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断罪イベントを楽しみにしてたのに、王子が全肯定してきて崩壊した話

作者: 月宮 かすみ

 断罪イベント、それは乙女ゲームのクライマックス。

 悪役令嬢が断罪され、ヒロインが愛を勝ち取る感動(?)の瞬間である。

 ――そして私、クラリッサ・ベルフィーユは、その悪役令嬢に転生した女だ。


(ようやく……ようやくこの日が来た……!)


 私は、玉座の間で神妙な顔をしながらも内心ガッツポーズを決めていた。

 だって、ここまでどれだけ努力して“悪役令嬢”を演じてきたと思ってるの!?

 ヒロインに意地悪するのも、わざと公衆の面前でマウント取るのも、全部シナリオ通り。


 ──すべてはこの“断罪イベント”で華麗に追放され、第二の人生を歩むため!


(旅支度も完璧、街の外れの屋敷も借りてある。馬車も予約済み……ふふふ、完璧)


 いざ、断罪される覚悟と準備だけは誰よりも整えている私に、王子は言った。


「クラリッサ! 君のことを悪く言う者がいるなら、僕が許さない!」


「……え?」


「僕は君のすべてを、魂の底から肯定している!!」


「……は???」


 私はポカンと口を開けた。

 その隣で、ヒロイン(本来ならここで勝利宣言をかます役)ことミリアちゃんが、戸惑った顔で言葉を挟む。


「王子様、でもわたくしとあなたは運命の赤い糸で──」


「うるさい、帰れ」


 ヒロイン、秒で敗北。


 私は震える手で王子を指差した。


「ねぇ、なんで!? なんで!? ここ、“追放の場”でしょ!? 感動の別れのシーンでしょ!? せめて“婚約破棄だ”くらい言ってよ!?!?」


「言わないよ。だって僕はクラリッサが好きだから!」


「それが一番予定狂うのよおおおお!!!」


 ……こうして私は、断罪も追放もされることなく、

 “全肯定バカ王子”に溺愛される人生という予想外のルートにぶち込まれることになった。


 予定と違う。

 誰か……誰か台本持ってきて!



 ***



 断罪イベントというのは、本来こういうものだ。


 貴族たちがズラリと並ぶ豪奢な玉座の間。

 中心にはヒロインが涙を浮かべながら「この方はひどい人なんです!」と訴え、王子が険しい表情で私に言い放つのだ。

 ――「クラリッサ・ベルフィーユ。貴様との婚約は、破棄する!」と。


 その瞬間、私は涼しげな顔で一礼し、旅装のコートを羽織って「これにて、失礼」と立ち去る。

 見よ、あの背中――悪役令嬢にして、華麗なる去り際の女王!!


 ……の、予定だった。


 なのに。


「クラリッサを侮辱するなど、王家への反逆だ!!」


「は?」


 耳を疑った。


 ちょっと待って。今、王子殿下、なんて?

 王家への反逆? 誰が? 何が? え、ヒロインが泣いてるのに、なんでそっち庇うの?


 周囲の貴族たちもざわついている。ミリアちゃん(原作ヒロイン)は、驚きのあまり目を見開いていた。


「クラリッサ様が私に言ったのは、“婚約者に色目を使うなど品性を疑う”って……」


「それの何がいけないというのだ!?」


「えっ」


 いやいや、ちょっと待って!

 そこは「そんなことを言ったのか、クラリッサ……失望した」って流れでしょ!? どうして100%擁護してくるの!?


 私は思わず一歩前に出て、王子に詰め寄った。


「殿下。私は“ヒロインを見下し、陰湿に嫌がらせを重ねてきた悪役令嬢”なんですのよ?」


「それも、クラリッサなりの愛情表現だったんだね。尊い」


「せめてツッコんでえええええええ!!!」


 耐えきれず叫んでしまった。

 だってそうでしょう!? ここ、私が断罪されて涙ながらに去る場面よ!? 今、カタルシスが発生するタイミングよ!?

 なぜ全肯定の嵐で吹き飛ばされてるの!?!?


 ヒロイン・ミリアちゃんが、なおも王子にすがりつく。


「でもわたくしと王子様は“運命の赤い糸”で――」


「うるさい、帰れ」


 王子、バッサリ。


 玉座の間に沈黙が満ちた。


 そして、誰よりも混乱していたのは――この私だった。


(……どうしよう。旅支度、もう済ませてるのに)


 この日を目指して準備してきた。旅の荷物は一週間分きっちり詰めてある。使用人たちへの謝礼も、別れの手紙もすべて用意済み。

 玄関の隅には“追放記念”に作ったマントすら置いてある。これ着て「ありがとう、さようなら」って決める予定だったのに!!


「クラリッサ。今日はもう疲れただろう? 僕の部屋で休むといい」


「なぜに王子の部屋ああああああ!!?」


 ……私の計画は、その日を境に粉々に砕け散った。


 完。



 ***



 翌朝。

 目覚めると、私は旅装のまま王宮の来賓用寝室にいた。


 ……なぜ。


「クラリッサ様、お目覚めですか」

 カーテンを開けたのは、私の専属執事・セバスチャン。

 白髪に片眼鏡、完璧な身だしなみに涼しい笑顔――だがその目は死んでいた。


「……セバスチャン、私、追放されてないわよね?」


「ええ、むしろ溺愛されておられました」


「嘘でしょ……?」


 私はがばっと起き上がると、部屋の隅に目をやった。そこには、昨日の夜にそのまま積んでおいた“追放セット”がきっちり並んでいる。


 ・旅装コート(ドラマティックな裾付き)

 ・別れの手紙(泣きながら書いたやつ)

 ・自活の手引き書(王都で一人暮らしマニュアル)

 ・皮袋に詰めた予備金(庶民の物価を調べ尽くして割り出した生活費3か月分)


 準備は完璧だったのに。むしろ完璧すぎたのに。


「……もう一度確認するけれど。私は、断罪されるはずだったのよね?」


「はい。ですが殿下は“すべてを肯定する”と仰って、ヒロイン様を追い返されました」


「どこのナチュラルバーサーカーよ……」


 私は頭を抱えた。いやもう意味がわからない。ヒロインを追い払って、なぜか私を「今夜は一緒に夕食を」と招き、フルコースで「クラリッサの瞳は星空より美しい」とか言い出す始末。

 その後、「眠そうだね? 君がぐっすり眠れるように」とか言って私をこの部屋に運ばせたらしい。


 おかしいでしょ? 乙女ゲームでそんな選択肢、なかったでしょ!?


「というか、この服……」

 見下ろすと、私はまだ旅装のままだった。断罪される気満々で選んだ、“高貴だけど薄汚れ感もある”コーディネート。


「……セバスチャン、これもう脱いでいい?」


「いえ、殿下が“その服装、クラリッサの強さを表している”と絶賛されまして。記念に絵画に描かせたいそうです」


「何でよおおぉぉぉ!!!!」


 私は頭を抱えたままベッドに倒れ込んだ。


 そこへ――またもや、ノックもせずに扉が開いた。


「おはよう、クラリッサ!」


 爽やかな笑顔で登場したのは、我らが“全肯定バカ王子”こと、レオンハルト殿下。


「君の目覚めを祝して、朝食を用意したんだ。ほら、クラリッサの好きな――旅先でも食べやすい保存パンと干し肉!」


「何その追放者向け朝食!?」


「君の荷物にあったから、好物かと思って!」


 いやそれ、旅の備え食料だから!?!? しかも王族のくせに私の荷物検めるのやめて!?!


「ねえレオン様……私、本来なら今頃、追放されて山小屋でネズミと寝食を共にしてたはずなの。なのに、なぜあなたは私に全肯定してくるの……?」


「それが愛だからだよ?」


「全力で却下します!!!!」


 ……このままでは本当に、予定が崩壊どころか、私の人生そのものが迷子になりそうだった。



 ***



「帰ってきましたわよッ!!」


 王宮の大理石の回廊に、ヒロイン――ミリア・スノーフィールドの叫びがこだました。

 たった一晩で再襲来。しかも、めちゃくちゃ元気だ。


 あの断罪イベントの翌日、私は“旅装のまま寝間着生活”という意味不明な状況に陥っていた。

 王子から贈られた“断罪記念の金のブラシ”も受け取ってしまった。使えないし怖い。


 そんな折に、ミリアちゃんが王宮へ正面突破……まさかここまで“公式ルート”から逸れるとは。


「クラリッサ様!! わたくし、まだ負けたつもりはありませんわ!!」


「いやもう、帰って寝てて!?!?」


「わたくしは“選ばれし乙女”なんですのよ!? 星の導きと運命の力でレオン様と結ばれるはずなんですの!!」


 そう言いながら、ミリアちゃんは魔導石のネックレスを掲げて叫ぶ。


「この“蒼の運命石”は、真実の恋人の前で光るのよ!! 見て! さあ!!」


 ……光らなかった。


 王宮の空気が、なんとも言えない沈黙で包まれる。

 そして、レオンハルト王子が厳かに言った。


「きっと石の方がクラリッサに遠慮しているんだろう」


「どういう理屈ですのぉおおおお!!!」


 叫ぶミリアちゃんを前に、私はもう限界だった。


 だって、彼女、可哀想じゃない?

 本来ならここで恋に落ちて、ハッピーエンドのはずだった子よ? なのに王子には睨まれてるし、ネックレスは光らないし、宿も取ってないらしい。


 ――だから私は、覚悟を決めた。


 この際、全部正直に話すしかない。


「王子殿下……どうか、お聞きください」


「ん? どうしたんだい、クラリッサ?」


「私……あなたを騙していたのです」


「ほう」


「私は、王子を手に入れるために、ミリア嬢に陰湿な嫌がらせをして、使用人に金を握らせ、学園内の権力を振りかざして――!」


「そこまでして、君は僕に微笑みたかったんだね。尊いなあ」


「ツッコんでよおおおおお!!!」


 私はその場に崩れ落ちた。涙まで流してみた。演技じゃない。ガチ泣きである。

 そして、手をついて頭を下げた。いや、違う。これは――


「私は……この通り、悪役だったのです!! 断罪されるはずだったのです!!」


 床に額をつけるポーズ。それは“自己断罪の土下座”だった。


 ……が。


「クラリッサ、やめてくれ!」


 王子が慌てて私を抱き上げる。


「君がそんなことをするなんて……まるで自分を責めているようだ!」


「事実です!!」


「僕のために土下座してくれるなんて、どこまで愛にあふれてるんだ君は……!」


「解釈がバグってるのおおおお!!!」


 私は振り払いたくても振り払えず、王子の腕の中で空を仰いだ。


 ……そして見つけた。


 廊下の奥。ミリアちゃんが、ぷるぷる震えながら拳を握っていた。

 涙をこらえている。わかる。これは、悔し涙じゃない。もう……悲しみだ。


「ミリア様」


 私は王子の腕からずり落ちながら、彼女の前に歩み寄る。


「あなたがこの国で最も美しく、優しく、選ばれし乙女であることに、疑いはありません。すべて、私の台無しな人生設計のせいで……ごめんなさい」


「え……?」


「私のせいで、あなたのエンディングが壊れてしまった……本当に、申し訳ないわ」


 そう。

 せめてもの罪滅ぼしに、ヒロインに謝罪を。

 この物語の本来のヒロインに、私から――


「……わたくしは絶対に諦めませんわ」


「えっ」


「あなたを潰してでも、わたくしがこの物語の主役に戻ってみせますわよ、クラリッサ様ァ!!」


 笑った。

 いや怖い。笑顔が怖い。目が笑ってない。


 その日を境に――

 “悪役令嬢(予定)vsヒロイン(本来)”の、どこにも向かわない仁義なき恋愛戦争が、始まった。



 ***



「セバスチャン、決行よ」


「……本気で?」


「本気も本気、大真面目です。もう私の精神が限界ですの」


 私は月の照らすバルコニーに立ち、マントの裾を翻した。

 背には“追放用”に用意していた本革のリュック。中には食糧、着替え、予備金、そして“婚約破棄された女の手記”という、謎の自作ポエム集。


 準備は完璧だった。というか、ずっと完璧だった。問題は「使うタイミング」が来なかっただけ。


「殿下が見回りに出ている今しかありません。門番には、例の睡眠紅茶を」


「はい。昨晩より煮出しておきました。バラの香りで眠気倍増です」


「やるわね、セバスチャン……! あなたにだけは退職金をきちんと払ってあげるわ」


「死ぬ気ですか、クラリッサ様」


 そう。

 これは――“脱・全肯定王子”のための、決死の夜逃げ。

 あのまま王子の愛に押し潰されてたまるか! 私には未来があるのよ!!


「馬車の準備は?」


「裏門の先に停めてあります。荷台には“亡命者セット”一式を」


「完璧!!」


 すべては、私とセバスチャンの用意周到な計画の賜物だった。

 あとは、走り抜けるだけ。


 私は静かに階段を駆け下り、裏門の扉を押した。――が。


「ようこそ、クラリッサ。逃亡の旅へようこそ!」


「……は?」


 そこにいたのは、銀の甲冑を着たレオンハルト王子だった。

 しかも満面の笑みで、背後には"私の顔が彫られた金の銅像(等身大)"が、馬車を塞ぐように立っていた。


「……何この呪いの像」


「“クラリッサといつも一緒”プロジェクト第一弾だよ。逃げようとするたび、君のいる場所に出現するんだ!」


「なにそれホラー!?!?!?!?」


「すごいでしょ? 陛下に頼んで、王都中に20体設置したんだ。……あ、これが地図」


 差し出された巻物には、「王都銅像配置図」と書かれていた。

 よく見ると私の顔が笑顔とウインクと泣き顔の3種類用意されている。バリエーション、いらん。


「ちなみに今日は“泣き顔バージョン”の日だからね! 『逃げないで、クラリッサ』って心に訴えかける仕様なんだ♪」


「やめろ!!! 私の感情を勝手に表現するな!!」


「ちなみに、“全肯定の園”って庭園もつくったよ。入ると僕の声で『クラリッサは素敵! クラリッサは偉い!』って延々に流れるんだ!」


「拷問!? それもうただの拷問よね!!?」


 私はその場で頭を抱えた。逃げる気力が霧散する音がした。


「クラリッサ……そんなに僕から逃げたいの?」


 レオンハルト王子が、しゅん、と肩を落とす。

 でも、君、それ絶対演技だよね。わたし、そういうの知ってるもん。

 でも、演技でも、ちょっとだけ――ちょっとだけ胸がチクっとする。


「……あなたといると、息が詰まるのよ。何をしても褒められて、叱られなくて、私が私でいられない」


「じゃあ……叱れるように、努力するよ!」


「努力して怒られる人初めて見たわ!!」


「叱ってくれたら、嬉しい?」


「どうしたらいいのこの人!?!?!?」


 私は膝から崩れ落ちた。

 逃げられない。いや、逃げるたびに何かしら増えていく。次は何? 銅像の次は、噴水? 脱出ルートに“愛の道標”とか立てる気?


「クラリッサ……そんなに嫌なら、僕と結婚しようか」


「今の流れでなぜそうなる!?!?!」


 王子は真顔だった。

 いや、むしろ、これまでのどの時よりも真剣だった。


「僕はね、クラリッサ。君がどんな過去を持っていても、どんな罪を背負っていても、君が笑っていられる場所を守りたいんだ」


「……」


 ずるい。

 そういうこと言うの、ほんとずるい。


 私が絶対に選ばれない悪役だって知ってて、台本には破滅しか用意されてないって分かってて、

 それでも「君が幸せになる物語に書き換えたい」みたいな顔をするの、本当にずるい。


「……でも、私はまだあなたを好きじゃないわよ?」


「大丈夫。僕が好きだから、両想いの50%は達成してる!」


「算数おかしいってば!!!!!」


 ――逃亡計画、失敗。


 金の銅像に囲まれながら、私は馬車に乗せられ、王宮へと連れ戻されたのだった。



 ***



「ーー結婚しよう、クラリッサ」


 そう告げたレオンハルト王子の手は、何のためらいもなく差し伸べられていた。

 背後では、"クラリッサ銅像 in 愛の花壇バージョン(new!)"が、月明かりに照らされて神々しく輝いている。


 ……あのさ。


「ねぇ、一応聞いておくけど。わたしの了承、必要なわけ?」


「もちろん必要だよ。だから今、許可を取りに来たんだ」


「でももう婚約者って名乗ってるし、銅像は作ってるし、あとそれ公式文書にもなってるでしょ?」


「気にしたら負けだよ!」


 ……なるほどね、君とは一生話が噛み合わない自信があるわ。


 私は深く息を吐いた。

 もう逃げるのは無理。夜逃げも破綻、毒入りチョコ計画もバレて未遂、バナナの皮滑り作戦に至っては王子が喜んで一緒に滑って大笑いして終わった。


 なら、せめて、私の口から言わせて。


「……いい加減、ちゃんと向き合いましょうか、王子様」


「ん?」


「どうしてそこまで、私を選ぶの? 私、ゲームの中じゃ悪役だったのよ。ヒロインをいじめて、周囲に嫌われて、婚約破棄されて追放されるのが“正しいルート”だったのよ?」


「君は、“その役割”を真面目に演じていただけじゃないか」


 レオンハルト王子は、私の手を取った。


「それって……すごく、優しいことだと思う」


「……優しい?」


「だってさ。自分が悪く思われてもいいから、誰かの物語を成立させようとしてたんだろ?」


 私は黙った。

 その通りだ。だからこそ私は、断罪される未来を疑わなかった。悪役として、悪役らしく、舞台から退場するのが筋だと信じてた。


 でも――


「じゃあ、今からは僕が君の物語を成立させる番だ」


 王子は微笑んだ。その瞳に、迷いはなかった。


「君が悪役だったって? そんなの関係ないよ。君が君である限り、僕は肯定し続ける。それだけだ」


 私は言葉を失った。


 ……ズルいよ。


 そんなまっすぐな言葉。

 この世界に来て、私がずっと欲しかったものを、今さらそんな顔でくれるなんて。


「……馬鹿ね」


 私は呟いた。涙が、止まらなかった。


「全肯定とか言ってるくせに、そうやって一番大事なとこで心を揺らすんだから……ズルいのよ、あなたって……」


「……じゃあ、どうすればクラリッサは“YES”って言ってくれるの?」


 私は彼の手をぎゅっと握った。


「もう言ってるじゃない、“YES”って」


「ほんと!?」


「声に出してないけど!!」


 私は顔を真っ赤にして叫んだ。


 王子は満面の笑みで、私を抱きしめた。


 そして、どこからともなく現れた王宮楽団が演奏を始め、どこからか飛んできた鳩が舞い、空からは“クラリッサ様祝福ビラ”が舞い散った。

 ビラの端には、こう書かれていた。


『王子と悪役令嬢、ついにご成婚!?』

 “クラリッサ万歳週間”開催決定!


「なんで準備してんのよぉおおおおお!!!」


 私は全力でツッコみながらも、どこか心の底では笑っていた。

 予定はすべて崩壊した。でも、崩壊した先に待っていたのは――


 私が知らなかった、“物語の続き”だった。



 ***



 結婚式当日。王宮には、笑顔の群れと、銅像の群れが立ち並んでいた。

 ドレスに身を包んだ私は、祭壇の前で最後の確認をする。


「本当にいいの? これから先、あなたは一生“私を全肯定するマン”として生きるのよ?」


「もちろん!」


「地獄よ?」


「天国だよ?」


 私は深いため息をついて、でも最後は笑った。


「……ま、悪役令嬢でもヒロインでもいいわ。今だけは、私が主役でいていいかしら?」


「もちろん。君はいつだって、僕の主役だよ」


 ──こうして、悪役令嬢の“断罪イベント”は、

 まさかの“全肯定ルート”で終焉を迎えたのだった。


 でもまあ、悪くないわよね。これも一つの、ハッピーエンドってことで! おわり!


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めっちゃ笑ったwww こんな王子に愛されたらきっと毎日楽しいよね 読めてよかった、ありがとう
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