9.再生
(……静かだ。やけに、静かだ)
耳鳴りの奥で、何かが目を覚ましていくような感覚。
痛みはない。だが、死んだ瞬間の感触だけははっきり残っている。
引き金の重さ。
衝撃。
暗転。
ゆっくり瞼を開く。
そこは――薄明かりの差す、大広間だった。
古い、和洋折衷な建築方式。初めて見る景色だというのに、不思議と安心する雰囲気で、むしろ、どこか温かさすら感じる。
なぜか、壁には666大隊の「鳥籠の中の鳥」の紋章の入った軍旗が掲げられていた。
輪郭がわずかにぼやけて見える。夢の中みたいだ。
俺はゆっくりと床から身を起こす。
「……生きてる?」
声がやけに澄んでいる。
「いや、違う。俺は死んだはずだ」
こめかみに触れるが穴はない。血もない。
だが、撃ち抜いた感触は鮮明だ。
おかしい。あの世にいるというのか? 恐らく死後は天国には行けないだろうとは思っていたが……。
視線を巡らせると――
血のついた軍服のまま、仲間たちが倒れている。
「……嘘だろ」
その時、横でうめき声。
「……ん……スカイ……?」
レベッカだ。
紫髪の幼馴染が、ゆっくり上体を起こす。
状況を理解しきれない顔で、俺に寄りかかる。
「ここ……どこ? 私たち……自殺して……」
「俺も確信が持てない。全員死んだはずだ」
あちこちで、息を吹き返す音。少女たちが次々と起き上がる。
「夢……ではなさそうですね。わたし、自分の死の瞬間を覚えています」
起き上がったエリザベスが冷静に言う。だが声が微かに震えている。
「え、ちょっと待って。頭撃ち抜いたよね? なんで私生きてんの??」
アリスが頭を抱える。
「死んで……起きて……何? 私、また狂い始めてる……?」
マルタが青ざめる。
「記事の切り抜きが……あ、持って来てる!?」
フローラは相変わらずだ。
(こいつはブレねえな……)
「待って、数が……多い!?」
キャサリンが叫ぶ。
「なんでミカエラやリーナたちがここにいるの?! あんたら死んだはずでしょ!」
「う、うーん……ここは? 私、幽霊になったはず」
ミカエラが辺りを見回す。
「幽霊じゃ……なさそう。生きてる。……生き返ってる?!」
リーナは驚愕して自分の身体を撫で回した。
ひとまず混乱しつつも点呼。全員こんな状況でも指揮官の命令は聞くんだな……と、妙な所に感心した。
数えて、数えて――俺を含め151。
途中で戦死した者も含め、151人いる。
全員死んだ記憶はある。
だが、生きている感覚もある。広間に、不安が満ちていく。
その時広間に響いたのは足音。
全員が一斉に足音の方を向く。薄闇の中から現れたのは――
十歳ほどの幼女だった。
古めかしいドレス。だが、その瞳だけが異様だった。
深い森のような緑。底が見えない。更に、角度によっては魔法陣の様な幾何学模様が浮かんだ。
「よっ、目覚めたみたいだね。このお寝坊さん達☆」
幼女は馴れ馴れしく手を振った。
だが、俺は不思議とその声を知っている気がする。
「……あんた、誰だ?」
幼女は口元を押さえ、くすくす笑う。
「鈍いなあ、スカイくん。私だよ。ネクロディア様」
「……は?」
一瞬で騒然。
「ちょ待って! あの蛙声の邪神がこれ!? 嘘、だろ……幼女……? あの鬼畜外道な腐れ邪神がこんな幼女……?!」
幼女は頬を膨らませる。
「うるさーい! 人間型になったらこのサイズなの! 文句ある?」
(見た目だけは愛らしいな……中身は地獄だが)
「……邪神様って……こういう感じなんですか……?」
エレナが恐る恐る聞く。
「うん。かわいいかわいい邪神だよ。褒めていいよ?」
ざわつく隊員達。
「褒めづらい……」
「邪神ってあれが……? どう見てもその辺にいる幼女だけど」
「なんか声が独特……可愛い系なのに、名状しがたいねっとり感がある」
俺は額を押さえる。
「……で。なんで俺たち、死んだはずなのにここにいる?」
ネクロディアは、にこっと笑う。
「だって君たち、全滅エンド踏んだじゃん。だから私が回収したの。魂」
広間の空気が冷える。
「これから君たちを、私の箱庭に移すためにね」
「箱庭……?」
「そう。君たちが二度と離れ離れにならない世界」
彼女は両手を広げる。
「……永遠に一緒に暮らせるよ?」
ぞわり、と背筋が冷える。
「――ようこそ、私の箱庭へ」
その瞬間。
151人分の混乱が、大広間に響き渡った。
声が混ざりあい、ざわ……ざわ……という擬音そのままな音になった。
(……このクソ邪神め。何を企んでやがる?)




