2023年5月23日(火)②
煮物の具を小皿に分けてくれる手が、妙に丁寧だった。
茶碗のご飯も、俺が手を伸ばす前にすっと差し出される。
「おかわりは?」と聞かれるよりも早く、茶碗が満たされる。
そこまで気を回す必要はないのに、と思うたび、返す言葉が遅れる。
「いつきさん、冷めないうちにどうぞ」
向かいでにこりと笑う和葉は、まるで給仕係だ。
これじゃ、落ち着いて飯を食うというより、接待を受けてる気分だ。
別に嫌じゃない。だけど、このままじゃあいつ、落ち着く暇もないだろう。
……和葉がこの生活で息が詰まるようじゃ、本末転倒だ。だからこそ、今のうちにブレーキをかけておくべきかもしれない――そんな考えが頭をかすめる。
食事を終えて、二人で片付けを済ませる。
湯呑にお茶を注ぎ、こたつに腰を下ろすと、部屋に静けさが戻った。
湯気の向こうで、和葉は落ち着いた仕草で湯呑を手に取っている。こういう姿は年齢以上にしっかりして見える。
「なあ、和葉」
湯呑を手の中で転がしながら、口を開く。
「最近、なんでも俺に合わせすぎじゃないか?」
「え……そんなこと、ないですけど……」
言葉を濁しながらも、視線を落とす。
遠慮しているのは自覚しているのだろう。
「気を遣いすぎっていうか……もっと自由にしていいぞ。俺の顔色なんか気にすんな」
「……でも……」
それ以上は言わず、湯呑を両手で包み込むように持ったまま、小さく肩をすくめる。
返す言葉を選んでいるのか、それとも受け入れきれないのか、表情はわずかに硬い。
「……それとさ」
少し言葉を探し、俺は続けた。
「大人のことは信用ならないかもしれないが、おまえは俺にとってはもう家族同然なんだ。俺はそう思ってる。だから……甘えてくれたっていいんだぞ」
軽い気持ちで言った言葉だった。
けれど、口にしてみると意外と真面目な響きになっていて、自分でも少し驚く。
和葉の手がぴたりと止まり、顔を上げた。
「……本当に、いいんですか?」
「いいに決まってるだろ」
「……信じて、いいんですか?」
真剣な目でこちらを見る。その温度差に、一瞬返事を探す間があったが――
俺は軽く笑ってうなずいた。
「ああ、もちろんだ」
和葉は、小さく息をのんで、やがてほんの少し口元をほころばせる。
「……じゃあ、一緒にお茶、注ぎに行ってもいいですか」
「なんだそれ。まあ、いいけど」
立ち上がった俺の横に、ぴたりと並ぶ気配。
湯呑を受け取るとき、いつもより距離が近く、肩が触れた。
和葉は何事もなかったようにお茶を注いだあと――
いつもの向かいではなく、俺の右横の席に腰を下ろした。
その距離は、湯呑を置けば肘が触れそうなほど。
何も言わないが、落ち着いた表情で湯をすすっている。
……少し肩の力が抜けたなら、それでいい。
そう思って湯呑に口をつけたが、あの笑顔が妙に頭に残った。
***
風呂から上がって居間に戻ると、布団がきっちり敷かれていた。これはもう日常の風景だ。
……問題は、ついにその距離がゼロになっていたことだ。
「……いや、これはさすがに近すぎだろ」
返事はなく、湯上がりの頬を赤くしたまま、布団に潜り込んでいく和葉。
……まあ、今日はもうツッコむのはやめておくか。
攻勢に転じる。
短いですが、本日もご覧いただきありがとうごさました。




