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愛の花   作者: 暴風圏
9/11

第8話 彼の話をすると悪魔が出る


まーたまた遅くなりました。

やっとこさ8話ですね。


もう冬なのに夏の話です(笑)

 初夏、暦のなかでは大体五月から六月ぐらいの頃をいう。暖かいとも暑いとも思える気候は素晴らしく過ごしやすい。

 幻想郷のどこかにある「ゆうかりんハウス参号」ことこの花畑は今日も白日青天、もとい白日晴天の良い天気だ。

「さて……」

 対して幽香の心はモヤモヤと曇っている。曇天である。先日の神社での一件、どうすべきかを悩んでいた。

『私もこういうことは初めてだしわからないけど本人が自分を人間と思っているのなら"今回のこと"は言わないほうがいいかもね』

 あの後霊夢に言われたことを思い出す。魔理沙は頭を抑えてしばらくゴロゴロしていた。(前話参照)

 当然だ。何百年という単位で生きている幽香でさえもこんなことは初めてなのだ。たかが十代かそこらの少女が初めてでないわけがない。

 だからこそだ。幽香は悩んでいる。それはもうかつてないほどに。

 "今回のこと"というのは神社での一件、つまりは彼が自分の影を使ってマスタースパークを防いだ事だ。

 前に獅子舞妖怪に襲われた時に見た再生能力や今回の影を操る力などを考える限りではやはり彼は普通の人間ではない。そして困ったことに本人はそれを自覚していない。

 どう説明すべきか、というよりと知らせたほうが良いのか。霊夢にも言われたが詳しいことがわからない現状で下手にそれを知らせるのはどうなのか。

 もしかしたら彼がパニックを起こしてしまうやもしれない。となるとやはり隠しておくのが得策といえよう。

「幽香ー!」

 ひとまず彼にはこのことを隠しておこう。

 呼ばれた幽香は一度考えをまとめて歩きだす。無論解決はしていない。だがそれ以外にはなかった。

「どうしたのー?」

 そういえば先程風に飛ばされた洗濯物(ベッドシーツ&枕カバー)を追いかけて走っていたがなにかあったのだろうか。

 少し歩くと幽香の視線の先に彼の後ろ姿が見える。小脇には丸めたシーツが抱えられている。







「見てみて! なんか俺影を動かせる!」

 幽香が盛大にズッコケた。





「どうかしたか?」

「いえ……気にしないで」

 華麗にヘッドスライディングをきめた幽香を彼は不思議そうに見る。立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花、ということわざがあるが四季のフラワーマスターともなれば転ぶ姿もまた華があるようだ。

「ところで影を動かせるって?」

 起き上がった幽香が尋ねる。

「ほらコレ」

 彼の後ろから何か黒い紐が現れる。黒色の絵の具に水を落としたような、どこか存在の希薄さを思わせる色合いの黒い紐だ。

 紐はまるで蛇のようにニョロニョロとうねり幽香の前でペコリとお辞儀をした。

「ああどうも……」

 おもわず幽香も頭を下げるが考えてみると影を動かしているのは彼である。顔を上げると影は海藻のようにユラユラと靡いていた。

「シーツを取ろうして手を伸ばしたら影が伸びたんだ」

「そう……」

 なんということだろうか。自分があれやこれやと悩んでいる間に原因である本人はなにやら器用に使いこなしていたのだ。

「ほらほら花も作れる」

 近くに咲いていた花の影を伸ばしその隣に影の花を咲かせた。本物のような色彩は無く、ただただ同じ見てくれをした黒い花だ。

「あら、影の花なんて始めてみたわ」

 しゃがみこんだ幽香がそっと花を撫でる。色は無いが指先に小さな命が伝わるのを感じた。

 きっとこの影の花もまた一つの命の在り方なのであろう。なんとなくだが幽香は思った。

「(前よりも魔族のにおいが強くなってる……)」

 獅子舞の一件以来、彼から感じる魔族のにおいが顕著なものとなってきた。自らに危険が迫ったり傷を負うなどをする度になにかリミッターが外れていくようなそんな気がした。

「あ」

 考えてみるとそういったことに詳しそうな知り合いが少なくとも二人はいる。どちらも奇人か変人かそれ以上か。そもそも人ですらないが。

 だがしかし人でない者のことを聞くのには好都合だ。

「餅は餅屋に、ね」

「ああ確かに餅みたいだ」

 幽香の呟きを聞いて彼が影を指で摘まんで伸ばす。どこまで伸びるのかはわからないが彼の呑気さの底もわからなかった。




 一歩踏み出すごとにベタついた霧が顔に当たる。しかし不思議と嫌な気分にならない。

 まどろむような白の霧に彼は少し不安になる。自分が今何処を歩いているのかを見失ってしまいそうだから。

 顔を上げると濃霧の向こうで輝く太陽が薄らとだが見えた。目をとじて太陽を見ているような、まるで白昼夢の中にいるような気がした。

 霧の中に伸ばした左手がギュッと握られか彼はそちらを向く。相変わらず何も見えない。

 ただ見えずともわかるのは霧の向こうで幽香が手を握ってくれているということ。迷わぬように、己を忘れてしまった自分を見失わないように。



「ホント、ここは霧が深くてしょうがないわね」

 幽香のうんざりとしたような声が聞こえた。といのもここ、霧の湖は昼間に訪れるとこのように濃霧に覆われてしまい一歩前も見えないのだ。(名前が先か現象が先か。妖精あたりに聞けばわかるかもしれないが、どうせあてにはならないだろう)

「どこに向かってるんだ?」

 霧の中を歩き始めてからだいぶ時間が経っている。聞いたところで彼はその場所のことなど知らないが。

「そろそろつくわ。……ほらね」

 突然霧が晴れる。まるでなにか目に見えない物に阻まれているかのようにある一定の場所からは霧が無くなっているのだ。

 霧が晴れた先には赤い壁が見えた。

「壁?」

「あら、間違えちゃった」

 霧の中から一歩踏み出すとようやく二人は顔をあわせた。彼と手を繋いでいる反対の手には愛用の日傘が握られている。

「……」

「どうしたの?」

 入り口は向こうよ、と歩き出そうとした時、幽香は自分を凝視している彼に気付く。

 見惚れているような、それとも単純にぼーっとしているのかわからない目だ。

「ん、なんでもない」

「そう?」

「うん」

 気を取り直して歩きだしたところで彼が口を開いた。お互い既に手は離していた。

「大きな壁だな」

 壁沿いに歩きながら右手でぺたぺたと壁を叩いた。壁は赤いレンガで組まれており、五メートルほどの高さがあるようだ。

「知ってる? 塀の高さとプライドの高さは比例しているの」

「そうなのか」

 別段疑うでもなく彼は歩みを続ける。

「でもウチには塀なんか無いぞ?」

「でもウチの周りにはお花がたくさん咲いているでしょう?」

 確かにゆうかりんハウス壱号と参号には特別、塀と呼べる物は存在しない。(弐号は木の柵で囲まれている)

 共通しているのはどのハウスにもそれぞれの季節に映える花々が咲いているという事だろう。

「うん」

「花というのはあんなに小さくても定められた季節を一生懸命に生きるでしょう。それはそれはとても気高いものなの。だから塀なんかよりずーっと素晴らしいわ。それに綺麗だし、かわいいし」

「そっか」

 恐らく彼は今の台詞で納得しているのだろう。実際、幽香の言うとおり花達は塀としての役割は十分に成している。

 仮に幽香の家の周りに咲いている花を誤って踏んでしまったとしよう。謝って済むわけが無く大惨事である。

 傷つけたとあればすぐさま幽香が飛んでくる。機能美の『美』の部分を強調しつつも外敵から家主を守る(或いは家主から外敵を守るとも)塀という意味では花達は何よりも強固で高い塀なのだろう。

 そんな話をしていると長かった壁にもようやく終わりが見えてきた。

「そこを右に曲がったら入口に着くわ」

 そして右折。彼がピタリと立ちどまる。

「……」

 角を曲がったそこにはなにやら奇妙なポーズで立っている女性がいた。緑色の帽子、衛兵のような服装から見え隠れする肢体はよく鍛え込まれており、腰まで伸ばした紅色の髪は霧の中からでも良く見えそうなほど輝いている。

 アキレス腱を伸ばしている途中なのだろうか? それにしては足はあまり伸びきっておらず、両腕は何かを抱えているような形をとっている。

「あの……」

「動くなッッ!」

 声を掛けようと彼が手を伸ばすと女性が突如鋭い声で怒鳴った。ビクリと肩を驚かせた彼の手が空中で止まる。

「……ぐぅ」

「え」

 鉄拳でも飛んでくるかと思いきや聞こえてきたのはまさかの寝息。よく見ると綺麗に整えられた前髪の下で瞼が優しく閉じられている。

 要するに寝言である。

「何この人」

「ここの門番さんよ」

 確かに彼女の背後には大きな門がある。門扉は花などの装飾がされているなどデザインはどこか洋風を感じさせた。

 そもそも門扉が寝ていて良いのか、という気もするが幻想郷がそれだけ平和なのである。

 その平和な幻想郷でわざわざ門番などやらされるというのは辛くないのだろうか。

「……崩拳……ムニャ」

 ポカポカした陽の下で昼寝する女は幸せそうなのでいいのかもしれない。

「さ、入りましょ」

 振り返ると門の横に備えられた小さな扉を片手で開けながら幽香が手招きしていた。恐らくここで寝ている彼女やその他この建物の関係者が出入りする為の扉なのだろう。

 幽香に続いて彼も扉をくぐる。彼の瞳に大きな屋敷が映った。

 塀のレンガ同様に赤い屋敷である。鮮やかな赤、いうよりかはと時の流れが生み出す深みのある蘇芳に似た色だ。

 作りは根っからの洋式というわけではないらしく、所々にアジア風の趣ある設計が成されているようだ。香港がまだイギリスだった頃はこのような建物が沢山あったのかもしれない。

 二人がいる庭園には数種類の花が花壇で育てられている。どの花も丁寧に育てられているのだろう、未だ門の前で寝ている門番のように穏やかに揺られていた。

「綺麗だな」

「ええ、とても丁寧に育てられているわ」

 土の状態や茎に集る害虫の駆除、果てはにおいと土の質感で感じる肥料の比率などちゃんと世話をしているようだ。幽香にはそれが一目でわかる。

 景観への配慮もあるのだろうが日の光をたっぷりと浴びれるこの位置も恐らくは花のためであろう。

「さてメイドさんはどこかしらね」

「メイド?」

 名残惜しげに花から目を離しゆ幽香はメイドの姿を探す。彼もキョロキョロと辺りを見回した。

 メイドを探す、というといかにも単体を指しているように聞こえる。このように大きな館なのだからメイドなど何人も居るのだろうに、だ。

 しかし彼は知らないだろうがこの館にはメイドという者は一人である。というよりそう呼べるぐらいに働く者が他にいない。

 なので幻想郷でメイドといえば皆大抵はその人物を思い浮かべるのだ。

「あの人か? メイドさんって」

 ほれ、と彼が指差した先には長い渡り廊下がある。手すりの向こうには洗濯物か何かを抱えて歩く一人のメイドの姿が見えた。

「あなた目が良いのね。あの人よ」

 幽香が手を振るとこちらに気づいたらしく荷物をその場に置いた。銀色の髪が遠くからでも良くみえる。

「なにか御用かしら?」

 そしてメイドは目の前に現れた。

「え? あ、あれ……?」

 あっという間にどころでは無い。瞬きをし終わった時には既に目の前に居たのだ。

 特に息が切れている様子もないので走ったわけではないのだろう。そもそも先程彼女が歩いていた廊下からどんなに頑張って走ったとしてもこんなに早くには着かないだろう。

「こちらのご主人様に会いたいのだけれど」

「……ウチの妖精メイドが貴女の花畑でなにか悪さをしたのでしょうか?」

「そんなことしたらこの館は今頃湖の底よ 」

「それもそうですね」

 クスクスと笑いあう二人の後ろで彼は困惑している。幻想郷に来て以来、色々と不思議な体験をしたが今回のことは本当に意味がわからなかった。

「そちらの殿方は……?」

 今気づいたのかはわからないがメイドは彼に声を掛けた。月光のように淡く美しい銀色の髪を三つ編みにし、薄く化粧をのせて整った顔つきの……ようするに美少女である。(美人といっても問題無いだろう)

「彼のことで話しに来たのよ」

 未だ困惑している彼の様子にメイドが微笑んだ。こうしていると大人びているというか淑女然としているが雰囲気としてはあまり垢抜けていないようなどこかすっとぼけているような、そんな感じ がした。

「かしこまりました。では少々お待ちを」

 言ってメイドは軽く会釈をして踵を返す。そのまま館の扉へと歩き始めたところで、彼が再び瞬きをしたその刹那に姿を消した。

「また……」

「御待たせしました」

 そして登場。全てが一瞬の間に起きている。

「あんまり長いものだから待ちくたびれちゃった」

 からかうように幽香が笑う。メイドも困ったように笑った。

「……」

 呆気にとられている彼の前にメイドが立った。彼の方がやや大きいが魔理沙や霊夢と比べると長身な方なのではないだろうか。

「ご主人様は貴方に興味があるみたいですよ」

「俺に?」

 別に興味をもたれるような覚えはない。

「それより……」

 コホン、と幽香が咳払いを一つ。チョイチョイと門の方を指差した。柵の向こうに見える門番の女性は相変わらず妙な体勢で眠っている。

「寝てるわよ? 門番さん」

「良いお天気ですからね。眠くなっちゃったんでしょう」

 太極拳っていうのをやりながら、と続けながらメイドは笑った。濃かった霧はいつの間にやら晴れていた。

「起こさなくて良いの?」

「あとで起こしますわ。痛いやり方で」

 あっさりと答えたメイドはその場で深くお辞儀をし、比較的彼へと向けてこう言った。

「ようこそ。紅魔館へ」

















「うにゃ……鉄山靠……」


というわけで8話でしたー。

恐らく年内で最後の更新ですね(笑)


タイトルの元ネタはとあることわざです。暇だったら調べてみてね。


では皆さん


よいお年を!

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