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11.探索

 大広間に集まった151名。


 だが、誰一人として状況を完全に理解していなかった。


 死んだはずだ。全員が、その瞬間を覚えている。


 なのに今、こうして立っている。


 分かったのは、この目の前の幼女型邪神の酔狂で復活したという事だけだ。


 先に逝った者も、最後に散った者も、全員ここにいるが、昔話をする余裕はない。。


 ネクロディアが気楽に言った。


「ま、百聞は一見にしかず。屋敷と周りの土地の散歩でもしてきなよ?」


 ……散歩、ね。


 俺は静かに口を開いた。


「こいつの言うことに従うのは癪だが、まずは屋敷と周囲の構造を把握するぞ。戦場じゃなくても、地形を知らないのは命取りだ」


 空気が少し締まる。


 エリザベスが即座に応じる。


「了解しました。ひとまず指揮系統はそのまま維持した方が混乱も抑えられます」


 少女たちは自然に原隊ごとへ分かれて探索方位を決める。


 俺と参謀のエリザベスとレベッカ。それから戦死組の中で原隊が崩壊済みの奴は屋敷で各隊の報告をまとめていく。


 染み付いた動きだ。死んでも消えない習慣である。


 しばらく探索の後、無線を通して入る報告は、常識外れの驚くべきものばかりだった。


 まず一階――生活と戦闘の基盤


 大広間は151人が余裕で入る広さ。


 奥には巨大な倉庫。日用品や医療品や衣類などの生活必需品が山積みされている。


 食堂には長テーブルて厨房。奥には飲食店やスーパーマーケットで使う様な大型の冷凍、冷蔵庫がある


「食材、消耗品が自動補充されてます。置いてあったパンを毒見しましたが、いたって普通のパンです」


 そう報告したのは、歩兵隊隊長のオリヴィア。


「倉庫や食料庫は無限生成、ね」


 消耗品は使ったら即倉庫に補充される。食料も同様。


 武器庫にはAK、56式、MG3、M21などなど。俺たちが実際に使っていたものとまさに同じ銃が人数分。


「弾薬も減りません。撃った分だけ倉庫に自動で新しい弾が補充されています。また、製造番号的に我々が使用していたものが、まさにそのままあります!」


 狙撃兵隊長のジュリアが淡々と報告する。


 大浴場は温泉並みの広さ。湯はおそらく温泉。これも無限に湧き出るのかもしれない。


 外見は洋風屋敷なのに中身は和洋折衷。なぜかある縁側からは静かな日本風庭園と池。


 だが、周辺は……静かすぎる。


 二階――私室


 俺と全隊員の部屋。151部屋ある。どういう仕組みなのか、明らかに屋敷の大きさと部屋数が比例していない。


 妙に整っている。それぞれの好みを知り尽くしているように。逆に気味が悪い。


 三階――知識と混沌


 図書室は無限とも思えるほどの蔵書。


 孫子やクラウゼヴィッツから、漫画や小説。果てはポルノ雑誌までありとあらゆる種類の本がある。こちらも明らかに屋敷の大きさと広さが比例していない。


 誰が書いたか不明な「第666特別大隊史」なる本が書庫の中央に鎮座している。……なんとなくこれは読んだらsan値が減る気がする。


 屋上のバルコニーからは遠くに丘の桜林。


 そして奥にはなぜか日本の鳥居が見えた。


「隊長!」


 無線が入る。迫撃砲隊長のヴィクトリアからだ。臨時指揮所にしているバルコニーで各隊の報告をまとめていた俺はすぐに返答した。


「屋敷を中心に半径五キロで異常があります!」


「どうした?」


「東西南北に鳥居があり、越えると視界がブラックアウト。直後に屋敷の門の前へ戻されます」


 続いて偵察兵隊長のマリー。


「地平線が本物じゃありません。空も雲も距離感が狂ってる。巨大なドーム内部のようです。まるでプラネタリウムみたいな……」


 ……やはりな。


 脇にいたレベッカが小さく言う。


「閉じ込められてるよね?」


「ああ」


 俺は頷く。


「閉じた世界だ」


 完全な舞台装置。


「敵の反応……いえ、生き物の痕跡はゼロです」


 機関銃兵隊長クリスティーナの報告。


 動物はいない。虫の羽音もない。生命の気配すらない。


 戦う相手はいない。だが、武器だけはある。


 つまり、ネクロディアは意図的に俺たちの戦闘能力を残している。


 奪わない。だが、使う相手も用意しない。


 ……試されているのか?


 はたまた嫌がらせか。戦うしか出来なかった俺達から戦争を奪う。


 しばらくして俺達は大広間に戻り、屋敷に帰還した全員を見る。


「まとめると――」


 静まり返る。


「ここは生きる設備は完璧だ。食料も、武器も、風呂も、寝床もある……だが外界が存在しない」


 エリザベスが静かに言う。


「殿下を中心に閉じた世界……まるで儀式空間のようです」


 レベッカは不安げに笑う。


「戦わなくていいって……すごいけど……」


 フローラは周囲を見渡した。


「でも、誰もいないの怖くない……?」


 アリスが眉をひそめる。


「鳥も虫もいない森とか、気味悪すぎるでしょ」


 その通りだ。生命の気配がない世界は、不自然だ。


 クリスティーナが小さく言う。


「家族しかいない世界……素敵だけど……閉じ込められてるみたい……」


 俺は深く息を吐く。


 結論は一つ。


「ネクロディアは俺たちを外へ出す気はない」


 全員が息を呑む。


 沈黙。だが、俺は続ける。


「――だが」


 顔を上げる。


「戦争よりは……あの地獄よりマシだ」


 誰かが息を漏らす。


「ひとまず、やることは一つだ」


 俺は全員を見渡す。


 150人。


 地獄の戦場を潜り抜けた少女たち。


「この箱庭で、もう一度大隊を立て直す」


 目に光が戻る。


 レベッカが頷いた。


「スカイが言うなら、私、生きる」


 アリスが笑う。


「そうこなくちゃ!」


 クリスティーナが小さく微笑む。


「ずっと一緒だよ……?」


 そして声が重なる。


「「「殿下のために、大隊の家族の為に生きます!」」」


 その瞬間、屋敷が微かに軋んだ。


 家鳴りだ。だが、まるで――喜んでいるように聞こえた。


 俺は天井を見上げる。


 ネクロディアめ。お前の思惑は知らん。


 だが、幽閉でも、箱庭でも、舞台装置でも。


 俺たちは部隊だ。閉じた世界だろうと。生きる以上、統率してやる。


 そして思う。


 ――だが、本当に危険なのはこの空間でもネクロディアでもない。


 この濃すぎる日々を送ってきた大隊員にとっては何もない日常そのものが危険かもしれない。

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