表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンプライアンスを遵守したい年の差恋愛  作者: 金雀枝
第2章:彼女が求めた日常
31/107

2023年5月23日(火)①

 この日も昼過ぎまで在宅仕事を片付け、ようやく一息ついた。

 机から顔を上げると、和葉はこたつの上で洗濯物を畳んでいる。

 もうすっかり、この部屋の光景として馴染んでいた。


「……よし、気分転換に出るか」


 和葉が少し驚いたように瞬きをする。

「出る……って、お買い物ですか?」

「ああ。商店街まわって、ついでにスーパーも寄ろう。御子神さんのお気に入りのおやつがそろそろなくなりそうだ。不機嫌にならないうちにな」


 準備を済ませ、二人で玄関を出る。春の風がやわらかく頬を撫でた。


***


 商店街のアーケードをくぐると、八百屋の威勢のいい声が響く。

「おっ、弓削じゃねえか。今日はお嬢さんも一緒か」


 店主の視線が和葉に向く。和葉は少し身を縮めながらも「こんにちは」と会釈した。

「この子、彼方の奴から聞いてるよ。元気そうでなによりだ」

「……あ、はい。ありがとうございます」


 並んでいたトマトがちょうど艶やかでうまそうだったので、三つ入りの袋を手に取る。

「今日はこれもらうよ」

「おう、サービスしとくわ」


 袋を受け取りながら、俺は軽く頭を下げる。

「また来ます」


 歩きながら、和葉が袖を引いた。

「……今の、どういう意味なんですか?」

「さあな。まあ、この辺の人は面倒見がいいってことだ」


 そう答えて、前方に目をやる。


***


 アーケードの外れ、古い自販機の前に男女数人の若いグループがたむろしていた。制服や私服が混じった、やんちゃそうな顔ぶれ。

 向こうもこちらに気づき、軽く会釈してくる。俺も短くうなずき返した。


「知り合い……ですか?」と和葉。

「ああ、彼方さん繋がりでな。夏祭りの手伝いとかでよく一緒になる」


***


 スーパーに入ると、和葉は迷わず鮮魚コーナーへ向かった。

「今晩はお魚でいいですか? 特売の切り身が出てるってチラシで見たので」

「お、いいな。じゃあ頼む」

「じゃあ……煮魚にしますね。副菜はトマトサラダと、もう一品」


 献立が決まると、和葉は鮮魚を選び、俺は猫用おやつをカゴに入れる。

 会計後、和葉が当然のように全部の袋を手に取ろうとした。


「これくらい大丈夫です、全部持てますから」

「いや、流石に女の子に重いもん持たせて、自分は手ぶらってのはカッコ悪いだろ?」

「……わかりました」


 素直に片方を渡してくる和葉から袋を受け取り、店を出た。


***


 帰宅後、和葉は台所でてきぱきと夕飯の準備を始めた。

 魚を煮ている横で俺が味噌汁の味を整える。台所に立つ二人分の音が、妙に心地よい。


 食事中、和葉が箸を止めてぽつりと聞いてきた。

「……さっきの人たち、怖くなかったんですか?」

「別に。悪い奴じゃない。お前のことも、ちょっとは気にしてくれてる」


 和葉は意外そうに瞬きをして、それから小さく笑った。

「……なんか、心強いですね」


 その笑みを見て、やっぱり今日出てきてよかったと思った。

 最初はここでの生活を円滑にできればと打算もあったが、彼方さんに引っ張られて地元の行事を手伝うようになったのも、今思えば悪くなかった。

 ここでなら、和葉もきっと安心して生活していけるだろう。

 こういう小さな安心を、少しずつ積み重ねていけばいい。


今日は少し短い日常回になります。

本日もご覧いただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ