番外編 春を愛でる
とある店長の独白です。短いですが、真面目に語ってます。
特別ではないけれど
変わらない場所を
君にあげる
初めて君を見たとき、迷子かと思った。
初めて会ったのは、そう雨の日だったね。
びしょぬれで立っているから、ひどく驚いたのを覚えてるよ。
「あの店員を応募してるって聞いて・・・。」
まさか、君みたいな若い子が来るとは思ってなかったよ。
呆気にとられる私をよそに、パートさんたちが集まってきて、風邪をひいたらどうするんだいって感じで君は事務所に連れて行かれたね。
パートさんたちは、ひざ掛けで君を包み、暖かいお茶を君に差し出した。
パートさんたちに聞かれるまま、君は自分のことを話したね。
私が聞きたかったこと全部、聞いてくれて楽だったなぁ・・・。
君の身の上を聞いたパートさんたちは、その時から保護者のような気持ちになったらしいよ。
『迷子のような君に、居場所を。』
私も含めてそこにいた全員が、言葉をかわすことなくそう決めたんだ。
それからは大変だったね。
人と接することに慣れていない君は、パートさんたちにたくさん怒られた。
優しさに溺れずに、ちゃんと自分で自分の場所を作ってほしかったから、パートさんたちも心を鬼にして怒ってたんだよ。私はそれができなくて、何度も怒られたけどね。
だって、ほら甘やかす方が楽じゃない。
でも、私なりに君との距離を測ってたんだよ?
近づきすぎず
遠すぎず
影で皆を見守ってる
お父さんみたいに、ね。
上手くできたかな?
パートさんたちと打ち解けると、君は料理を教わり始めたね。
家で試しに作って持ってきて、味見を何度頼まれたっけ。
おいしいって言うと嬉しそうに笑う君を見て、娘を嫁にやりたくない父親の心境が理解できたよ。
パートさんたちも何か誇らしげだった。
でもね、皆わかってた。
ずっとこのままじゃいられないって。
君の居場所は作ってあげられても
ずっと君の側にはいられない。
それは、私たちじゃだめだ。
強い意志を持って、ずっと君の側にいてくれる人じゃないとだめだから。
だから、それまで。
皆、君の側にいるよ。
家族ほどじゃないけど、他人よりは近い所に。
君の居場所はここにある。
だから、もう君は迷子じゃない。
皆、はるを愛してるよ。
そんな私たちの前に隙のない男が現れるのは、もう少し先のこと。
お読み頂きありがとうございました。何となく店長視点を書いてみました。私の中では割といい男なイメージなんですが・・・。