6.告白
森の夜が静かに広がる。
百人。
壊れかけで、それでも残った百人。
その百人の兵士が、ゆるやかな円を作って焚き火を囲んでいる。
揺れる火の向こうに、疲れ切った顔が並ぶ。身にまとうは包帯。煤。乾いた血。
俺は報告に来た副官エリザベスから名簿のメモを受け取り、炎の揺らぎの中で目を通した。紙の端が、かすかに震える。
「以上が、残存兵力百名の名簿です。私を含め、ぴったり百人です」
エリザベスの声は落ち着いている。だが、その眼鏡の奥の瞳は疲れ切っていた。
百人。
嬉しい、はずだ。
だが――残り方がどうにも偏っている。
どいつもこいつも濃い。執着が強い。
あるいは、どこか壊れている。
「よく百人も残ったもんだ。いや嬉しいけどさ……物好きばっかりだな」
軽口のつもりだった。だがエリザベスが眉をひそめる。
「殿下。士気が下がるような発言はお控えください」
左右からすぐ声が飛ぶ。機関銃隊隊長のクリスティーナと、幼馴染で直掩のレベッカだ。
「そうだよスカイ! まだできる事あるでしょ!」
「ヤケになるのは最終段階だよ!」
……お前らの方がよっぽどヤバい状態だろ。
十四歳と十五歳に背負わせていい人生じゃない。
「……そしてその責任は全部俺にある、か」
つい、心の声が漏れた。
「スカイ……今、何て言った?」
レベッカが身を乗り出す。
「何でもない。ただの独り言だ」
エリザベスが報告を続ける。
「水は井戸がまだ使えます。食料は二日分。弾薬は……次の交戦で尽きます。補給車は動きますが、燃料はあと僅かです」
「つまり、全部限界って事だな」
「……はい。本当はもう少しオブラートに包みたかったのですが」
沈黙が落ちる。
焚き火のパチパチという音が、やけに大きい。
「……もう、無理だよ」
ぽつりと、口から落ちた。
「え……?」
レベッカの声が震える。
「大隊を、解散する」
空気が凍る。俺は立ち上がり、焚き火の中央へ進む。百の視線が突き刺さる。
「総員、傾注!」
全員の背筋が一斉に伸びる。条件反射のように。その姿は少女のものではなく、地獄で鍛え抜かれた兵士のものだ。
「今聞いた様に、物資は尽きかけている。ここから先にあるのは飢えと渇きと、死だけだ。よって――本日をもって、第666特別大隊を解散する!」
ざわ、と震えが広がる。
「こんな戦争に巻き込んで……勝てなくて、すまなかった」
次の瞬間、抗議が爆発した。
「大隊長、まだ戦えます!」
「撤退しただけです! 敗北じゃありません!」
「続けさせてください!」
森の奥に響いたのは、負けを認めていない……というより、ここしか居場所がない子供たちの声だった。
胸が、焼ける。
「黙れッ!!」
思わず発した怒号が森に響く。
焚き火が揺れ、何人かが肩を震わせる。
「終わりなんだ……第666特別大隊は解散する。どこへ逃げてもいい。生き延びろ!」
誰一人、立ち上がらない。
恐怖も、絶望もない。
ただ、ここにいたい、という目。
……いいだろう。
なら、全部暴いてやる。この部隊の、本当の正体を。
「……ああ、もういい。どうせ最後だ! 全部ぶち撒けてやる。なぜ女学生だけの学徒兵大隊なんて、バカげた編成が生まれたのか」
「スカイ!? ダメ、それは――!」
レベッカの制止を振り切る。
「お前たちはな……邪神への生贄だったんだよ!!」
息が止まる音がした。
俺は手にしていたAKS74アサルトライフルを自暴自棄気味に地面へ叩きつけた。
鈍い金属音が夜を裂く。
俺はその場にどっかり腰を下ろし、焚き火を真正面から見据えた。
火の点が灯るたびに、百人の影が伸び、縮む。
……どうせ全部終わりなら。真実くらい、話してやる。




