プロローグ 起床
午前7時。この屋敷の朝は今日も騒がしい。
セットされた目覚まし時計がけたたましく鳴り響いた。
「起床!!」
誰かが即座に叫んだ。その声に反応して次々と少女達は飛び起きた。この屋敷の大広間には151枚の布団が敷かれ、全員がそこで眠っている。
眠っていたのは俺を除き、全員美少女達である。総勢150名。どの子も年相応に可愛らしい。この年頃の女の子特有の甘い香りが寝起きの鼻孔をくすぐる。
部屋は余っているのに、結局みんな現在は大広間で眠るようになった。誰かの寝息が聞こえない夜に、誰もが違和感を覚えたからだった。
「おはよ~」
「よく寝た。ここに来てから、心なしか健康になった気がする」
「そりゃ今までいた環境が酷かったからね~」
そんな声が至る所で聞こえる。150人の美少女が一斉に起床する光景は、下手な女子寮よりも騒がしく、ある意味壮観だった。
俺も瞼をこすりながら身体を起こす。目に入るのはいつもと変わらない日常風景。この光景にも慣れたものだ。
「おいおい、ここで着替え始めるなよ~殿下、欲情しちまうぜ?」
「いいじゃん。今更でしょ」
何人かは布団をたたむとその場で着替え始める始末。色とりどりの寝間着や下着が視界の端を横切る。
見ていない。見ていないからな。
……いや、ちょっと見た。
「スカイ?」
思わず背筋を伸ばした。
俺の名を呼ぶ声がする。聞きなれた声だ。見ると、声の主は紫の髪をサイドテールにした少女、レベッカ。
俺の幼馴染で、この屋敷で一番遠慮なく俺を睨める女だった。
「スカイ~? 随分楽しそうにガン見してんじゃん」
「見てない」
「はい絶対嘘。問題。アリスの今日の下着、何色だった?」
「黒」
「見てるじゃん!」
「向こうが見せつけてきたんだ!」
「言い訳するんだ。じゃあ、私しか強制的に目に入らない様にしてあげる」
「ん?!」
そう言うが早いがレベッカは俺の唇を奪ってきた。柔らかい感触が心地いい。
「ヒィィィハァァァッ! 正室様、朝からお熱いねぇ!」
「うわっ! 正室様、キスを通り越して顔舐めてる! すっげぇ!」
「あ、抜け駆けずりぃ! 私も私も!」
我が幼馴染の暴挙に何故か盛り上がる一部の女子達。
そんな光景を見ながらため息をつくのが、俺の唯一のブレーキ役でもある参謀のエリザベスである。
「朝っぱらからこれだよ……」
眼鏡を押し上げながら、エリザベスが淡々と言った。
「朝食当番はイーグル第7小隊、第8小隊、ヴァルチャー第5小隊、ペリカン第2小隊です。あと殿下、寝起き一分で問題行動を起こさないでください」
「おはよう、エリザベス。異常が毎日続くのは、それはもう日常なのでは?」
「言い訳するな」
こんなカオスが毎朝の様に展開されるこの屋敷だが、異質さにはもう慣れた。
ここに来てから、誰も病気らしい病気をしない。
傷もすぐ治る。
老いもしない。
そして、誰一人として外界へ出られない。
それでも朝は来る。だから俺たちは、今日も起きて、着替え、布団を畳む。
これまでも、これからも。
10年後も
100年後も
1000年後も
10000年後も
多分、同じように畳む。
壁に掛けられたのは一枚の軍旗。
そこに描かれたのは鳥籠の中の鳥。そして旗に書かれた文字は「第666特別大隊」。
その下で朝起きる151人。
――その中に純粋な意味での生者は一人もいなかった。
***
話は数十年前にさかのぼる。
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