8現目『美しい花には棘ではなく、茨(いばら)がある』
【猫柳構成】
「なら教えてくれる? 本当のことを」
絞められていた首は解放されたが、柚菜が詰問する。
しかしこの状況じゃどう考えても拷問だ。
質問は既に拷問に変わっているんだ。
白状しなくてはいけない。
しかし事実を白状するのは、やっぱりははばかれる。
素直に「つばさ様の下僕になりました」と言った翌日には、僕だけでなくご主人様の身も危ないかもしれない。
だからこそちょっとだけ、ほんのちょっとだけ嘘を混ぜて説明しよう。
嘘も方便。きっとお天道様だって許してくれるさ。
「わかった……言うよ。変な女に追っかけられたのは、本当だ。それを同じ入学生の鷲尾が自分を犠牲にして俺を助けてくれてたんだ。その後、逃げる為に使ったその持ち主、空条の自転車を本人と一緒に探したから、時間がかかって入学式に遅れたんだ」
うん、嘘はついてない。下僕の事は言っていないけど。
「そうなんだ。なら明日から私と一緒に登校しましょう。零は私が守るから」
「それはいいよ。柚菜に変な女達から、危険を巻き込ませるわけにはいかない」
我ながら随分と都合がいいデタラメを言っていると思う。
本当はつばささんに仕えている姿を見られたくないのが理由なんだ。
でもこれもトラブルを避ける為だ。
「大丈夫、私は一緒に登校したいの。それとも私と一緒に登校に行くのは、嫌?」
「あぁ。柚菜を危険に巻きこみたくないからな」
「心配してくれてありがとう。でも私はいいの、あなたを守れるなら」
一度断ったのに全く引く素振りを見せない。
柚菜のやつ、どうしても俺と登校する気か。
でも俺も引く訳にはいかない。
断らなくてはならないんだ。
「もしかして、まだ嘘ついているの?」
しかしこの質問で俺の心臓がぎくりと跳ねた。
これ以上下手に断ったら下僕である事をさらっと言ってしまいそうだ。
それは明日柚菜と登校するよりも都合が悪い。
今は仕方なく了承するしかなさそうだ。
「う、嘘はついてないよ。ただ一緒に登校するのが小学生以来だから緊張するんだ」
「そうなんだ」
「柚菜は可愛いもんな。異性として緊張してるのかもしれない。でも……どうしてもというなら」
「わ、わかった……一緒に登校しようね」
ようやく柚菜の表情が明るくなった。
自分が異性として見られてる事に驚いて、恥ずかしそうに俯いて頬を紅潮させる。
俺は思わずその柚菜を可愛いと思ってしまった。
どきりと心臓が打つ。
しかし、俺は同時に罪悪感に襲われた。
俺はこの柚菜を裏切っている事になるんだ。
その事に俺は居たたまれない気持ちになるが、ただ苦笑を漏らす事しかできないのであった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【焔伽構成】
翌日。
朝日が登りだして来た早朝、時間で言うと5時30分頃だ。
僅かに寒さも残るが、それも昼になる頃には夏のような暑さになっている。
俺はベッドから起き上がり、春暁の朝を満喫していた。
と、言うのも、俺は朝日が射し込むベッド横の窓から外を見ると、そこにはカーテンこそ閉まっているがシルエットで柚菜が着替えているところだと言うのが分かる。
シルエットから連想する柚菜の在られもない姿。
「……柚菜、顔立ちやルックスは成長したのに胸だけはノーマルなんだな」
今日の俺はブッ飛んでいた。自分で言うのも何だけど。
決してヤケクソなどではない!
理由もちゃんとある。昨日の出来事の全てだ。
【※つまりヤケクソである】
何もかも放り投げて、何か暴れたい気分だったのだ。
だが……柚菜のアレな状況を想像すると罪悪感が沸いてくる。
ただで際、柚菜には隠し事をしてしまったという罪悪感があるのに……。
俺は目を瞑り、考える人のポーズ(手だけ)を取っていると━━━、急に寒気がした。
「殺気!?」
目を開くと柚菜の部屋のカーテンは窓ごと開けられていて、そこには涙目+頬を紅潮させて振るえている柚菜の姿があった。
制服を着ていて、黒い上下服に白い線が入っている。
制服としてみるには、珍しい色分けかもしれない。
そこに赤色の柚菜の表情が加わって、素晴らしいコントラストが描かれている。
「な、何見てるのよ……零!(恥)」
「ご、誤解だ!まずは話を聞いてくれ!(汗)」
我ながら非合理な発言である。
誤解でもなんでもない。事実だ。故に話など言い訳にしか過ぎない。
勿論、それに気付いている柚菜さんは━━━。
「やぁっ」
そんな可愛い掛け声と共に、窓の段差を踏み台に外へジャンプして━━━━━━柚菜はまさかの空中での方向転換を行い、飛び蹴りの体制で俺をロックオンして飛び込んできた。
(あ、俺死んだ……)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【猫柳構成】
俺は死を覚悟したが、その先には純粋無垢の希望の場所……まさに男の理想郷があった。
魅力的な脚の先にアガペーが見えた。
つまり、下着、パンティー、パンツである。
柚菜の麗しい下着が露出しているのである。
「白……」
俺は引導を渡されようとしているにも関わらずそう呟くと、柚菜が動揺して攻撃の軸がぶれた。
風を切りながら近付いてきていた右足が、外側に……俺から見て左側にずれたのである。
こうしてなんとか飛び蹴りの直撃は免れた訳だが、足が外側にずれた事に問題があった。
柚菜の右足が、俺から見て左側にずれた訳だから、当然避けた事にはならない。
当たり前に右足の代わりにぶつかる場所があるのだが、その場所は――。
ドガシャーン!!
そんな大きな音が部屋に響いた。
俺はベランダから部屋に吹っ飛ばされ、倒れている。
体が痛むが、それよりも気になる事があった。
顔面に何かが覆い被さっている。
覆い被さっていて、温かくてぷにぷにと程よく柔らかいものが頭を挟んでいる。
顔を塞がれて何も見えないが、俺は何となく、フィーリングで、俺が長く追い求めてきたものだと悟った。
それは太ももだったのだ。
覆い被さっているのはスカートで、柔らかいものはニーソックスとスカートの間、つまり絶対領域だったのだ。
ところが、急に太ももの筋肉は固くなった。
太ももの持ち主である、柚菜が本気で力を込め始めたのである。
「へんたいーッ!!」
「待て!これは事故━━━!」
事情を説明する事も叶わず、柚菜は俺の首の後で両足をがっちりと組み、チョークスリーパーの容量で、俺の首をぎりぎりと極めた。
スカートの中にはオアシスに辿り着いたような幸福があるのだが、行われている事が有罪判決死刑執行という矛盾を俺は受ける。
気分だけは幸せでも痛覚が絶頂しようとしている俺は、徐々に目の焦点が合わなくなってきていた。
瞳孔が上を向き、何とも無様で滑稽な表情をしていたのだ。
「食らえー!」
柚菜の声と共に、俺の体は宙に浮く。
柚菜が両足を首で捕らえたままバク転したのだ。
そのバク転はまさに曲芸。
サーカス団員も驚く鮮やかさで回転し、その勢いを使って柚菜は俺を床に叩き付けた。
『ぺおぱーッ!!』
『to be continued』




