誘い文句はムードから(本屋)
雰囲気微エロ風味。
時間軸は不明。
私は糖度の配分がよく分かってません。
今日はちゃんと家に帰すから。
そう約束して好きな子を部屋に招く。
口実は「兎を飼ったから」
白くて目の赤いアルビノ種。兎は毛皮に使われるくらい柔らかい毛触りだから彼女はふわふわの毛並みを満足げに堪能する。抱きしめられる兎を見ながら「いっそ入れ替わりたい」と動物相手に嫉妬を抱き、それでも俺に見せるのとは違う種の微笑みが新鮮で愛おしい。
「あ、そろそろ帰らなきゃ……」
壁に掛けた時計を見上げて呟く彼女が名残惜しんでるように感じ、素直に嬉しい。俺も引き止めたいけれどそれじゃあ約束を違えてしまう。敢えて破るのも恋愛ならではの駆け引きとしてありだけどと思いつつ、彼女を送り出す腹を決めて目をやるとふと気付いた。
「陽幸ちゃん、その服毛だらけだ」
「ホントだ。兎の毛って軽くて移りやすいんですね」
「それ俺がクリーニングに出すから陽幸ちゃんは俺の服着て帰りなよ」
「え、でも悪いです。うちで洗濯出来るし……」
「いいからほら、これ縮んじゃったポロシャツなんだけど、逆に合うんじゃないかな。そのまま貰って構わないし」
「鈴ノ木さんの服……」
案外あっさりと承諾して彼女は服を替えに隣の部屋に移る。仮にも恋人の俺の服が嬉しかったのか、そうであればいいのになんて都合の良い解釈で緩む頬を押さえていると、すぐに彼女は部屋から出て来た。
「どう? これならサイズはあまり問題ないでしょ?」
本来は彼シャツを着せてブカブカに袖を余らせている所を萌え楽しむのだが、そこはぐっと堪える。俺が袖を通した服を彼女が着るだけでも十分に足りるし。
さあ、どんな風に仕上がっているのか。振り返ると、彼女は顔を赤らめて胸元を押さえて立っていた。
「どうかしたの?」
「――鈴ノ木さん、細過ぎですよ」
恨みがましい目でこちらを睨むと、小さい声で彼女はごちる。
「……ボタンを閉めても隙間が出来るんだから、困ります……」
瞬間、雷が走った。
恥じらいに頬を染め、胸元に手を宛てる仕草。俯いて上目がちになる目線。
これでクラって来なかったら男じゃない。
「陽幸ちゃん……」
隠す手を奪い、引き寄せて抱き締める。
止めたボタンの隙間から覗く白い肌が美味しそうでそこに手を延ばすが、開いてしまうのは勿体ないなと首筋に唇を這わせる。
「鈴ノ木さ……今日は……」
何もしないって尻すぼみにになる声に「うん?」と聞き返す。
「家に帰すとは言ったけど何もしないとは言ってないよ」
「そんなの詭弁です」
かすれた声がくぐもって聞こえるのは彼女が額を俺の肩に押しつけるから。恥ずかしさのあまりに顔を隠したがって起こる癖だ。
「これじゃキス出来ないからヤダなー」
囁くが強要はしない。俺は右手を延ばし、スカートの中に指を忍ばせる。
「――っ」
声にならない悲鳴を出す彼女が耳まで赤くして顔を上げた隙に唇を奪うが、浅いキスだったからすぐに逃げられてしまい、延ばした右手も静止される。
「いきなり下は……」
震える声が怯えでなく戸惑いだと分かってあまり遠慮しなくなったのはつい最近のこと。紡ぎ出す言葉も拒絶ではなく譲歩なので機嫌をよくした俺は滑らかな太股を撫でる。
「シャワーだけでも……」
「いーやーだー!」
擽り、彼女が身をよじった隙をついて抱きすくめる。これでもう逃げられないと見下ろせば、観念したか両手で俺の片手を取った彼女はそのままその手を頬にあてた。
「それじゃあ、手を、握らせて下さい」
おずおずと聞いてくるおねだりを拒む理由などない。
キュッと固く握られた手は緊張で冷たいが俺の体温と溶け合っているのを感じると熱はより荒ぶる。
最終的には最初の約束も守れないなと思うと、つい笑みがこぼれた――。
* * *
「――てゆう夢を見たんだ」
艶々と満面の笑みを浮かべて今朝方の淫夢にどう切り返してやろうかと、私は取り敢えずこめかみに指を宛てた。
「ツッコミどころが満載なんですが、まずあらゆる意味でフィクションで悲しいです。まず鈴ノ木さんは兎を飼っていないし問題視されるほど私と家の距離もないですし鈴ノ木さんはポロシャツ持ってません。あと、私は胸元のボタン気にするほど胸がありません」
「Cは平均だと思うけどな」
「平均だからですよ。あとなんでサイズを分かってるのかってとこですか」
見た感じで分かるのだろうか。サト曰わく着痩せしているように見えるので、見たままの印象とは異なると思うのだけど。それにまだ私達は付き合ってはいるけど最後の一線には致していない。見て触れた訳でもないのに言い宛てられるのは相手が好きな人でもちょっと引いてしまうものがある。
「……鈴ノ木さんは尾行以外は特に何もしてませんよね?」
「それって盗聴盗撮? ないない。まあ、あまり自慢出来た特技じゃないけど女性自身が細工してなければ分かっちゃうんだよ。特に好きな子なら尚更ね」
ついつい疑って尋ねると鈴ノ木さんは明るく笑い飛ばす。おまけにノロケまで喰らっては疑惑を抱くのもばつが悪い。
「まあ監禁したい独占欲はない訳じゃあないけど……」
「うん?」
不穏な言葉を聞いた気がして聞き直すが、鈴ノ木さんは涼しい顔で首を傾げた。この彼は案外食えない人だ。
「ところで、この夢を正夢にする気はないですか?」
さり気なく肩を抱いてくる手の甲をつねり、私は大好きな彼に上目遣いでお願いする。
「ムードを勉強し直してくれたら考えます」
夢オチごめんなさいでした。
しかも私がぼんやり見た夢に解釈して手を加えたネタ文となっております。
唐突な始まりなのはその所為ですが、夢で見てる時は甘くて面白かったんです。俺得ネタですね。はい……
2012/11/12