十一話
三十二号線に着くと、信じられない光景が目の前に広がっていた。幾つもの特殊班がスライムを囲みながら対策を取っているその中に。
昴が、昴兄ちゃんが、四メートル程の大きさのスライムと戦っている。
生物兵器対策班と共にだ。むしろ、生物兵器対策班の邪魔にしかならないだろと思うが、なぜか、生物兵器対策班のブレスレットを装備し、ビームソードを使って戦っている。
何故、ビームソードなんて危険なものを持っているのだろう。あれは、近距離戦しか出来ない緊急事態しか使う事のない武器だ。この技術が発達したドームでは、中距離戦はあっても近距離戦なんて危険な事はしない。生物兵器対策班はレイザー銃で中距離からスライムを攻撃している。
これではまるで、昴がスライムの囮じゃないか!
私がしなきゃいけない、スライムに破壊された場所の確認や、消毒指示をサブリーダーに押しつけて、生物兵器対策班の所に駆け寄った。
生物兵器対策班の司令を見つけて話しかける。怒鳴り付けそうになったが、それは何とかこらえた。生物兵器対策班の司令である男は三十歳で細身の男だ。
「生物兵器対策班の司令官。あの少年はなんですか。未成年にあんな危険な事をさせている理由を教えてください」
「やあ、アーネリーダー。事故処理班はこんなところで油を売っていていいのか? 自分の仕事をしてはどうだね」
私をちらりと見ると、司令官は軽くあしらい、ブレスレットを使い戦っている特別兵器対策班に指示を出している。
少しだけ後退した頭で黒髪をオールバックにしている司令官とは、昔からそりが合わない。訓練学校で、飛び級した私が彼よりいい成績を修めて常に主席だったからだ。ずっと、彼は次席だった。訓練学校時代はねちねちねちねちと、会うたびに嫌味を言われていた。もちろん、私は言い返した。
「私の保護している少年だと分かっていてやっていますね」
「ほぅ、アーネリーダーと同郷の少年というのは彼か」
「わざとらしい。どういうつもりです。今すぐ彼をスライムから遠ざけるように指示を出してください」
「彼は自ら望んで戦うと志願した。従妹が飲みこまれたと」
「い、とこ、が飲みこまれたですって!?」
私はブレスレットを操作して愛美と陽菜の所在を確認する。最悪な事に二人の居場所が、スライムがいる位置と同じだった。
「飲みこまれてどのくらい経ちますか?」
「我々が到達した時すでに彼一人で戦っていた、そこから判断するに二十分は経っているだろうな」
スライムに飲みこまれても直ぐには死なない。スライムの性質は人を丸飲みして一時捕虜として捕獲するのだ。約一時間捕虜としてその後指示がなければ、栄養素に変えて自らを大きくする。指示と言うのは、大昔の世界大戦で生物兵器を作り出した国が何らかの方法で出していた様だが、現在その国はなく、資料も全て破壊されている。解放させるには、スライムを倒して中から取り出さなければいけない。
スライムと戦う昴を見る。怒りにまかせてビームソードを振っていた。目には涙が浮かんでいる。早く、愛美と陽菜を救出しなければいけない。
「囮役が必要なら私がやります。彼を下げてください」
「君は特別事故処理班だろう、職務を逸脱している。持ち場に戻れ」
「では、特別事故処理班としてスライムの処理をさせていただきます」
特別事故処理班でやれる事をやる。それなら問題ないのだろう。もちろん、生物兵器対策班の邪魔はしない。一緒になってスライムと戦えば指揮系統がぐちゃぐちゃになって効率が悪くなるだろう。だからそんな事はしない。
ただ、各特殊班の代役をやるのも特別事故処理班の仕事だと言う事を忘れてほしくない。生物兵器対策班が全滅、もしくは使えないと判断されれば、指揮権を剥奪できるのだ。
「おい、アーネなにを考えた。俺をドーム外にけり出した時と同じ顔をしているぞ」
訓練学校の時の事を未だに根に持っていた様だ。あまりに、ねちねち嫌味を言ってくるから、訓練学校時代ドームの周囲を警備しているその時、ドームの扉を開けて、ドーム外にけり出して遣った。ドームは二重になっているので一つ外に出たぐらいでは死にはしない。でも、ドームの中で育った彼はパニックになって泣き叫んだ。冷静になれば、ドームの扉を開ければいいだけ何に、彼はパニックで出来なかった。私が十八歳、彼が二十歳の時の話しだ。
「わかった、アーネリーダーが囮をかってでると言うのなら、俺は構わない。ただ俺の指示には従え」
「了解」
私は特別事故処理班に連絡を入れる。私は生物兵器対策班の要請により、最前線に立つ事になったと、一時的に生物兵器処理班の指揮に入るのでサブリーダーに従うようにと伝える。隣で、司令官が要請じゃなく脅迫だと言っていたが気にしない。
防御シールドを起動させて、スライムと戦う昴の隣まで走っていく。
「昴、後は私に任せて下がって」
「アーネ! 愛美と、陽菜が喰われた! 俺が敵を討つ!」
昴に怪我がないか確認する。防御シールドがうまく作動されているようで、怪我はしていない様だ。
スライムの攻撃を避けて、昴が切り込む。柔らかい分質で出来ているスライムは窪むが、切られてはいない。スライムは柔らかいが表面が特殊で固い膜で覆われている。容易く切れるものではないのだ。直ぐに元通りになり、酸を吐いて攻撃してくる。昴と共に避けて、酸を吐いてくるスライムの両脇から生物兵器対策班が攻撃を仕掛けている。固い膜を破壊する銃は細胞組織を溶かす事が出来る。解けた部分に麻酔銃を撃ち込み眠らせるのが一番良い。
私の役目は、スライムの囮役だから、無意味な攻撃を繰り返せばいい。そうすれば、一番に私を攻撃してくるのでその隙に、生物兵器対策班が麻酔銃を撃ち込んでくれる手はずになっている。
「昴じゃ足手まとい、どきなさい」
昴の腕を掴み後ろに突き飛ばす。そして、持っていた銃を構えてスライムに向けて打ちこむ。この銃は手のひらほどの大きさで小さいけれど、威力は車一つ吹っ飛ばす事が出来る。反動があるが、そこは防御システムを使い上手く調和させる。
スライムに一メートル程の大きなくぼみが出来る。これ以上強力な銃を使うと、中にいる愛美達に影響があるので、スライムが私をターゲットにするぐらいのこの威力が丁度いい。
スライムが私をターゲットにして襲って来た。シールドをはり防ごうとした。このくらいなら簡単に押さえられるという目測が出来ていた。
なのに。
「危ない!!」
そう言って昴が飛びかかってきて、私の前に立った。シールドを一度解いて、昴も防御範囲に指定し直さなきゃと、システムを組み直していたが、間に合わなかった。
二人して、スライムに飲みこまれてしまった。




