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心配性でお人好しのストーカー君

 加奈子は男運が悪い。高校時代にふった同級生がストーカー化してしまい、社会人になったつい最近まで付き纏われていた。その彼は彼女を襲うような真似はしなかったが、彼女の交際をことごく邪魔し、そのお陰でつい最近まで彼女は男と真っ当に付き合った事がなかったのだ。

 「悪意がないから、余計に厄介でさ」

 と、彼女は語った。

 なんでもそのストーカーは彼女が付き合う男は悪人ばかりだと主張しているのだそうだ。付き合ったら彼女が不幸になる、と。だから邪魔をしているのだとか。

 つまり、“心配性でお人好しのストーカー君”という訳だ。

 もちろん、そんなはずはない。

 全ては彼の妄想だ。

 しかし、そんな彼女もようやく男と付き合い始める事ができた。警察に相談した結果、そのストーカー君は彼女に近付けなくなったからだ。

 彼女が付き合い始めたのは根津という名の証券マンで、人当たりがとても柔らかかった。顔も良いし、正直、私は彼女が羨ましかった。

 ところがだ。彼女が付き合い始めたある日、自宅で寛いでいる私に電話がかかってきたのだ。

 

 「根津というその男は、恐らく詐欺師です」

 

 なんと、心配性でお人好しのストーカー君からだった。どうやったかは知らないが、驚いた事に私の電話番号を調べて彼は連絡を寄越して来たのだ。

 「友達のあなたが忠告をすれば、きっと彼女も聞いてくれると思うんです」

 私は呆れてしまった。

 だから、こう言い返した。

 「あのね。そんなの、ただのあなたの妄想でしょう? いい加減にしないと警察に通報するわよ?」

 しかし、それに彼はこう返すのだった。

 「違うんです。彼女には、悪人を見抜き、悪人に惹かれるという困った性質があるんです」

 あまりに必死だったものだから、私は思わず彼の話を聞いてしまった。彼の語るところによれば、ある種の女性達は本能的に悪人に惹かれてしまうのだという。厳しい社会環境においては、凶暴性や卑怯さは生き残る上で役に立つ。その為、そのような男を好む女性もいるというのだ。そして、加奈子は当にそのような女性で、しかも悪人を見抜く能力に秀でている。無意識にそういう男にばかり惚れてしまうのだそうだ。

 「だから、彼女が積極的に好きになる男は悪人ばかりなんですよ!」

 彼は必死にそう訴えて来た。

 「根拠は?」と訊くと、彼は「今までに彼女が付き合おうとした男は、すべて悪人でした」などと答えて来た。

 私は溜息を漏らした。

 「あのね。それ、あんたの妄想でしょう? 早くカウンセリングを受けた方が良い」

 そう言って私は電話を切った。

 

 それから私は暇をつぶそうとパソコンを立ち上げた。そこで、ふと思い付いて、以前、加奈子が付き合おうとしていた男の名を検索してみた。もし、あのストーカー君の言葉が正しかったのなら、何かしら罪を犯しているはずだと思って。加奈子が付き合いかけた男の一人はかなりのイケメンで、女性から非常に良くモテていたので、今でもよく覚えている。

 すると、なんと驚いた事に、ニュース記事に名前がヒットした。ホストクラブで、女性に売春をさせていたという容疑で捕まっている。

 “まさか!”

 私は加奈子が付き合いかけていた他の男も検索してみた。偶然、名前が同じだったのかもしれない。が、今度も犯罪者の中から名前が出て来た。傷害の罪で実刑を受けている。

 私は青くなって加奈子に電話をかけた。もしかしたら、心配性でお人好しのストーカー君の言葉は本当だったのかもしれない。

 「あ、加奈子? あんたの付き合っている根津さんだけどね……」

 それを聞くと、彼女は明るい声を出した。

 「ちょうど良かった! 私も根津さんの件であなたに話があったのよ」

 恐る恐る私は尋ねる。

 「……話って?」

 「彼がね、絶対に儲かる投資話を紹介してくれるって言うのよ」

 私はそれを聞いて愕然となった。

 絶対に儲かる投資話なんて、不正な手段以外であるはずがない。絶対に嘘だ。

 なんて事だろう?

 ストーカー君の話は、本当だったのだ……

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