19.乱射
俺が「再編成」を宣言した直後のことだ。
桜吹雪の中、100人以上が銃を掲げ、歓声を上げる。
悪くない。不安も多々あるが、死後の世界の再始動としては、上出来だ。
――と、思った。
「新生666へ……祝砲ッ!!」
嫌な予感がした瞬間。
ドンッ!!
ドォォォン!!
空気が震えた。
丘の桜の枝がビリビリと揺れ、花びらが爆風に巻き上げられる。
「は?」
振り向いた先。
そこでは、いつの間にか、ヴィクトリアが満面の笑みで迫撃砲を構えていた。
「ちょっ……中隊長!? 隊長の頭越しに撃つのはまずいでしょ!!」
ヴァネッサが半泣きで制止している。
「だって、隊長自身が無礼講って言ってたし!」
「言ってねえ?!」
フェリシアが弾を抱えて叫ぶ。
「次発、徹甲榴弾装填完了! 次撃てるよ!!」
「やめろォ!! 花が全部落ちる!!」
言った瞬間、パキッと嫌な音がした。
衝撃波で枝、折れた。
花びらと一緒に降ってくる。
情緒が粉砕された。
そして――それが引き金だった。
「弾薬無限なんでしょ!? 撃つぞオラァ!!」
ポーリンの声。
パンッ!パンッ!パンッ!
M14のセミオート乱射が始まる。
桜の根元から弾丸の花火。
この世界のルールを今更ながら思い出した。弾薬は無限。
当然、射撃管制もない。
当然、止める人間もいない。
「隊長の晴れ舞台だもんね! 空くらい穴開けなきゃ!」
クリスティーナ、お前もか。
「電動ノコギリ」の異名をもつMG3の異様な発砲音が響いた。
「ヒィィィハァァァァ!!」
ジョアンヌがいつもの奇声と共に、いつの間にか仕掛けてたらしい爆薬を起爆させた。おい、気軽にクレーターを作るな。
「いや撃つなとは言わんけど角度! 角度調整しろ!!」
シャーロットが必死に叫んでいるが、誰も聞いていない。次第に1人、また1人と少女兵士達は各々の愛銃で祝砲を打ち上げはじめた。
気づけば丘の上は、
・桜の花びら
・迫撃砲の煙
・銃声
・薬莢の雨
・爆風
が同時に降り注ぐカオス空間になっていた。
「…………まったく騒々しい花見だぜ」
ため息をつく。
死後の世界で再始動宣言をした直後に、祝砲乱射。
情緒ゼロ。
風情ゼロ。
規律? そんなものはない。
エリザベスが隣に立つ。
「殿下も撃ちますか? こんなこともあろうかと不肖エリザベス、殿下のAKS74Uも持ってきていますよ?」
「いつの間に……撃たないぞ、俺は。この状態で俺まで参加したら止める奴がいなくなる」
「流石の冷静さです。殿下」
だが、戦場なら敵がいる。
ここには敵がいない。なるほど、確かに平和だ。
人に向けていないだけマシだ。そう思う事にしよう。
「ええ?! 今日はスティンガーを無意味に撃っても良いの?!」
なんだその発想は。そんなことを思った直後に、アフシャン率いるイーグル第4小隊がスティンガーミサイルを本当に無意味に空に向けてぶっ放した。生前だったら間違いなく始末書ものだな……。
丘の上が完全に軍事系お祭り会場になっている。
だが――
笑っている。
全員、笑っている。
撃ちながら。硝煙に包まれながら。桜を散らしながら。
ああ、そうか。こいつらは――生きている。
その証明を、叫びを火薬でやっているだけだ。
ふわり、と頭上に影。見上げると、例の邪神が桜の木の枝に腰掛け、やにやしていた。
「いいねぇ……この狂気の中の幸福。地獄を与えたつもりが、勝手に花火大会しはじめるとか、君たちマジで面白すぎ」
「黙っとけ蛙神」
ネクロディアはくすくす笑う。
「永遠の収容所にしてやったのにさ。普通は絶望するでしょ?なんで祝砲撃つの?」
「知らん。こいつらに聞け」
「君がいるからでしょう?」
……まあ、否定は出来ないが。
桜の花びらが舞う。
爆煙の向こうで、レベッカが銃を肩にかけて笑っている。
アリスは耳を塞ぎつつも、どこか安堵した顔だ。
シャーロットは止めるのを諦めたのか、部下達に命じて油断なく弾の供給を管理している。
エリザベスは暴走組を呆れつつ見ながらも、完全には止めない。
俺は深く息を吐いた。
「……おい、撃つのは空だけにしろ! 桜は敵じゃねえ!」
「はーい!」
全員が返事をするが、撃つのはやめない。
もういい。どうせ死なないし、逃げ場もない。
だったら――この狂気も、俺が率いる。
桜吹雪と祝砲。
地獄でも天国でもない。
ただの、控えめに言って頭のおかしい大隊の再出発。
「再始動初日からこれかよ……」
それでも。静かな絶望よりは、うるさい幸福の方が、よほど俺たちらしいかもしれない。




