5.生贄
「……」
「……」
「……」
「……」
四人とも、言葉が出なかった。
焚き火の音だけが、夜の森に小さく響く。
あの戦い以降、第666特別大隊はさらに激烈な戦場へと送り込まれていった。
ヅール。
ラナン。
ザリマ。
名前を思い出すだけで、胃の奥が重くなる場所ばかりだ。
当初は千人ほどいた兵力は、今や百人。
十分の一。
理由は明白だった。
あまりにも大きな戦果を上げてしまったから。
もともとこの部隊は、女学生だけで編成された異例の学徒兵部隊だった。
銃を持たされた貧乏貴族令嬢と平民少女の混成。
発足当初、誰もが嘲笑した。
「銃を握った女子供に何ができる?」と。
だが現実は違った。
3800。
ダラで殺した敵の数だ。
数字にすればそれだけだが、実際は顔があった。声があった。少年兵もいた。
沈黙を破ったのは、アリスだった。
「思うにさ、この部隊って元々はプロパガンダ用だったんじゃないかな」
火をつつきながら、淡々と言う。
「フーイ村の戦いみたいなのもあったけど、あれだって殿軍のファルコン隊がヘタレなければ、ちゃんと安全に撤退できる戦いだったんだよ」
……。
俺は何も言えなかった。
フーイ村での撤退戦。
作戦変更で移動中、殿軍を務めていた貧民街出身の多いファルコン隊は、レベッカを除いて一斉に脱走した。
追いついてきた敵軍と、俺たちは血みどろの追撃戦に巻き込まれた。
「スカイだって元は貧民街育ちだよね。それが陛下の隠し子って発覚して、いきなり貧民街出身の王子、帰還! 戦乙女たちを指揮!って祭り上げられてさ」
アリスは肩をすくめる。
「つまり、666は見た目重視の飾り部隊だったってわけ? それが何の因果か、やる気のない正規軍より戦果を出しちゃった、と」
エレナが静かに言う。
だがアリスは首を振った。
「たださ……そうだとしても変なんだよ。この部隊。いつも最前線。補給はギリギリ。撤退路は不安定。ダラなんて、いくらなんでも過酷すぎるだろ。まるで邪神に捧げられる生贄みたいだった」
……生贄。
その言葉が、焚き火の向こうで重く落ちた。
「ダラも含めて、私達、1年でざっと2万人以上殺してる。こんな学徒兵部隊なんて前代未聞だ」
……すまん。
喉の奥で言葉が転がる。
だが、アリスは軽く笑った。
「ま、今更だよ。スカイを責めてるわけじゃない」
そのままごろんと横になる。
「ほんと……変な奴らばっかり、よく百人も残ったもんだよ。皆、さっさと逃げちゃえばよかったのに」
不満げに吐き捨てる。
それにエレナがすぐに反論した。
「……私は、裏切って逃げた奴らは許せない」
王都脱出時、三百人ほど残っていた隊員は、今や百人。
三分の二が脱走した。
エレナにとって、それは戦術的損失ではない。俺への裏切りだ。
「違うよ、エレナ」
アリスが片目を開ける。
「みんなが一斉に逃げちゃえば、スカイを私が独り占めできたって言いたいの」
その瞳から、ふっと光が消える。
諦めと冗談が半分ずつ混じった声。
三人は苦笑した。
「何よ、いきなりヤンデレモードに入らないでよ……」
「逃げていいって言われても、何人かは絶対残るって。隊長、人気者だし」
「私たち、この人に着いてきたから生き残ったようなもんだしね」
軽口。
だが、半分は本音だ。
アリスは寝転んだまま空を見上げる。
「……けっ。身内ヤンデレに、エリザベスに、レベッカに……ライバルが多すぎるなぁ」
焚き火の火が、彼女の横顔を赤く染める。
「ま、いいさ。恋愛の勝者ってのは最初に選ばれたやつじゃない。最期に隣にいたやつさ」




