Side:和葉 2023年8月4日(金)
朝から台所に立ち、お弁当箱を並べた。
三人分――歩と朱鷺子、それに私の分。もうひとつ、小さめの箱には卵焼きや煮物を詰める。
「……これは、いつきさんのお昼用」
そう呟いてふっと笑う。
振り返ると、いつきさんが立っていた。
「俺の分まで作ってくれたのか」
「はい。……お昼に食べてください」
「……ああ、ありがとな」
その言葉が嬉しくて、胸がほんのり温かくなった。
出かける前、御子神さんに声をかけた。
「今日もいい子にしててね。……はい、こっち向いて」
スマホを構えると、きょとんとした顔でこっちを見る。
「うん、これなら二人にも見せられる」
シャッターを切って、私は家を出た。
***
歩の家に集まり、机に宿題を広げる。
「いやぁ、三人で並ぶの久しぶりだね!」
歩の声は明るくて、朱鷺子は少し呆れた顔で「はいはい、まずはプリント終わらせよ」と促す。
私はノートを開きながら、胸が高鳴っていた。こんな時間、久しぶりだから。
昼になり、お弁当を広げると二人が目を丸くした。
「なにこれ! すごーい!」
「……本当に綺麗。お店のお弁当みたい」
「普段から作ってるから……」
照れる私に、朱鷺子が小声で聞いてきた。
「弓削さんも毎日こんなの食べてるの?」
「っ……」言葉が詰まる。
「はいはい、ごちそうさま〜」歩が笑う。
「ち、ちが……」
言い訳しかけて、慌ててスマホを取り出した。
「ほら、御子神さんの写真。今朝撮ったの」
「わぁ! かわいい!」歩が身を乗り出す。
「……ほんとに懐いてるんだね」朱鷺子の声は柔らかい。
スマホを囲んで笑い合う。それが、たまらなく嬉しかった。
午後、休憩のとき歩が言った。
「あ、そういえば駅で手ぇ繋いでたでしょ?」
「っ、それは……人混みで迷わないようにしただけ!」
「でも顔、すごく楽しそうだったよ?」
「……うらやましい」朱鷺子がぽつりとつぶやく。
「ち、ちが……!」
二人の笑い声に、耳まで真っ赤になるのを感じた。
勉強は思った以上に遅れていて、胸がざわついたけれど――
「大丈夫だよ、夏休み中に少しずつやれば追いつける」朱鷺子が言う。
「そうそう! 一緒にやれば早いって!」歩も笑う。
「……うん、頑張る」
本当に心強かった。
***
夕方、家に帰ると食卓には夕飯が並んでいた。
「……これ、いつきさんが?」
「ああ。今日は勉強で疲れてるだろうと思ってな」
「ありがとうございます。本当は手伝いたかったのに」
「いいんだ。たまには俺にやらせろ」
その言葉に胸がじんと温かくなる。
二人で箸を進めながら、私は今日のことを話した。
「だいぶ遅れてるけど……二人と一緒なら追いつける気がしました。だから、ちゃんと頑張りたいです」
「無理するな。でも、頑張るなら応援する」
「……はい」
そこで小さく息を吸い、思い切って口にした。
「あの……今日は勉強、すごく頑張れました」
「そうか」
「だから……頑張りには、ごほうびが必要なんです」
「……お前な」
苦笑しながら頭を軽く撫でられる。
「……えへへ」
その温もりに、胸がまた熱くなった。
***
普通の友達と、普通の勉強会。
そして、家で待っていてくれる人。
こうして少しずつ進んでいけば、二学期からもきっとやっていける。
私はそう信じていた。
寝落ちしてしまった…
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