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コンプライアンスを遵守したい年の差恋愛  作者: 金雀枝
第4章:つないだ手、心の距離
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幕間 Side:各務 彼方

 現場の荷下ろしを終えて、トラックを商店街のはずれに寄せた。湯に行くにはまだ早い。角の八百屋に顔を出す。


「おう彼方くん、今日は早いねぇ」


「ちょっとだけ。菜の花、いいの入ってる?」


「今朝の。苦み少なめ。――そういえば弓削くんとこの子、最近は夕方に来るね。じーっと産地見てから、束の根っこ触っていく」


「見定めてるんだな」


「うん。若いのに目利きだよ。安い方じゃなくて“今日の良い方”を一把だけ。ああいう買い方は、こっちも嬉しい」


 菜の花を二把包んでもらう。支払いの間に、店先の段ボールをひとつ寄せる。


「ありがと。最近、表情が柔らいだね」


「飯が合ってるんだろ」


「だね」


 八百屋を出て、二軒先の魚屋へ。氷の上に鯖と鰆が並んでいる。


「おう、彼方か。今日は鰆がいいよ。脂は控えめ、春の味」


「じゃあ切り身を二枚。――弓削んとこ、最近は何が出てる?」


「この前の女の子、鯖の腹を選んでった。『味噌煮にします』って。骨が少ないのをこっちでよけたら、『助かります』って丁寧に頭下げてな。若い子が常連になってくれるのは嬉しいよ、ほんと」


「礼がしっかり言えるのは偉い」


「それとね、ラップ越しに光をちゃんと見る。安売りだからって飛びつかない。『一回で食べ切れる分だけ』って。勉強になるよ、こっちが」


 鰆を包んでもらいながら、店の親父が氷を足す。氷の音がカランと鳴った。


「弓削くんの方は元気かい?」


「相変わらず。健診に来るように言っといてって、嫁から頼まれてた」


「はは、働き盛りは後回しにしがちだからね」


 袋を受け取り、店先の流しで手をすすぐ。向こうから中学生の列。角のベンチは空いている。


 湯の時間になったので、銭湯に回る。脱衣所でTシャツを着て、縁台に腰を下ろし、フルーツ牛乳の栓を抜く。スマホに未読が一つ。弓削からだった。


【弓削】先日は助かりました。ホワイトデーは無事に。和葉、喜んでくれた。


 短いのが弓削らしい。親指で返す。


【彼方】おう。大げさにすんな。普段通りで十分だ。


 ポケットに戻すと、縁台の向こうで豆腐屋の田島さんが手を振った。


「彼方くん、弓削くんとこの子、礼がちゃんとしてていいね。買い物メモ見ながら、店を回る順番もできてる」


「自分なりの順路ができたのは、生活が落ち着いた証拠だ」


「そうか。若い常連が一人増えるだけで、店の空気が明るくなるもんだな」


 ふたりで笑い合う。余計な詮索は誰もしない。街はそういう距離で回る。


 瓶を飲み切って、王冠を灰皿の端に置く。外へ出ると、植木屋の軽トラにミモザが揺れていた。


 派手じゃない。けど、ちゃんと目に入る。


「――まあ、あいつらは大丈夫だろ」


 そう呟いて、トラックのドアを閉めた。

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