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18.訓示

 満開の桜が、丘一面に淡い光の膜を張っていた。


 戦場とは無縁の、柔らかい色。


 正直平和が痛くないと言えば嘘になる。平穏が、安寧が、まだ体に馴染まない。


「殿下。せっかくですし、何か訓示を」


 レベッカに膝枕されてしばらくイチャついてたらエリザベスが言った。


「おいおい、せっかくの花見でつまんない長話する必要もねぇだろ……」


「でも……皆聞きたいみたいですよ? 殿下の訓示」


 周囲を見ると、少女たちは自然と桜の下へ集まっていた。


 銃を抱えたまま。まるで俺の言葉を待つかのように。


 俺はため息をつき、面倒くさがりつつ、一歩、前に出る。


 すでに日は傾きかけ、薄桃色の光が影を引き延ばす。自分の影が、やけに長い。


「……起きてから一日半」


 口を開くと、思ったよりスムーズに言葉が出た。


「気づけば全員、息を吹き返したみたいに好き勝手動いてるが……」


 何人かが小さく笑う。


「でも、これだけは言わせてくれ」


 俺は一度、息を吸った。


「俺たちは死んだ。ここは楽園の皮を被った地獄。そして、多分二度と元の世界には帰れない」


 王都。


 仲間。


 家族。


 あの夜の告白と、決断。


 …………そして、全部が終わった。


「ここは……ネクロディア曰く罰だ。永遠の収容所。外には出られない」


 空中のどこかで、あの邪神があの腹立つ笑顔で、愉快そうに笑っている気配がする。


「けど――俺はそれでも、お前らを見捨てる気はない」


 視線を、順番に走らせる。


 オリヴィア。

 ジュリア。

 クリスティーナ。

 マリー。

 ヴィクトリア。

 ミカエラ。

 ポーリン。

 アリス。

 シャーロット。

 メアリー。

 各中隊長達。その奥に、無数の顔。


「今まで通り、俺はお前たちを率いて、導く。それだけは変わらない」


 一呼吸置いて、続ける。


「――この丘の上で正式に宣言する。…………第666特別大隊は、ここに再編成する!」


 桜の花びらが風に舞う。


「任務はただ一つ。ここで生きる事。それが神の悪趣味だろうと、死後の牢獄だろうと関係ない」


 銃を抱えた少女たちが、一斉に背筋を伸ばす。条件反射みたいに。


「ここは戦場じゃない。だけど、生きていくにはリーダーがいる。だから俺はお前たちの大隊長であり続ける」


 一拍。


「……あんな結末を迎えた後でも、もう一度、俺に付き合ってくれるか?」


 沈黙。


 長いようで、ほんの数秒。


 最初に口を開いたのはレベッカだった。


「当たり前でしょ。どこ行くにしても、私はあんたの正室だもの」


 ああ、そうだったな。こいつは最初から最期まで、俺の隣にいるだろう。


 エリザベスが淡々と続く。


「合理的判断です。殿下以外にこの状況で指揮を執れる者は存在しません」


 理屈で支えてくれる副官。ありがたい。


 アリスが肩を組んできて、にやっと笑う。


「また設備も武器もバッチリ整備しとくよ。うちの旦那のためにね」


「旦那言うな」


 オードリーが真っ直ぐ俺を見る。


「逃げる奴が出たら私が引っ張り戻します。……前と同じように」


 背後の番犬は、いまだに忠犬のままらしい。


 フローラとエレナが明るく手を振る。


「推し活は続くよどこまでもってね!」


 お前らは推し活の覚悟がでかすぎるんだよ。


 マルタは桜を見上げ、小さく笑った。


「……また一から始まる、か。悪くない」


 その言葉で、胸の奥のざらつきが少し和らぐ。


 俺は最後に、全員を見渡した。


 死んだはずの部隊。けれど、何故かここにいる。


 息をしている。笑っている。銃を抱えている。


「よし」


 俺は息を吐いた。


「じゃあ――第666特別大隊、ここに再編成だ。地獄でも天国でもなく――桜の下からな」


 風が吹く。花びらが一斉に舞い上がる。


 その中で、少女たちはそれぞれの愛銃を掲げ、歓声を上げた。


 滑稽で、異様で、でも。それが俺たちだ。

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