16.行楽
桜並木へ向かう行軍中。
「「「お花見だーっ!」」」
……と言いたいところだが、俺はまず足を止めた。
「改めて言っておく。酒は禁止! PTSDと酒は相性最悪だ。泣きわめく奴にフラッシュバック起こす奴に喧嘩する奴……地獄絵図になる未来が見える。それに酔ってアホ死した前例も多数ある。絶対ダメだ」
エリザベスがため息をつく。
「……いましたね、アホ死した人たち。色々」
「まず度胸試しで地雷踏んで死んだウィラ」
俺が言うと、後方から元気な声。
「へへ、照れるぜ!」
振り向くと、戦死組の列にちゃっかり混じっているウィラが親指を立てている。
「いや照れるな。あれは本当にアホだ」
「死んでも死にきれねー!って浮かんでたら、気づけば転生してたんだよ!」
一応元同僚のマーガレットが呆れ顔で横にいる。
「なぜかこの子は一緒について来ちゃったし」
俺は続ける。
「……戦勝後の酔った勢いでM1911で『ロシアンルーレットやります!!』って叫んだデモラ」
レベッカが首をかしげる。
「オートマでロシアンルーレットってどうやるの……?」
「知らん。酒入って判断力落ちて、出来ると思っちゃったんだろ」
ミカエラが真顔で言う。
「見てた方は止めたんだぞ。必死に。でも躊躇なく引き金引くんだから」
呆れ気味に言うリーナ。
「……結果、予想通り即死。酒と若げの至りの融合は凶器」
さらに続ける。
「冬の川に飛び込んで『寒中水泳訓練だ!』って叫んだネール。そのまま心臓ショックで昇天」
「真冬の川に水着一枚で飛び込んだ時は、マジで入水自殺かと思った」
アリスが苦笑い。
「あれは勇気の暴走……?」
「暴走ってかアホだ。完全に」
目撃者だったフローラとエレナが無慈悲に言った。
「あと新年の宴会で『日本のモチの早食い芸しまーす!』って豪語したヴェール」
メアリーが目を閉じる。
「……あれはペリカン隊も間に合いませんでしたね」
「案の定喉に詰まって窒息死。正月早々にアホ死一名」
そう俺が言う。一同沈黙。そしてエリザベスがぼそり。
「なぜ毎月のようにアホ死が出るんです、この大隊……?」
俺は肩をすくめる。
「自制心<<<若さ+ストレス+学徒兵+テンション+酒という、最悪の方程式が成立してたからだ」
レベッカが苦笑する。
「今思うと、あれら完全無駄死にだよね……」
クリスティーナが頷く。
「つまり、戦場より日常の方が危険だったと。学徒兵の闇は深い……」
フローラが空を見上げる。
「でも、この箱庭ではアホ死は再現できないよ。ネクロディア様が死をキャンセルするから」
「うん、モチを食べても、飲み込む前にループ処理しちゃうよ♡」
なぜか横にいる邪神。こいつめ、いつの間に。
「君たち、ぶっちゃけ、あまり生物としては信じられないからね♡」
「信用ねぇなぁ」
だが、否定はできない。
そのうち丘の上に桜並木が見えてきた。風に花びらが舞う。
「まあ酒は禁止だが、団子と桜餅と焼き鳥は大量に用意した。倉庫が勝手に補充した」
アリスが眉を上げる。
「なにその和風フード祭は……」
エリザベスが呆れる。
「この箱庭は一体どこへ向かっているのか」
俺はスワロー隊が持ってきている、食料の入ったカバンを見ながら言う。
「ブラックバニアは明治維新リスペクト国家だぞ。花見は義務だ」
レベッカが小さく笑う。
「まあ……満開の桜の下でみんなと団子食べられるなら、それでいいよ」
キャサリンがくすくす。
「死後の世界がこうなるとは思わなかったランキングぶっちぎり一位ですよ」
「俺も同感だ」
桜の下に到着。敷物を広げる音。
誰も周囲を警戒していない。それがまだ少し、落ち着かない。
「よし、全員座れ」
花びらが肩に落ちる。
「花見開始だ。シラフでやれ、シラフで」
150人の声が揃う。
「「「おー!」」」
妙に素直だ。
団子が配られ、桜餅が並び、焼き鳥の匂いが広がる。
笑い声。小競り合い。
ネクロディアが遠くでニヤニヤしている。
……昨日は永久禁固刑を言い渡された。
今日は桜の下で団子。落差が激しい。
――だが
「……悪くない」
ベアトリスとユリシアが聞きつける。
「隊長が悪くないって言った!」
「歴史的発言! 語録に追加します!」
うるさい。だが、笑っている。昨日の静けさはもうない。
箱庭は檻だ。永久という代償と引き換えの安寧。
だが。今日だけは。
桜の下で、シラフで笑う。それくらいは、許されてもいいだろう。




