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スノードーム

作者: 井沢あや

 趣味っていうのかな……?あたしがあの半球の硝子を買い求めるのは。一種の衝動でもあり、病的なものでもある。

 キッカケは、ほんの些細な事だった。高校時代のクリスマスの甘酸っぱい思い出。

 当時大好きだった先輩から初めて貰ったプレゼントが、スノードーム。小さな世界が硝子の中にギュッと詰め込まれてて、揺すると粉雪が舞い上がる。中から雪だるまが私を見つめ返してきて……。

 ――素敵だった。

 あたしはそれを大切に、部屋で一番の特等席に飾ったんだ。可愛らしくて、嬉しくって、何時間でも見ていられる気がした。

 思えばあたしの病は、この時から既に始まっていたのかもしれない……。


 それでも次第にあたしがスノードームを眺める時間は減って行き、先輩とも別れてしまった。

 スノードームは、特等席から降ろされて、部屋の隅の戸棚の中へと身を潜めた。

 それから何年たった頃かな?片付けをしていたら、あの時のスノードームが出てきたの!久しぶりに見るとやっぱり綺麗で、あたしはついつい見いってしまった。

 結構の間そうしていて、あたし気付いたの。スノードームがもっといっぱいあれば、部屋の中がパッと華やぐんじゃないかって。

 早速2,3個増やしてみたら、案の定とても素敵で。あの時のスノードームも更に輝いて見えた。

 それで、もっと、もっとって増やしていったの。買い物先や旅行先、ついには仕事の途中でもスノードームを見ると買わずにはいられなくなったわ。

 初めは小さな戸棚の上にだけ。だけど次第にそれは机へ、ベッドサイドへ、今まで有ったものを避けて、置ける所なら何処へでも置いて、とうとう壁に専用の棚まで取り付けた。

 それでもあたしは満たされない。キラキラ悩ましげに輝くスノードームを買うことをやめられない!


 麻薬の様にあたしにとりつく。


 あたしはオフィスにもそれを飾り始めた。初めは『可愛いね』なんて言っていた同僚なんかも、増え続けるスノードームに、嫌悪の表情を隠しきれていない。

 あぁ、あとは何処へ?

 何処へ置けばいいの……?

 家中スノードームで溢れかえって、何処を向いても銀世界!あたしはその空間に居るだけで体がとろけそうな位興奮した。

 素晴らしいわ。誰にも文句なんて言わせない。

 だってあたしは、スノードームを愛して止まないだけなんですから。






「そうでしょう?先生」

「そうだね。ただ少し、その…、君は行きすぎただけだ」

「分かってくれますか?ふふっ、嬉しい……」

 あたしは白い服を着て、優しげな先生と向かい合っている。毎日部屋から呼ばれてお話するの。何故かここでは全てが白くて、雪みたいで、美しいんだ。


 きっとあたし、スノードームの中の雪だるまになれたんだわ……。


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