表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンプライアンスを遵守したい年の差恋愛  作者: 金雀枝
第2章:彼女が求めた日常
45/238

Side:和葉 2023年7月20日(木)

 机の上に広げた宿題のプリントを眺め、思わずため息がこぼれた。

 昨日、いつきさんが「お土産だ」と言って持ち帰ってきた夏休みの課題だ。がっかりしたけれど、やらないわけにはいかない。


「……多いなぁ。でも、がんばらなきゃ」

 小さくつぶやいて、机の端に置いてあったスマホを手に取る。歩と朱鷺子に、今の気持ちを伝えようと思った。


『宿題いっぱい渡されました。夏休み明けから復学できるように準備してます』


 送信すると、すぐに返事が返ってきた。


『ほんと!? よかった! じゃあ夏休み、一緒に遊ぼうよ!』――歩

『安心した……でも大変じゃない? 無理しないでね』――朱鷺子


 胸の奥がじんわり温かくなる。私はすぐに指を動かした。


『ありがとう。うん、大丈夫』


 次の着信音が鳴ったのはその直後だった。


『じゃあさ、この前言ってたプール、夏休みに行こうよ! 日程も決めちゃお!』――歩


 胸が少し跳ねる。プール……。

『行きたいけど、学校の水着しか持ってないんだよね』


『じゃあ一緒に買いに行こう!』――歩

『それがいいと思う』――朱鷺子


 私はスマホを握りしめて、ほんの一瞬考えた。

『……それは、いつきさんに選んでもらうから』


『へぇ〜!』――歩


 すると朱鷺子から問いが届いた。


『そういえば、その人ってどんな人なの? ほとんど聞いてなかったけど』


 私は少し迷ってから、素直に打ち込んだ。


『お父さんみたいで、お兄さんみたいで。私を家族として受け入れてくれた人なんだ』


 そして、どうしても言いたくなって、もう一言だけ付け加える。


『この前ね、義父に腕を掴まれたとき、“俺の娘に何してる”って庇ってくれたの。すごく心強かったんだよ』


『きゃー! かっこいい!』――歩

『……そうなんだ。仲良くやれてるの?』――朱鷺子

『うん! 大丈夫!』


 画面を見つめるだけで、頬がじんわり熱くなる。惚気に聞こえたかもしれないけれど、それが今の私にとって大事なことだった。


 そのあとは「プールのあと勉強会もしよう!」という話になった。私は「うん、やろう!」と即答する。

 普通の高校生みたいな会話をしていることが、ただただ嬉しかった。


***


 その夜。スマホを閉じてから、こたつの向かいに座るいつきさんに声をかける。


「……あの」

「なんだ」

「友達と、プールに行く日が決まりました」

「そうか」

「だから、その前に……水着を買いに連れていってください」


 一瞬、静まり返る。

 いつきさんは驚いたように目を瞬き、それからふっと目を細めた。

「……そんなこと言ってたな」

「はい」


 小さくうなずいた私に、返ってきた言葉は意外なものだった。

「でも……友達と買いに行ったらいいんじゃないか?」


「そ、それは……」

 言葉に詰まり、慌てて視線を逸らす。

「だって……お金出してくれるのはいつきさんですし。それに……」

 唇をきゅっと結び、勇気を振り絞って続けた。

「……選んでほしいから」


 声はかすかに震えていたけれど、口に出した途端、胸の奥がどきんと跳ねた。

 顔が熱くなるのを誤魔化すようにうつむきながらも、不思議と嫌ではなかった。

本日もご覧いただきありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ