第一話 猫と雷鳴と蒸気の町
この世界、アークレインでは、魔法と科学が手を取り合うようにして発展してきた。
空を走る列車は魔力で浮かび、通信装置はエーテル波を使って遠方と交信する。街灯は魔石と電気の融合によって灯り、医術においては錬金術と遺伝子解析が同時に使われている。
そんな世界の片隅、蒸気と魔力がうなる大都市「ギア=ヴァリス」の外れに、ひとりの男がいた。
彼の名は——レイ・クロイツァー。
黒いコートを羽織った細身の青年で、肩にはひときわ気だるそうな猫が乗っている。だがこの猫、「猫」とは名ばかりの魔獣であり、名を「エル」と言った。
エルは知性を持ち、人語を解し、たまに煙草を吸う。猫にしてはだいぶ不良だが、レイにとっては唯一無二の相棒だった。
「……で? 今回の依頼はまた爆発物処理か?」
「いや。今回は古代魔導遺跡の調査だ。エーテル異常が観測された。上層部がびびって調査依頼してきたらしい」
「また面倒なやつだにゃあ……」
レイは嘆息しながら、懐から銀色の懐中時計を取り出した。これは彼の主装備。時を操る魔術と量子計算装置が融合した、極めて希少なデバイスだ。
「面倒でも仕事は仕事だ。エル、行くぞ」
「はぁ……今日も命がけか。猫の仕事じゃねえよ」
蒸気が噴き出す地下鉄のホームを背に、ふたりは次なる依頼地へと歩き出す。
雷鳴のような列車の音が、都市の空に鳴り響いていた。
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