バス停で雨宿りをしていたら名探偵の推理ショーに遭遇した
ミステリの推理ショー部分だけを書きたいという欲望から書きました。
メロンパンの皮だけ、フワフワチョコの頭だけの様なものです。
※黒銘菓の『不殺主義』の禁忌に触れています。ご注意ください。
ここは寂れた田舎のバス停、トタン屋根と背中合わせの長椅子があるだけ。
時刻表なんてほぼ白紙、使うのはミステリ好きで影が薄い私と、稀に買い物する爺婆、あとは雨宿り。
「彼を殺したのは、貴女ですね」
「……刑事さん、面白いことを言うのね。父が自白したでしょ?」
雨宿りに来た眼鏡のおじさんと綺麗なお姉さんが私の後ろの椅子でそんなことを言い始めた。
え?
何?
なんて言った?
「確かに忌助氏は自白しましたが、彼は犯人ではありません」
影が薄いばっかりに、エラい場面に遭遇した。
え?忌助さんが、殺人犯?
「十年前の事件翌日、忌助氏は診療所で左足の骨折の治療を受けています。原因は前日の午前中の転倒。
死亡推定時刻は午後。小柄とはいえ男性の死体を片足で運び崖から突き落とすのは不可能です」
「骨折したのは突き落とした後じゃない?」
「骨折の瞬間を目撃した方がいました。衝動的な犯行で予め骨折の芝居をする。不自然です」
「それがもし本当なら、犯人は、誰?」
聞き入ってしまう。
「あの日、このバスの終着点で降りたのは先ず貴女、そしてその次の便乗った被害者だけ。
貴女は家に帰り、その後貴女の家から誰も出ておらず、その後被害者が行方不明だと騒ぎになり、捜したところ近くの崖下で彼を発見した……そうですね?」
「そうよ、運転手の金雄さんもそう証言してるでしょ?」
「はい。セーラー服の子を乗せ、次の便でブレザーの子を乗せたと。
しかし彼は、貴女を乗せた後で被害者を乗せたとは言ってません」
刑事さんの目が光る。ミステリ好き故に、何を言いたいか、解ってしまった。
「被害者は小柄な生徒で女性と間違えられることもあったそうです。
被害者がセーラー服姿でバスに乗り、その後貴女がブレザーでバスに乗る。
その後貴女が被害者の遺したセーラー服に着替え、ブレザーを切り刻み死体の上に撒き、家に帰れば、貴女のアリバイは成立し、犯人がいじめの加害者だと思わせることが出来る」
「じゃぁ、私が犯人?」
違う。
「貴女は彼を殺しました」
違う。
「そうね」
違う!
「彼は自殺をしました。貴女はその共犯者、ですね?」
「そこまで言うなら、動機も解ってるんでしょ?」
「被害者のいじめの報復。そして、貴女を助けるため」
「えぇ、いじめの主犯との婚約は世間体が悪いから」
そう、私の狙い通りだ。
「止めることは、他の手立てはなかったのですか?」
無理だった。だって……
「あの頃の私達に出来るのはそれだけだったの」
書きたい事だけ書いたという感じです。




