幕間 Side:各務 彼方
現場の荷下ろしを終えて、トラックを商店街のはずれに寄せた。湯に行くにはまだ早い。角の八百屋に顔を出す。
「おう彼方くん、今日は早いねぇ」
「ちょっとだけ。菜の花、いいの入ってる?」
「今朝の。苦み少なめ。――そういえば弓削くんとこの子、最近は夕方に来るね。じーっと産地見てから、束の根っこ触っていく」
「見定めてるんだな」
「うん。若いのに目利きだよ。安い方じゃなくて“今日の良い方”を一把だけ。ああいう買い方は、こっちも嬉しい」
菜の花を二把包んでもらう。支払いの間に、店先の段ボールをひとつ寄せる。
「ありがと。最近、表情が柔らいだね」
「飯が合ってるんだろ」
「だね」
八百屋を出て、二軒先の魚屋へ。氷の上に鯖と鰆が並んでいる。
「おう、彼方か。今日は鰆がいいよ。脂は控えめ、春の味」
「じゃあ切り身を二枚。――弓削んとこ、最近は何が出てる?」
「この前の女の子、鯖の腹を選んでった。『味噌煮にします』って。骨が少ないのをこっちでよけたら、『助かります』って丁寧に頭下げてな。若い子が常連になってくれるのは嬉しいよ、ほんと」
「礼がしっかり言えるのは偉い」
「それとね、ラップ越しに光をちゃんと見る。安売りだからって飛びつかない。『一回で食べ切れる分だけ』って。勉強になるよ、こっちが」
鰆を包んでもらいながら、店の親父が氷を足す。氷の音がカランと鳴った。
「弓削くんの方は元気かい?」
「相変わらず。健診に来るように言っといてって、嫁から頼まれてた」
「はは、働き盛りは後回しにしがちだからね」
袋を受け取り、店先の流しで手をすすぐ。向こうから中学生の列。角のベンチは空いている。
湯の時間になったので、銭湯に回る。脱衣所でTシャツを着て、縁台に腰を下ろし、フルーツ牛乳の栓を抜く。スマホに未読が一つ。弓削からだった。
【弓削】先日は助かりました。ホワイトデーは無事に。和葉、喜んでくれた。
短いのが弓削らしい。親指で返す。
【彼方】おう。大げさにすんな。普段通りで十分だ。
ポケットに戻すと、縁台の向こうで豆腐屋の田島さんが手を振った。
「彼方くん、弓削くんとこの子、礼がちゃんとしてていいね。買い物メモ見ながら、店を回る順番もできてる」
「自分なりの順路ができたのは、生活が落ち着いた証拠だ」
「そうか。若い常連が一人増えるだけで、店の空気が明るくなるもんだな」
ふたりで笑い合う。余計な詮索は誰もしない。街はそういう距離で回る。
瓶を飲み切って、王冠を灰皿の端に置く。外へ出ると、植木屋の軽トラにミモザが揺れていた。
派手じゃない。けど、ちゃんと目に入る。
「――まあ、あいつらは大丈夫だろ」
そう呟いて、トラックのドアを閉めた。




