Story 1
ある日ー
「お前ってなんかつまんない」
「え?」
龍弥はTシャツを着た。
「俺とお前の熱量?が違うというかさ」
「えっと、それは......」
「俺だけ興奮しててなえる。俺バカみたいじゃん」
姫那は悲しそうな顔をしてうつむく。
「ごめん、もう帰るね」
姫那は服を着て、ロングスカートを履いた。
カバンを持って靴を履くと、彼の部屋を出た。
暗い中歩いて帰る。
深く白い息を吐く。
そのとき、黒い車が止まり、窓が開いた。
「姫ちゃん?」
姫那は驚いた顔でそちらを見た。
職場の上司である虎雅が小さく手を振っていた。
「どうしたん?暗いオーラまとって」
「あ、いや、何でもないです」
「こんな暗いとこひとりで歩いてたらあかんやん。送るわ」
虎雅は親指で後部座席を指す。
「そんな、大丈夫です!」
「ええから乗っていき」
「でも......」
「姫ちゃん」
姫那は申し訳なさそうに小さく頭を下げると、後部座席に乗った。
「じゃ、出すで」
「すみません」
「ちょうど良かったな」
虎雅は窓を閉めた。
「寒ない?いける?」
「大丈夫です」
「ちょっと上げよか。寒かったろ」
「あっ、お構いなく」
虎雅は元々大阪で働いていたが、東京に転勤してきたと前に誰かから聞いた。
彼は面倒見が良く、誰にでも分けへだてなく優しく振舞っているので、社内で人気者だ。
「姫ちゃんさ、俺に気ぃ遣わんでええねんで?」
「いや、上司なんですから当たり前です!」
「俺そういうの苦手やねんなぁ」
姫那は23歳、虎雅は30歳。
7歳も差があるのだ。
気を遣って当然だと思うのだが。
姫那は小さく息を吐いた。
虎雅先輩とふたりきりなんて緊張する〜
優しくて、面倒見良くて、かっこよくて、大人って感じがするから
「姫ちゃん」
「はい」
「なんか悩んでることとか、つらいこととかあったら俺に言ってええからね。いつでも話聞いたるから」
姫那は涙をこらえる。
「大丈夫、です」
「声震えてるやん」
「ほんと、大丈夫......」
少しして虎雅は車を停めた。
「着いたで」
「ありがとうございます」
虎雅は車を降りると、後部座席のドアを開けた。
彼は右手を差し伸べる。
「えっ」
「ほら」
姫那は戸惑いながら右手を彼の右手に乗せた。
わ......!
大きな手......!
心臓が早くなる。
「ひとり暮らしやったっけ」
「はい」
「戸締り気ぃつけや。あと早く寝るんやで」
彼女は笑みを浮かべてうなずいた。
「おやすみなさい。お疲れ様でした」
姫那は家に入っていく。
虎雅は「ふぅ......」と深く息を吐いた。
姫那は家に入ると胸に手を当てた。
虎雅先輩の車、左ハンドルだった!
すごい大人って感じ!
というか降りるとき手を貸してくれた、ヤバイ!
彼女は深呼吸した。




