班の司令官がスライムを始末するように命令をしていた。外で暴れるスライムを手っ取り早く始末したかったという。それに、中に私がいるから、圧迫死するはずがないと判断したらしい。

 だからといって、一般人もいると伝えてあるのにそんな危険なことをするのが信じられない。

 まだ、ドームの外に蹴りだしたこと根に持っているのか。根に持つ男は嫌われるのに。だから、三十歳になっても彼女ができたことないんだよ。腹癒せにここから出たら、司令官の訓練時代の恥ずかしい過去を部下の前で披露してやろう。




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