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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

手記

作者: 久守雨

1

 二〇〇六年七月八日午後七時十二分

 アパートで死体を発見したと通報が入る。

 現場検証にて殺人事件として調査を進める。

 第一発見者及び通報者の自称会社員の樋口佐江(ひぐちさえ)を重要参考人として署にて事情聴取。

 当人は犯人に心当たりはなく家に帰ると死体があったとのこと。

 被害者との面識もなく、以降の調査により他人である可能性が高いと報告された。

 

2

 二〇〇六年七月十二日午後一時三十二分

 樋口氏より通報が入る。

 アパートにて死体を発見したとのこと。

 現場検証、事情聴取の結果樋口氏とは他人の可能性が高く快楽犯による連続殺人事件の可能性が高いとして捜査本部を設置。

 樋口氏は重要参考人及び保護対象にするとした。


3

 二〇〇六年九月十日午前五時二分

 樋口氏より通報。

 再度アパートにて死体を発見。

 被害者に共通点は無し。

 樋口氏が家を空けている時間に侵入し死体を置いている可能性が高いことから、皆川刑事が保護及び犯人確保の目的で樋口氏の隣の部屋に移住し捜査することとなった。


4

 二〇〇六年十月九日午前一時三十分

 皆川刑事より報告。

 一か月ほど樋口氏の周辺や生活を監視、及び調査し、特別異変はないとのこと。

 本部より樋口氏に接近し親睦をさらに深めボロが出るのを待てと通知、皆川刑事はこれを了承した。


5

 二〇〇六年十二月二日午後三時十六分

 皆川刑事より報告。

 樋口氏からの相談により恋人と偽装し同棲することで監視及び保護を円滑にされたいとのこと。本部はこれを了承した。

 

6

 二〇〇六年十二月十日午前五時〇分

 前回の報告より皆川刑事からの連絡が途絶える。

 現場急行したが樋口氏及び皆川刑事の姿はなく、二人を重要参考人として手配、捜査を進める形となった。


7

 二〇〇六年十二月二十五日午後八時十一分

 皆川刑事の所持する携帯より本部に着信あり。通話は繋がるが何も話さない。信号より場所を特定、現場に向かうも携帯のみ残され手掛かり無し。指紋も検出されず。

 

 同日時刻午後十一時二十二分

 樋口氏より通報あり。

 部屋で皆川刑事が倒れているとのこと。

 現場急行し、樋口氏を殺人の容疑で逮捕。署に連行し事情聴取を行う。

 現場検証及びアリバイ立証により、証拠不十分で樋口氏を解放。樋口氏は当期間同僚と旅行中で、監視カメラや写真等の検証により犯行は不可とされた。


 樋口氏より報告。

 皆川刑事のご報告や問題行動について。

 皆川刑事はアパートにて捜査を開始してから良く部屋を訪ねてくるようになった。保護を理由に部屋に居座るようになり、何度か肉体関係を迫られた。

 一度飲み会後の帰宅時に訪ねられ、その際も肉体関係を迫られており、その時は酔いもあったため行為を許してしまった。

 その後本部より保護名目による同棲の指令が出たと言われ、半ば強引に同棲生活を強いられた。

 それからしばらく夜間は大量のアルコールを強制的に摂取させられ、性的暴行を加えられていた。

 同僚に相談したところ旅行に誘われ同行したとのこと。

 本部は証拠不十分として箝口令を敷き、当該情報の署への報告が禁止された。


8

 二〇〇七年三月二十日午後四時十分

 本部より通知。

 ボイスレコーダーや被害者の証言により皆川刑事の加害が立証された。

 これにより捜査本部を一度解体、再度設立の形を取ることとした。

 樋口氏は捜査協力の全面拒否を表明、実家に帰省し移住するとのこと。

 

9

 二〇〇九年十月二日正午

 本部より通知。

 捜査進展なしとして捜査本部の解体を通知。

 捜査は打ち切りとなった。


10

 ここより個人捜査に入るため捜査報告書ではなく簡易的な個人の手記とする。

 

11

 二〇〇九年十一月六日

 皆川さんの被害者樋口氏の実家を特定、聞き取り及び事情聴取を行うがこれを拒否。

 樋口氏の移住後事件に進展はなく、皆川さんの加害証拠とされるボイスレコーダーも音質が悪くほとんど聞き取れない。アリバイも同僚であれば口裏を合わせることも可能。樋口氏を重要参考人及び容疑者として捜査を再開するよう何度も打診したが本部は拒否。樋口氏を容疑者として個人で捜査を進めることにする。

 

12

 二〇〇九年十二月十五日

 樋口さんの自宅を訪れるが不在。

 念のため以前のアパートに訪問するもすでに別の住人が住んでいた。駅近で良物件とはいえ、事故物件だというのに事のスムーズさに違和感を覚える。


13

 二〇〇九年十二月十六日

 不動産に事情聴取。特に何らかの圧力がかかった形跡はないが、やはり違和感をぬぐえない。

 本部解体からここまでの異常なスピード、何か事情があるとみて間違いないだろう。


14

 二〇〇九年十二月二十二日

 樋口氏の家を訪問するが不在。

 通行人に客なんて珍しいと言われ、話を聞くとこの家は10年前に亭主が入院してからほとんど出入りがないそう。

 病院に問い合わせるも転院を繰り返して所在は不明だという。

 死亡届が出ていないので病院にいるのか自宅療養なのかは判断できない。


15

 二〇〇九年十二月二十六日

 張り込みをしてようやく樋口氏を目認できた。

 樋口氏は現在引っ越していて、たまに実家に顔をだすらしい。

 お父様は元気かと聞いたら元気ですと答えられた。

 最近は容態が良いとも取れるため断定はできないが、いよいよあやしい。ボロを出すかもしれないため、あの時のお詫びがしたいと話を持ち掛けたら二日後居酒屋で話を聞けることになった。

 チャンスだ。


16

 二〇〇九年十二月二十八日

 樋口氏と居酒屋で集合し、実際に話を聞いた。

 内容は聴取と寸分違わない、あの時と同じ内容だった。

 ここまでは想定していたが、父の事を聞くと今は病院ではなく、医療提携型の介護施設にいるとのことだ。

 全くボロを出さないため、お開きにした。

 二軒目に誘われたが断った。

 樋口氏は容姿が整っていてかなり美人だ。それに男性なら好みのちょうどいい肉付きをしている。

 刑事でなければまんまと乗ってしまっていたかもしれないが、皆川さんの無罪を証明するため、殺人事件の証拠を掴むためだ。

 今後もつかず離れずの関係性を捜査のために保っていく。


17

 二〇〇九年十二月三十日

 樋口氏より、真相を話す用意があると言われて樋口氏の家へ行くことになった。

 

18

 二〇〇九年十二月三十一日

 全てを正直に書くことにする。

 昨日は飲みすぎてしまったため明確ではない部分があるが。

 まず、樋口氏はゲームを持ち掛けてきた。

 ゲームの内容は簡単で、お互いに質問を投げ合って、答えたくない時はお酒を飲むというものだ。

 今考えると守秘義務の多い内容を聞かれ続ければこちらが先につぶれるのは当たり前だ。後悔している。

 ゲームは進み、基本的に聞きたいことはあまり聞けなかった。

 ゲームのルールで、答えたくない、でももう飲めないとなった場合は相手の言う事を聞くという幼稚なものがあった。

 案の定潰れてしまい、彼女の要求を受け入れ、体を重ねてしまった。酔っていたとはいえ、最低な行為をしてしまった。

 情けないことに捜査をする資格が無くなってしまった。

 この個人捜査はここまでで打ち切りとする。


19

 二〇一〇年二月十日

 捜査は打ち切ったが、手掛かりを手に入れた。

 樋口氏とはあれから数回会食をし、数回家を訪問している。

 正直に書くと決めたため正直に書くが、捜査のことなど忘れて樋口氏に夢中になっていた。

 たまたま樋口氏が先に寝た時に、トイレの場所を間違えてしまい樋口氏の部屋に入ってしまい、犯行に使用したと思われる凶器、ボイスレコーダーを発見。ボイスレコーダーの中には命乞いをする皆川さんの声が入っていた。警察に提出されたものとは別物だった。

 その他被害者との関係を示唆するものも発見し、一部を回収して帰ってきた。

 これを上に提出して捜査本部の再度立ち上げと犯人確保を要求することにする。


20

 二〇一〇年二月三日午後七時十二分

 アパートで死体を発見したと通報が入る。

 現場検証にて殺人事件として調査を進める。

 第一発見者及び通報者の自称会社員樋口佐江(ひぐちさえ)を重要参考人として署にて事情聴取。

 当人は犯人に心当たりはなく家に帰ると死体があったとのこと。

 被害者との面識はあるが、関係性は捜査関係のみだったという。

 数年前にも同じような状況があったとして捜査資料を洗い出すがほとんどが消却済みとなってる。

 残された資料より、快楽犯による連続殺人事件の可能性及び付きまといの可能性があるとして、樋口氏を保護対象として捜査を進めることとした。

 被害者は平尾開成元刑事。

 数年前の樋口氏の事件に関わっており、捜査本部が解体された後退職。樋口氏の話によれば退職後も捜査の協力をうたい樋口氏に迫っていたとのこと。ストーカー被害の可能性を視野に入れて捜査を進める。


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