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お兄さんエピソード0(本屋)

 

 本サイトでブログ公開の過去ネタです。

 下ネタです。

 あと、サイトの方で掲載の別小説のキャラ登場アリ。

 

 

「あーさん、最近俺変なんだよね」


 とあるフランチャイズの居酒屋にて、痩身の優男と屈強な大男が向かい合ってジョッキを傾けていると前者の男が突然そんな暴露をぼやいた。


「お前さんの変は今に始まった事じゃないが、どうした?」


 あーさんと呼ばれた屈強な大男、これでも高校で教鞭を取る美術教師の上條梓カミジョウアズサは少しぬるくなった生ビールで喉を潤し、焼き鳥を加えながらどうでも良さげに形式として尋ねた。


「その言い種ひどっ。もう真面目に聞いてくれないと自棄飲みしちゃうんだからね!」

「下戸が無茶言うなよ」


 ジョッキ……だが中身は単なる烏龍茶を片手に憤る、女性も溜息ものの美形の青年は年甲斐もなく頬を膨らませて中のお茶を一気に飲み干す。


「お姉さん、烏龍茶大盛!」

「烏龍茶で自棄飲みかよっ! たく、謝るから話続けて。何が変なんだ」


 烏龍茶なら自棄飲みしても問題ないと梓は話の続きを促す。向かいの青年、年下の悪友の鈴ノ木蓮路スズノキレンジはその美貌故に女性スタッフにチェックされているのか、思いの外かなり早くサーブされたお代わりを手に続きを切り出した。


「俺って基本、博愛主義じゃない? だから誰かの特定の人に束縛されるのとかたまんない性格なんだよね」

「それを博愛というお前さんはすげーが、確かに特に女とは長続きしないよな」


 蓮路とは、彼がまだ中学生で梓が大学生の頃からの付き合いだが記憶の限りでは月を跨いでの同じ彼女という存在を目にした記憶がない。

 ある意味そんな激しい異性関係でよく新しい次が出来るなとか、よく刺されないよなと羨ましいを通り越して感心したものだが、そこは彼曰くの博愛主義によるものだろうかと片しておく。


「一般論としては確かに長続きはしてないけど、作家として人間を観るのに一人の人間だけを愛してもいいのかとか迷いあるんだよねえ」

「俺はお前さんのその価値観はどうかと思うが……。それでそれが何か関係すんのか?」

「気になる女の子がお客にいるんだ」

「客? 客ってーと、本屋の方のか?」


 長い付き合いの中、彼にしては真っ当な恋愛相談のようなものに梓はつい年甲斐もなく身を乗り出して食いついてしまう。蓮路は烏龍茶を飲みながら頷いた。


「そう、そっちの。別に見た目が人目を引く訳でもないけど、なんか気になるんだ」

「女の子って、年は?」


 これで幼女とか言われたらどうしようとか内心ひやりとしながら聞く。蓮路は性格か性癖なのかあまり男女や年齢などの意識の境界が曖昧な部分がある。まだ彼氏の存在を聞いたことはないが、たまに見せる彼の梓に対する恋人にも似た独占欲を垣間見ては相手が都市条例に抵触しても不思議ではないのだ。

 そんな不安が顔に出たか、蓮路は宥めるようにふっと微笑んだ。


「心配しなくても高校生だよ。まだ中学上がり立てって感じの子だけど至って普通だよ? むしろ普通より地味なくらい。眼鏡かけて文学少女、みたいな」

「女子高生も問題だとは思うんだが、気にかけるには範疇の年齢か?」

「あーさんはアウトだけどねー」

「煩いよ」


 それは年齢を見てか職業を指してか。おそらく両者だろうと踏んで梓は焼き鳥を咥える。

 とりあえず三〇代聖職者と、二〇代作家兼書店員では捉え方はだいぶ変わるものだとしてその問題は一旦終わりとする。


「ていうか今までのお前さんの趣味じゃないなぁ」


 記憶にある過去の女の影はモデル、ギャル、コンサバ系OLとあるが皆一様に人目を引く派手さや華やかさがあった。それには蓮路自身思う所があるらしくて同意する。


「そうでしょ? 眼鏡女子は好きだけど、遊びと割り切れなさそうな子は意識的に避けてきたんだけどね。そもそも特に会話する訳でもないけど気になるんだよ」

「……例えば?」

「学生だから仕方ないけど好きなだけ本を買うお小遣いが足りないのか、二週間通い詰めで六〇〇ページあまりの新書を立ち読みしてるんだ」

「そ、それは気になるな」


 厚みだけでなく文庫より重みのある本を立ち読みは案外根性がいる。


「そして見事にそのまま読破しました」

「すげーつうか、図書館行けよ」

「あーさん、図書館で新刊を借りるのは結構難関なんだよ? あーさんみたいにマイナーで誰も手に取らない美術史とは違うんだから」

「うっせ! つか、俺の場合館外持ち出し禁止とか絶版とかで難易度が高いっつのっ」

「その見た目で美人画描いちゃうあーさんはある意味詐欺だよねー」

「黙れ。ビール鼻からつっこむぞ」

「はいはい。とにかく、変わった常連客なのは分かってくれた?」


 普段ならここでかなり脱線して蓮路の梓いじりが長引くのだが、今日はわりとあっさりしている。それだけ相談は真剣な気がして梓も会話修正を意識する。


「お前さん以上に変な人間はいないだろうけど、見応えがあるのは分かった。それで、肝心なやつだけど、どう気になるんだよ」

「どうって?」

「いや、好きとかそういう気になるなのかなって」

「好き? やっぱりそうなる? 女子高生相手なのに?」

「お前ならガチムチ連れてきても驚かないよ」


 一瞬想像してむしろしっくりくる気がしてその想像はとっぱらう。


「お前にとって年齢とか判断基準でもないだろ。立ち読みだけでそんな気になるか? ……いや、あの立ち読み具合は凄いけど、他にも気になる要因ってのがあるのかなってよ」


 無自覚か。それとも単なる人間的興味か測りながら梓は探る。三十路超えて何故に二十も半ばの青年の淡い感情を掘り下げようとしているのか馬鹿らしく思うが、相手が情緒的に幾分か不安定な人種なだけについ深入りしてしまう。


「……ない事もない」

「あるじゃねぇか」

「立ち姿が綺麗なんだよね。背筋がピンとして、でも小首だけ傾げてさ、あの年にしてはしっかりした立ち姿なんだ。まるで祈りでも捧げてるみたいに……。それにさ! 他の本は立ち読みしたのに俺の新刊は迷わず手にとって購入したんだよっ嬉しそうに大事に抱きしめてさ! 何アレ、感無量ってゆーの!? 作者冥利に尽きるとゆーか」

「本屋で働くお前さんならそんなお客、いくらでも見たろ?」

「それは……お歴々の大先生方に勝ったから?」

「それだけか?」


 お節介。

 そんな単語が梓の中で浮かぶが、無自覚に頬を染めて語られてはあまりに痛々しくて助け舟を出したくなる。


「お前が感じたの勝利感だけか?」

「うーん……」

「その子の反応だけが特別なんだろ? それって好きとかじゃねぇの?」


 いい年した、しかも教師よりヤのつく職業に見られる見た目も人を威圧させるおっさんが口にするもんじゃないと引け目を負いながら梓は正面から切り出す。今時の男子校生にだってこんな相談に乗ったことはない。


「……あーさん、自慢じゃないけど俺、女の子とはよく付き合うけど、まともに恋愛はした事ないんだ」

「自慢にならないけど、知ってる」

「好きって……恋ってどんなのかなぁ」

「んなしょっぺぇ事を俺に言わせるのか?」


 そんな疑問、約二十年前にとっくに通り過ぎた梓には耳痛く響く。流石にあの時に得た答えを口にはしたくない。


「だってあーさんにしか聞けないじゃん。あーさんなら恋の一つや二つは経験あるでしょう? 年の甲でさ」


 口にはしたくはない。が、期待に満ちた頼り切る目を振り払えない自身の人の好さが恨めしい。


「……一言余計だ。つっても、一般的な物言いになるぞ。ほんっとに初歩的なもんだととにかく相手のことばかり気にかかるとか、感情が不安定になったり些細な事で色んなパロメーターのハードルが低くなったりとか……だ。多分」

「それが恋……?」

「一般論だぞ! 定義は人それぞれだしな!?」


 大体、その一般論を軸にお前は青少年を主役にした初恋込みの小説を書くベストセラー作家じゃないのかよ!

 そんなツッコミを堪えて梓は口にしたしょっぱさを流すようにビールを飲む。向かいでは蓮路が何やら気持ちを反芻させている。


「そうか……。でも俺あの子の名前を知らないけど」

「名前も知らない相手を通学路で好きになるって、恋愛もののテンプレだろうが」


 酔ってしまおう。酔えばこの拷問のような恥ずかしい質問も乗り切れる気がする。梓はビールの次に焼酎を注文した。


「恋、かぁ……」

「――どうかしたか? なんか心なし体が震えてないか?」


 焼酎が来るまでの間、梓はネギマで口寂しさを埋めて待つ。お向かいさんはすっかり食べるのも飲むのも忘れているので料理はまだかなり皿にあった。

 しかし、見た目、かなり芸術美のある蓮路が恋した普通の女子高生ってのは興味がひかれる。

 高校教諭としては未成年と成人男性との恋愛はあまり歓迎は出来ない立場ではあるが、彼の人間としての複雑さを知っている立場としてはそれすらいい傾向のように思えた。


 ――この瞬間までは。


「どうしよう、あーさん」

「どうした」


 顔を真っ赤にもじもじと声を震わせる友人に、生徒の淡い恋でも見る微笑ましい気持ちで梓は尋ねた。


「……俺、あの子と付き合って押し倒してるの想像したら勃っちゃった」


 ぶはっ


「い、いっぺん死んどけお前!!」


 景気よくネギを飛ばし、梓はこの恋の顛末に一抹の不安を覚えずにはいられなかった。


 それは件の彼女がBL本のお使いをする約一年前のお話。


 これにより我が内なる恋に気付いた蓮路が、悶々と変態的に一途で粘着質な気持ちを育ませていくのだが、願わくばその女子高生が彼に捕まらなければいいと梓は思う。――が、まさかその彼女が自分の生徒だとは当時の彼には知る事もなく、可愛い教え子をこんな男の毒牙に引っ掛ける後押しをしたこの日を後々に深い後悔をした事は言うまでもない。


 



 オチだけちょっと下ネタ。

 本編では描かれてませんが身内に既出の裏設定ではお兄さんはなんか残念なイケメンが通常です。

 いつかそんな残念具合を全開にしたいものです。



2012.09.22.

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