俺の春 接近編
気になるあの子に接近しましょう。
ゆっくり、ゆっくり
君に近づいていく
初対面を果たした後から、俺はずっと調査の称して常にはるの側に陣取り、業務の話を少しづつ意図を持ってづらしていき、はる自身のことを聞き出した。それを自分のせいだと感じたはるが、店長に何度も他の人に変えてほしいと言ったそうだが、無論それは認められない。
店長が言うように「君じゃなきゃダメ☆」なんだ。
店長とパートのおばちゃん達のフォローも、わざとらしかったり、棒読みだったりしたが、はるが迷っている時に後押ししてくれたり、俺とはるの話のきっかけになってくれたりして協力してくれた。
そのことには、深く感謝してる。
・・・してるんだが、はるの背後でにやけながら親指立てんのはやめてほしい。
店長なんかカンペに「もっと積極的に☆」とか書いて見せてくるし、おばちゃんファイブは隠れるつもりもないらしく、合唱の練習なのとか言って俺とはるの側でラブソングを5人で歌いだすしまつ。
あんたら本当にやりたい放題だな!
おばちゃん達いわく、ムードをよくするためらしいが・・・スーパーの中じゃ絶対無理だろ。
客はなぜか喜んでたけど。
そんな周りの協力もあり、はるとは自然に話せるようにはなったものの、親密とまではいえない関係のまま、調査期間は終了してしまった。
「これから、どうするの?」と店長に聞かれた俺は特に悩むことなく言った。
「これからも調査と称して出入りさせて頂きたいと思っております。」
「それはいいけど・・・。そろそろ進展したいよね☆」
「はい。ですが・・・。」
今、俺が強引に動けば逃げられかねない。
「そうだね・・・ここはやはり・・・『第1回二人のために世界はあるのっ☆大作戦っ』会議を開く必要があるよっ!!尾形くんっ★」
うわ、参加したくね~・・・そんな名前の会議。
なんて俺が言ったとしても、聞き入れる人ではないので数日後に、事務所にて店長と俺とおばちゃんファイブが参加する『第1回二人のために世界はあるのっ☆大作戦っ』会議なるものが開催された。
「というわけで、皆さん☆尾形さんとはるちゃんがもっと仲良くなる方法を考えてくれたまえ★」
店長、あなたはいつも楽しそうですね・・・。
そして、おばちゃんたちはノリノリで考え出した。
「そうねぇ、やっぱり危機を乗り切ったら二人の中は急速に縮まるんじゃないかしら。」
危機・・・?
「ほら、エレベーターの中に閉じ込められたりとか。」
何か変な方向に・・・。
「確かに、そうね!二人で爆発物を解体する状況になるとかね!」
どんな状況だよ。
「解体しようとする手と手が触れ合って・・・。」
いや、そんな余裕絶対ないだろ。
「そして、彼は優しい嘘をついて彼女だけを逃がすのよ・・・。」
つまり、俺に死ねと言ってるんだろうか。
店長と俺を完全に無視して、どんどん妄想をヒートアップさせていくおばちゃん達をどう止めたらいいか悩んでいた俺に店長はサラリと言った。
「尾形くんさぁ☆車で来てるんだよね?じゃはるちゃんを家まで送っちゃえばいいんじゃない★?」
そしたら二人っきりになれるし☆と言った店長に
「もっと早く言えよ!!」
と怒鳴りそうになるのを、俺はなんとか抑えた。
そんな『第1回二人のために・・・(以下略)』会議で決まった通り、俺ははるが帰宅する直前にスーパーに現れ、店長が俺にはるを送るよう促し、はるが否定する前に俺は送らせて下さいと真剣に頼んだ。
それから、時間が合うときは俺がはるの家まで送るようになった。はるを車という密室に閉じ込めているのをいいことに俺は、少し強引にはるを食事やドライブに誘った。
二人でいる時間が長くなればなるほど別れがつらくて、このままさらってしまいたいと何度も思った。
はるをもっと独占したい。
ゆっくり近づいていくつもりだったのに・・・
もう限界だった。
そのことを店長に告げれば、彼は立ち上がり言った。
「よし☆緊急のラブ・ゲッチュー会議をひらくよっ!」
相談しといてなんですが、そんな会議にでたくないです。
すぐにおばちゃんファイブに召集がかけられ、事務所にいつものメンバーが集まった。
「皆さん・・・ついにこの日がやってきました・・・。尾形くんがはるちゃんに告白することを決めました!
彼とはるちゃんを見守ってきた我々の最後の務めとして告白が成功するような方法を考えましょう☆」
店長の言葉におばちゃんたちは騒ぎ出す。
「あら、やっとね!」
「今まで長かったわ!」
「はるちゃんが絶対OKするような告白の仕方を考えてあげましょう!」
嫌な予感しかしないな・・・。
「そうねぇ、私だったら百万本のバラを差し出されながら告白されたいわ。」
匂いに酔いそうだな。
「私は、学校の屋上から告白されたい・・・。」
いや、俺もう会社員なんで。
「ダンスパーティーを王子様と抜け出して・・・」
俺は確実に平民です。
予想通り、あらぬ方向に走り始めたおばちゃんを俺はもう見てるしかなかった。
そんな俺に店長が声をかける。
「あんまり大掛かりなことするとはるちゃんが萎縮しちゃうから、普通に告白しちゃったら☆」
言ってることは、とても的確だが・・・
「なんで、もっと早く言ってくれないんですか?」
と俺は脱力しながら言った。
「だってぇ、それじゃ楽しくないじゃない☆」
やっぱり、そんな理由だったか・・・。
疲れきった俺を見ながらクスクスと笑っていた店長は、次の瞬間フッと真顔になり俺に言った。
「尾形くん、はるちゃんは優しくて少し寂しがり屋ないい子だ。はるちゃんをよろしく頼む。」
いつものように、ふざけたしゃべり方ではない真剣な声に、俺は姿勢を正し
「はい。」
と言った。
さぁ、はる。俺の側においで。
店長のアドバイスに従い、いつものようにはるを送って行った俺は、はるのアパートの前で車を停め、はるがドアを開ける前に、逃げられないようにはるの手を握った。
そして
「佐竹はるさん、俺と結婚を前提に付き合って下さい。」
と言った。
小細工なしの直球勝負。
俺としては、すぐ結婚してもいいのだが、はるは無理だろうな。
間違いなく混乱しているはるの目に俺は自分の視線全てを注いだ。
昔から人に目力があるといわれてきた。会社では、目だけで弱気な上司を黙らせることもあるくらいだ。
その目に力を入れ、はるを捉える。
はる、俺を受け入れろ。
ずっと一緒にいてやるから。
その無言の訴えが届いたのか、はるがとても小さい声で
「よ、よろしくお願いします・・・」
と言った。
その言葉に心の底から安堵した。
おばちゃんたちからの情報や自分の印象で嫌われてないことはわかってきたが、それでもやっぱり不安だったのだ。
でも、やっと君を手に入れた。
まだ、混乱している彼女に止めをさす。
ここまできて誰が逃がすか。
「よかった・・・。これから、よろしくね。」
そう、永遠に。
それからの日々は本当に幸せだった。
恋愛に不慣れな彼女があたふたしている様子を楽しみつつ、ゆっくりとしかし確実に俺は彼女との距離を縮めていった。
初めて抱きしめたのは、夜景のきれいな展望台だった。
景色に見とれる彼女が愛しくて、思わずやってしまった。しばらく、抱きしめていると彼女が腰を抜かしてしまい、抱っこして車に運んだ。抱っこしながら、ニヤついていたのは言うまでもない。
初めてキスしたのは、車内で。「それじゃ。」と俺に言う彼女の唇を奪った。少し触れるだけのつもりだったのに、驚いて見開かれた彼女の目がゆっくり閉じられていくのをみて、理性がきれた。
舌を入れ、好き勝手に彼女の口をむさぼった。呼吸ができず必死で、はるが俺の胸を叩かなければ、間違いなく最後までいってただろう。
初めて結ばれたのは、俺の部屋。もちろん、はるの同意の上で。
ガチガチに緊張するはるをリラックスさせるため、少し酒を勧め、なだめるように彼女を抱きしめながら背中をさすった。はるが少し落ち着いた時に「・・・はる、いい?」と耳元で聞いた。小さくうなずいた彼女を強く抱きしめ、はるをゆっくり愛していった。俺の耳元ではるが俺の名前を呼んだ声は、きっと一生忘れない。
やっと
やっと、君との距離がゼロになった
そして
これからもずっとゼロのままでいよう
今日の教訓:店長は計り知れない人である。
読んで頂きありがとうございました。恐らく、次話で完結となります。