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コンプライアンスを遵守したい年の差恋愛  作者: 金雀枝
第1章:出会いと保護
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和葉の日記 ①

◆3月27日(月)


昨日の夜、この施設に来た。

何がなんだかわからなくって、気づいたらベッドに入ってて、気づいたら朝になっていた。


朝ご飯のあと、緊張でいっぱいだった私に、職員の人が「気持ちの整理に」と、小さな手帳をくれた。

「無理に書かなくていいけど、誰にも見せないつもりで書けば、気持ちが軽くなるかも」って。


それで、日記をつけてみようと思った。


――今は、あのときよりずっと落ち着いている。


お風呂にも入れたし、着替えもある。お腹も空いてたけど、ちゃんとご飯も食べさせてくれた。

それだけで、少しだけ「大丈夫かも」って思えた。


だけど、夜、ベッドに横になると、いろんなことが頭をよぎった。


お母さんのこと。あの人のこと。

そして……弓削さんのことも。


あのとき、声をかけてくれなかったら。

きっと私は、まだあの家の近くで、雨の中にいたと思う。


だから、怖くなかったといえば嘘になるけど――

あの人の言葉に、救われたのはほんと。


***


◆3月28日(火)


今日も静かな日だった。


施設では毎日、簡単なスケジュールがある。

掃除、食事、ちょっとした作業やお手伝い。

全部が強制じゃなくて、自分のペースで動けるようにしてくれてる。


夕方になって、職員さんから「面会の人が来てるよ」って言われた。


ドキッとした。


弓削さんだった。


忙しいはずなのに、今日も来てくれた。

仕事が終わったばかりみたいで、ちょっと疲れているみたいだったけど、顔を見るだけでホッとした。


何を話したか、あまり覚えてない。


でも、また来るよって言ってくれた。

それだけで、胸がじんわりと温かくなった。


***


◆3月29日(水)

今日は先生が診察に来てくれた。


先生が「猫の写真、見てみる?」って言って、スマホを見せてくれた。

弓削さんが送ってくれたらしい。


三毛猫。名前はまだ聞いてない。

ちょっとふてぶてしい顔してて、だけど……かわいい。


写真の中で、その猫は足元にすり寄っていた。


「ごはんのあとは、必ず寄ってくる律儀なやつなんだ」って。

文字の一言に、なんだかその人らしさがにじんでた。


ちょっと、笑った。


***


◆3月30日(木)


この施設に来てから、少しずつ周りの人とも話せるようになってきた。


私より年下の子もいて、職員さんたちも優しくしてくれる。


でもやっぱり――


私は、弓削さんと話すときの方が、一番落ち着く。


うまく言えないけど、「私のことを見て、ちゃんと話を聞いてくれる人」だって思えたから。


弓削さんには、嘘をつかなくてもいいって思える。

多分、それが私にとって、一番安心できることなんだと思う。


***


◆3月31日(金)


午後、図書室に行ったら、教科書とか問題集が自由に読める棚があった。

ふと目に入った英語の問題集を、なんとなく手に取ってみた。


久しぶりだったけど、思ってたより覚えてた。

ページをめくって、単語をノートに書いて、簡単な問題をいくつか解いてみた。


……不思議なことに、ちょっと懐かしくなった。

前は、普通にこんなことを毎日やってたんだよね。

“また学校に行ってもいいのかも”って、ふと頭によぎった。


***


◆4月1日(土)


弓削さんが来てくれた。

会えたのはうれしかったけど、なんだかこの前会ったときより緊張してしまった。


勇気を出して、「昨日、ちょっとだけ勉強してみた」って言ってみた。


そしたら、少しだけ目を見開いて、すぐにふっと笑って――


「……そうか。えらいな」


それだけだったけど、ちゃんと聞いてくれた感じがした。

そのあと、スマホで猫の写真も見せてくれた。


「勉強、やりたいのなら……手伝うよ」って、ちょっと不器用に言ってくれた。


“頑張らなきゃだめ”じゃなくて、“やってもいい”って思わせてくれる言い方だった。

たぶん、それがあの人らしい優しさなんだと思う。


***


◆4月2日(日)


朝の光が柔らかくて、窓を開けたときの風が気持ちよかった。

ご飯の時間、職員さんとちょっとだけ雑談できた。

他愛もない会話だったけど、それがすごく新鮮で――

ああ、私、ちゃんと“人と話してる”んだって思えた。


午後は読書。施設の図書室にあった小説を1冊借りてみた。

中身は正直よく覚えてないけど、ページをめくる時間が心地よかった。


***


◆4月3日(月)


今日は始業式だったらしい。

職員さんたちが「今日から新学期かあ」って言ってるのを聞いて、ドキッとした。


お母さんと暮らしていた頃みたいに、普通に過ごせていたら――

今頃は、新しい教室で、クラスメイトと一緒に過ごせていたのかな。


正直、まだ学校に戻るのは怖い。

でも、前みたいに“逃げてる”だけじゃなくて、“まだ準備ができてないだけ”って思えるようになった。


今はまだ無理。でも、戻れるように――じゃなくて、“自分のペースで前に進む”ことを考えてもいいのかもしれない。

投稿時間凄いばらばらでごめんなさい。

書き上げたらすぐ投稿したい派ですけど、予約機能とかで時間決めたほうがいいんですかね?


今回からちょっとだけ寄り道です。

これまでほとんど会話らしい会話がなかった和葉の視点で進行します。


まだ、問題は山積みですが、ゆっくりと進行できればと思いますので、お時間のある方はお付き合いいただけますと幸いです。


今回もご覧いただきありがとうございました。

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