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愛の花   作者: 暴風圏
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第7話 盗賊は求める

博麗神社での一件から数日、彼と幽香は普段どおりのほほんと過ごしていた。

 最近では陽気も夏に近いてきたのか、外で花を眺めているだけで背中に汗が伝う事が増えてきた。

「あっつ……」

 本日もまた太陽に愛されているらしい。





「あら?」

 日傘を持ち上げて幽香が空を見上げるとそこには魔理沙が居た。空中で箒に股がり、ふわふわとスカートの裾を揺らしている。

「花を摘みに来たのかしら?」

「出かける前と寝る前には必ずトイレに行くんだけどな」

「意外に怖がりなのね」

 軽口を叩いたあと魔理沙は地面へと降り立った。箒を肩に預けて幽香に訪ねる。

「権兵衛はいないのか?」

「権兵衛?」

 キョロキョロと辺りを見渡すが視界に入るのは花、花、花である。

「だーかーら、俺は権兵衛じゃないっての」

 魔理沙が振り替えった先では権兵衛、もとい彼がふてくされた顔で腕を組んで立っていた。

「ちゃんと名前はあるんだよ。忘れてるだけで」

「私からすれば名無しの権兵衛だな。悔しかったら思い出してみな」

「……としあき?」

「結局名無しじゃないか」

 そんなことより、と魔理沙が切り出す。

「今は暇か?」

「すっごく忙しい」

「暇なんだな。じゃあ着いてこい」

 特に会話をするつもりは無いらしく魔理沙は彼の手をとって歩きだした。突然だったので彼も抵抗することもなく引っ張られていく。

「どこへ行くの?」

 それを見ていた幽香が魔理沙を呼び止める。それに足を止めることなく彼女は首だけ振り替えって答えた。

「散歩だよ。ついでに幻想郷を案内してやる」

 ふーん、と幽香は二人の背を見つめた。ぐいぐいと引っ張られながら彼も振り返り、行ってきますと手を振る。

 手を振り返しながら幽香が再び声をかけた。距離が離れるとなぜか間延びした話し方になる。

「人喰い妖怪に会ったらソイツ餌にして逃げちゃいなさいねー。美味しそうって評判だからー」

「わかったー!」

 元気に答える彼の前で魔理沙がズッコケたのを最後に二人は見えなくなった。

「そういえば……」

 日傘をくるくると回しながら空を見上げ、呟く。

「なんで帽子被ってなかったのかしら……。イメチェン?」

 どういうわけか本日、魔理沙はいつもの大きな三角帽子を被っていなかった。時折顔を合わせる時はいつも被っていたし、強いて言えば宴会の際に酒が入って煩わしくなったのか外しているところを見たことはあるだけでそれ以外に彼女が帽子をつけていないところを見た事がない。

「それはない、か……。それだと逆に存在感が無くなるだけだしなぁ」

 割りと失礼な事を考えながら幽香は視線を落とし、先程あの二人が歩いていった方を見つめ

「……あ、そういうことか」

 少しして気づいた。



「なぁ」

「んー?」

 先で歩いている魔理沙が振り返る。くるりと翻した身に合わせてスカートが揺れた。

 ここはどこかもわからぬ林の中だ。博麗神社の近くであることには間違いないが。

「どこまで歩くんだよ」

「行き先を決めちまったら散歩にならないぜ」

 そう言って彼女は再び彼に背を向けて歩きだした。うっすらと地面を照らす木漏れ日がちょっとしたステンドグラスのようにも見える。

「それはまぁそうだけどさ」

 正論といえば確かにそうなので彼は何も言えず魔理沙の後ろ姿を見つめた。

 意外、というか魔理沙は背が低い。先日会った霊夢と並んだ時にも感じたことだ。

 それを補うためなのかは知らないが彼女は普段大きな三角帽子を被っている。あまり見映えしない黒色だが付けられている小さな白いリボンが可愛いらしい、が

「そういえばおまえ帽子は?」

 本日はそれが無い。それでも十二分に愛らしいのだが、なんだか違和感があった。

「……落とした」

「落とした?」

 振り替えることなく魔理沙が答えた。それを追いながら彼が聞き返す。

「さっき急な風に煽られたんだ。多分その時にだな」

 トン、と担いでいる箒を肩で跳ねさせ魔理沙が続ける。愛用の竹箒だ。

「で、ついでだしおまえを連れて散歩でも、ってな」

 カラカラと笑い魔理沙が彼へと振り替える。ゆらゆらと後ろ向きに歩く姿は見た目相応の少女らしさがあった。

「よーするにだ。いろんなところに気を配りながら散歩してくれってことさ」

「……最初から「手伝ってくれ」って頼めばよかったのに」

 非難がましく彼が目を細める。

「私は借りを作らない主義なんだ」

 そう言うと魔理沙は再び背を向けて歩きだした。受付終了、という事なのだろう。

「ああそうかい……」

 溜め息を一つして彼は歩みを速くした。

 涼しい所に来れたので相子にしておくか。

 魔理沙の横に並んで歩き、帽子を探し始めたのだった。




 帽子捜索を始めて数時間が経過した。

「本当にこの辺に落としたのか?」

「ああ間違いない。この辺の空で落とした」

 未だに見つからない帽子を求めて二人は歩く。いつの間にか涼しい木陰を通り過ぎてしまい、今は太陽の熱烈なラブコールを受けている。

「ていうかここどこだよ」

「神社の近くだな。この辺で風に吹かれた」

 言いながら魔理沙は箒へ跨がった。既に地面からは少し浮いている。

「上から探すのか?」

「ああ。おまえも乗れよ」

「はいはい」

 言われるまま彼は魔理沙の後ろに座った。ちょうど自転車の二人乗りに近いのだろうか。

「じゃ、行くぞ」

 言うとすぐに飛び上がる。同時に彼は腹の中で内臓が浮かび上がったような不思議な感覚に襲われた。

 実際二人を乗せているのは一本の竹箒である。垂らした両足の筋肉に力が上手く入らず、なんだかこのまま千切れてしまうかのように思えた。

 さて、そうなると彼は少し怖くなった。それらの不快な感覚もそうだが空中に箒一本で支えられているのが不安でたまらなかったのだ。

「魔理沙……やっぱり下で探したほうが」

「なーに言ってんだよ。ほら探すぞ」

 止めようと肩を揺するが彼女は気にせずキョロキョロと地上に視線をやっている。

「(仕方ない、とっとと探す……か)」

 停止。

 下に広がるのはやや背の高い木々。少し先には神社。もっと離れた所にはなにやら町のようなものが見えた。

「あっ……」

 立ち眩みのような感覚に彼は一瞬退けぞってしまった。

 細い箒の上でふらついてしまった。つまりは。

「あ」

 そのまま重力に任せ落ちそうになる。

「わわわわわ!」

 即座に魔理沙の腰に手を回し体を支える……が。

「おい揺らすなって……うわわわ!」

 不意に掴まれたため魔理沙も体勢を崩してしまい、二人とも箒の上でガクガクと揺さぶられる。

「い、一度体勢を……」

 体勢を立て直そうと魔理沙は箒を握りしめ、振り子のように体を振った。それにより二人は再び元の体勢に戻った。

 しかし力加減を間違えたのか二人の体は箒を支点にしてぐるりと回転し、逆さ吊りとなった。

「ぎゃああああ! お、おろ……下ろしてぇぇ!」

「バッカ! 抱きついたら余計に揺れる……ってうおぁっ!」

 逆向きのロデオボーイと言ったところか。早く下ろせだのくっつくなどこ触ってんだよだのとギャーギャー喚きながら、そしてガックンガックンと揺られながら二人は飛んでいくのであった。




 さて、しばらく揺られた二人はようやっと元の体勢に戻ったらしい。慣れてきたのか疲れたのか彼も大人しく帽子を探している。

「あったかー?」

「無いなぁ……。やっぱりどこか遠くに飛ばされたんじゃ」

「そうだとしても幻想郷にある限りは絶対見つかるだろ」

「まぁ付喪神にもならないだろうしな」

「べつに捨てたわけじゃないぜ」

 などとやりとりをしている内に博麗神社の上空に着いた。境内に霊夢の姿は見えない。

「意外と霊夢が持ってたりしてな」

「ないない」

 そのまま降下。一度鳥居に足を着けて止まり、境内へと降り立った。

「おーい霊夢ー」

 箒から降りた魔理沙が霊夢を呼んだ。彼はというと鳥居から見える町を眺めていた。

 ややあって社務所の方から霊夢が現れた。

「おい霊夢」

「んー?」

「それって……」

 霊夢の頭には見覚えのある三角帽子。リボンが邪魔しているため片側にずり落ちている。

 振り返った彼もそれを見て「あ……」と間抜けな声を出した。

「さっき鳥居に引っ掛かってたの。アンタどうせ此処来るし借りてたわ」

 はい、と帽子を手渡して霊夢は戻っていく。

「……」

 後に残された二人はなんとも言えない表情をしていた。





「こういうの灯台下暗しって言うんだろうな」

「まぁ神社だしな」

 無事に帽子を取り戻した二人は再び箒で空の散歩を満喫していた。

 今度こそはちゃんとした散歩と言えるだろう。

「どういう意味?」

「霊夢は眩しいってことさ」

「本人に言ってやれよ」

「恥ずかしいから嫌だぜ」

 慣れてみると楽しいもので彼はすっかり空からの景色が好きになっていた。

 逆さ吊りはもう御免だけどな。

 のんびりと飛行していたその時だった。

「ちょっと通りますよー!」

 二人の前を猛スピードで何かが通りすぎて行った。同時にそれが残していった突風が箒に襲いかかる。

「うわわわ! またかよ!」

 なんどか揺らされて箒はようやく落ち着いた。まるで暴れ馬のようだ。

 揺れる事にも慣れたらしい彼は魔理沙の肩に掴まっていた。

「ったく……。おい、大丈夫か?」

 首だけ振り返り彼の安否を確認する。後ろには表情の暗い彼が居た。

「どうした? どっかぶつけたか?」

「いや俺は平気なんだけど……。おまえ……」

「ん?」

 そんな彼を不思議がり帽子を直そうと頭に手をやる。が、掌伝わるのは布の質感ではなく、さらさらと靡く髪の感触だった。

「あ……」

 どうやらまた飛ばされたらしい。わざとらしく魔理沙が上目遣いで彼を見る。

「……散歩はもういいや」

「じゃあ今度は散歩じゃなくて普通に帽子捜索な。頼むぜ」

「借りは作らないんじゃないのか?」

「女の子のおねがいは無償で聞くもんだ」

「……」

 もう好きにしろよ、というような顔で彼はそっぽを向いた。それを確認して魔理沙は再び箒をはしらせる。

 ぐるん。またもや逆さ吊り。

「おまえわざとだろ!」

「不可抗力だ! あとしがみつくな!」

 空の上というのは案外騒がしい。先程と変わらずギャーギャー喚きながら二人は暫くの間箒に揺られるのであった。



 なんというかですねぇ、今回魔理沙にできるだけ「~だぜ 」口調を使わせないようにしようなどと謎の縛りプレイをしたんです。

 結果的には誰が話してるんだかわからんくなってしまったわけですが(笑)


 読了ありがとうございました。次回もまた!

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