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コンプライアンスを遵守したい年の差恋愛  作者: 金雀枝
第1章:出会いと保護
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2023年4月4日(火)〜2023年4月18日(火)

 最初の面会は、4月4日だった。


 施設の応接室に案内されたとき、和葉は小さな椅子にちょこんと座っていた。

 制服ではなく、薄手のジャージのような服。足元に視線を落とし、両手は膝の上で指を絡めている。


 こちらに気づいて、ほんのわずかに会釈した。言葉はなかったけれど、それでも彼女なりの反応だったのだろう。


「……元気か?」


 少し間を置いて、かすかに頷くのが見えた。それで十分だった。


 何を話したか、正直覚えていない。ただ、帰り際に「また来るよ」と声をかけたとき、

 彼女が一瞬こちらを見上げた――その目の奥に、少しだけ安心したような色が滲んだのが見えて、俺はそれをずっと覚えている。


 ***


 4月8日。土曜の午後、二度目の面会。


 部屋に入ってすぐ、和葉は「昨日、ちょっとだけ勉強してみました」と言った。


 唐突な言葉に少し驚いたが、それがどれだけの一歩だったかを思えば、軽く返すのが一番だと思った。


「そうか。……えらいな」


 俺はそう言って、スマホを取り出した。


「そういえば、猫。この前とは別の写真、見てみるか?」


 彼女が小さく頷いたので、三毛の写った画面を向ける。


「飯のあと、必ずすり寄ってくる。律儀なやつなんだ」


 和葉はふっと目を細めて、小さく笑った。その笑みが、前よりも自然に思えた。


「勉強、やりたいなら……手伝う」


 不器用な言い方だったが、彼女はしっかりと頷いた。

 その動きに、わずかな決意がにじんでいた気がする。


 ***


 4月15日。外出許可が出た日。


 施設の玄関で和葉と合流したとき、彼女は私服に着替えていて、少し照れくさそうに立っていた。


「……似合ってる」


 思わず口にした一言に、彼女は驚いたように顔を上げ、それから少しうつむいた。


「あ、ありがとうございます……」


 カフェでは紅茶とケーキを注文した。

「こういうの、好きそうだったから」と渡すと、彼女は「なんでわかったんですか」と聞いてきた。


「なんとなく」


 そう返すと、彼女はふっと目を細めて笑った。


 食後、少し寄り道して、あの銭湯に立ち寄った。


「あら、よく来たねえ」


 番台のばあさんはすぐに気づき、笑顔で迎えてくれた。


「顔色もいい。うん、元気そうだねぇ」


 和葉は少し緊張した様子で、「この前は……ありがとうございました」と小さく頭を下げた。


「礼なんていらないよ。笑ってくれたら、それがいちばん」


 そう言って頭を撫でられたとき、彼女の表情がほんの少しだけ緩んだ。


 俺が「また来ます」と言うと、和葉も小さく頷いた。


 ***


 4月18日。勉強道具を届けた日。


 紙袋を渡すと、彼女は少し戸惑いながら中身を覗き、猫柄の下敷きに目を留めて口元を緩めた。


「……これ、かわいいですね」


「少しはやる気出るかと思って」


 その返しに、和葉は「ありがとうございます」と丁寧に頭を下げた。


「……これ、ちょっとだけ教えてもらってもいいですか?」


 恐る恐るといった調子だったが、俺はすぐに頷いた。


「ああ。どこだ?」


 静かな部屋。並んで座り、彼女の問題集をのぞき込む。


「ここが、よくわからなくて……」


「ふむ……ここの英文はな……」


 思ったよりもスムーズに説明できた。少しは先生役ができてるかもしれない。

 でも、隣から伝わってくる緊張と熱心さに、俺の方が背筋を伸ばされていた。


 和葉は時折、真剣な顔つきでノートに書き込みながら、小さく頷いていた。


 彼女が、少しずつ前を向いている。

 その背中を、これからも支えられるなら――

 俺も、少しずつ前へ進めるのかもしれない。

ここから視点が弓削へ戻ります。

書いておきたいなぁというものが多く、平凡な日常回となりましたが、次こそは序章の山場になる、はずです。


今回もご覧いただきありがとうございました。

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