第四話 共鳴の刻
紅い閃光が空を裂いた瞬間、空間が“音を立てて”崩れた。
《時層共鳴式》——それはエーテル・クロノメーターに秘められた禁じられた魔導演算。自らの存在時間を、敵の位相に強制的に合わせる術式。成功すれば、干渉不可能だった敵の防御を打ち破れる。しかし、使用者の肉体と精神にかかる負荷は尋常ではない。
レイの体を中心に、青白い魔法陣が三重に展開される。
「——今だ、エル!」
時間の狭間で、仮面の男の防御が一瞬だけ“同期”する。その瞬間を、エルが逃すはずがない。
「《時裂・咬牙式》ッッ!!」
エルの爪が、空間そのものを切り裂いた。まるで世界がひとつの布であるかのように、歪みが走り——仮面の男の防御が崩壊する。
「干渉……成功、だと?」
男がそう呟いたときには、すでにエルの爪がその胸に届いていた。
黒いローブが裂け、魔力が爆ぜるように飛散する。しかし——
「……致命には、至らないか」
男はその場に崩れたものの、消滅はしなかった。代わりに、彼の仮面が割れた。亀裂が走り、そして——仮面の奥から“目”が見えた。
左右で色の異なる双眸。ひとつは人間の目、もうひとつは……機械のような光を放つ義眼。
「やはり……君か」
レイが眉をひそめる。
「君は、誰だ」
「私の名は……かつて“レイ・クロイツァー”だった存在だ。時間を捻じ曲げ、世界の縁から戻ってきた影。未来から来た、お前自身だ」
一瞬、時が止まったような錯覚があった。
「……ふざけるな」
「ふざけてなどいない。“この門”の向こうには、世界の崩壊が待っている。私はそれを防ぐため、自己を捨てた。“記憶”と“魂”を喪ったとしてもな」
レイは無言だった。
一方、エルはピクリとも動かず、相棒の反応を待っていた。
「……未来の俺が、世界の終焉を止めるためにここに来たと? それが……今の俺を排除しようとした理由か」
「君がこのまま進めば、門を開いてしまう。鍵を持つのは君だ、レイ・クロイツァー。お前の《クロノメーター》こそが“最後の鍵”だ」
重い沈黙が、遺跡を覆う。
「……なら、俺はもう一つの選択をする。終わらせるんじゃない。“変える”」
未来の“影”がゆっくりと首を振った。
「それは不可能だ」
「やってみなければわからない」
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