プロローグ
プロローグ
星が煌めく夜空の下を、三人の子供が生い茂る草をかき分けながら歩く。虫と蛙の鳴き声を背に、懐中電灯を片手にある場所に向かっていた。
夜になると苦しそうな男のうめき声が聞こえると言う洞窟がこの先にある。一人は自信ありげに、一人は恐がりながらもどこか楽しげに、一人は興味なさそうに暗い森の中を歩いて行く。
「ねえ。本当に、出たらどうしよう」
「大丈夫だって。幽霊なんて存在しないからさ」
「そうそう。もし出てきたら、その時はもちろん全速力で逃げるしかないでしょ」
「陽菜について行けば逃げられる気がする。ちょっと安心した」
「でしょ」
「おい、俺は?」
「昴は幽霊がでたら話しかけそうだから嫌」
「そうだね」
「話しかけたりしないって」
「じゃあ、一番に私達置いて逃げそう」
「ありえる」
「おい。俺はそんなに弱い奴に見えるのかよ」
「見える」
「そうだね」
「愛美が掴んでいる俺の腕、陽菜が掴んでいる俺の服の裾。今すぐ振り払うぞ」
「御免なさい。昴は頼りになる従兄です」
「すみませんでした。昴ちょーたよりになる」
「分かればよろしい。って、お前らどっちも棒読みすぎるだろ」
軽口をたたきながらも、三人は洞窟に向かうが後ろから、何かがついて来ている様な音が聞こえて、三人は驚いて振り返った。
懐中電灯を音のする方に向けると、赤いリボンで髪をとめた六歳程の女の子が顔を出した。
「彩音、驚かすなよ。付いてくるなって行っただろ」
「私も、行く」
彩音と呼ばれた少女は昴達三人を見つけると嬉しそうに近寄った。三人は困ったを見合わせて、息を吐く。
「お母さん達心配するでしょ、彩音ちゃんはお爺ちゃんちでお留守番ってしなきゃだめでしょ」
「なんでー。あやねも行く。昴お兄ちゃんと行く!」
「彩音、これは十四歳になった俺たちの試験なの。まだ六歳の彩音は留守番って言っただろ。ほら、まだここからならじぃちゃんち見えるだろ。帰れよ」
「いや行く!」
「我がまま言うな。俺達についてきたら、もう一緒にトイレに行ってやらないからな」
「えー」
「肩車もしない。おやつも分けてやらない」
「いやだー。でも、暗いから、一人じゃ帰れない!」
彩音がぐずり始めて、昴は困ったと首をかく。
「一回帰って、彩音をばぁちゃんに預けて来てもいいか?」
「でも、今行かなかったら、お姉ちゃん達帰ってきちゃう。洞窟行けなくなるよ」
「そうだよ。皆が買いものに行っている時しか、洞窟の写メ撮れる機会ないんだから」
「そうだよな……。彩音。ほら懐中電灯やるから、一人で真直ぐ帰れたら、洞窟の写メ見せてやるよ」
「やだ。あやねも洞窟見たい!」
「我がまま言うなよ。ほら、持てよ。俺の鞄の中に入ってる黒曜石やるから」
「いいの?」
「あぁ」
「じゃあ! あやね一人で帰る! おっきいの貰ってもいい?」
「あれは後で槍を作ろうと思ってた奴だからダメ。丸い黒曜石あったろあれ、やるから」
「ぼこぼこのだね! いいよ。あやねあれ好き!」
彩音は懐中電灯を持って祖父の家に向かい歩き始める。三人は懐中電灯の光が遠くなるのを見送って、また洞窟へ向かう道なき道を歩き始める。
懐中電灯を彩音に渡してしまったので、今灯りになるのはスマホのライト機能だ。
「彩音ちゃんちゃんと帰れたかな」
「一本道で家が見えてるんだから帰れない方が不思議だろ」
「そうだね」
しばらく進むと、小さな洞窟にたどり着く。
スマホのライトで洞窟を照らして前に立つ。風が吹くと洞窟が反響するように唸り声の様な物が聞こえた。薄気味の悪いその音に三人は小さく悲鳴を上げる。
「……じゃあ。中に、入るぞ」
「本当に入るの?」
「やめない?」
「大丈夫だって。行くぞ」
昴が二人を先導して中に入った。スマホの灯りを頼りに中に入った。何枚か写真を撮る。
「ねえ、もう、帰ろう」
「そうだよ」
「そうだな」
三人が洞窟から出ようとした時、地面が波打つような揺れを感じた。
「きゃあぁ!」
三人は身を寄せ合いながら、悲鳴を上げた。
洞窟が揺れる。その下から淡い光が見えて揺れが更に激しくなる。三人はお互いを強く抱き合いながら、次の瞬間その場から消え去った。
「なに、今の……。昴お兄ちゃん? 愛美ちゃん? 陽菜ちゃん? 何処行ったの?」
帰ったと見せかけて三人を後ろから付けていた彩音は、三人が居たはずの洞窟を懐中電灯で照らし茫然と見つめていた。