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第9話

 ――翌日。

 俺は朝ご飯を済ませると裏庭に足を運んだ。

 そしていつも通りの手順でリブゴンを召喚する。

 ボフンッ!

 魔法陣の上に現れ出たリブゴンは俺を見上げ、

『ギギャギャ!』

 元気よく声を発した。

「一日ぶりだな、リブゴン。調子はいいか?」

『ギギギャ』

「そっか、それは何よりだ」

 そこで俺はポケットからあるものを取り出しつつ、リブゴンに話しかける。

「なあ、リブゴン。実はお前にプレゼントがあるんだ」

『ギギィ?』

「といっても俺からじゃなくて今井さんからなんだけどな。ほら、これ」

 そう言って俺は手の中に持っていたものをリブゴンの目の前に差し出した。

 リブゴンはそれを見て『グギギ?』と首をかしげる。

「これはスカーフだ。今井さんがリブゴンに渡してほしいって俺にくれたんだよ」

『ギギャギギャ?』

「そう。そうやって首に巻くんだ。おお、似合ってるじゃないかリブゴン!」

『ギャッギャ!』

 スカーフを首に巻いたリブゴンは満足そうに体を揺らす。

 それを見て、俺は本心から似合っていると口にした。

 そうなのだ。

 赤いスカーフは思いのほか、緑色のリブゴンの身体に映えていて、剣や盾とのバランスも良く、かなり様になっていた。

 リブゴン自身もそれをかなり気に入ったらしく、スカーフを上下に動かして口元を覆うなどしつつ、様々なポーズをとってみせる。

 その姿に思わず俺も口元が緩んでしまう。

「さあ、リブゴン。そろそろダンジョンに行こうか。この前よりもお前は確実に強くなっているからな。ハイゴブリンにリベンジだ。それでもって今日こそはハイゴブリンの奴に一泡吹かせてやろうぜ!」

『ギッギャギャ!』

 俺とリブゴンは気合い充分、お互いのこぶしを合わせてハイゴブリンへのリベンジを誓った。

 

 ダンジョンの地下一階を颯爽と駆け抜けるリブゴン。

 今のリブゴンにはスライムなど眼中にない。

 スライムは無視して階段を探しつつ、途中でみつけた宝箱の中から皮のズボンを手に入れた。

 それを履いて、再び走り出すリブゴン。

 早々に階下へと続く階段を発見し、それを下りていく。

 地下二階に下り立つとゴブリンが一体姿を見せた。

 今さら一体のゴブリンなどリブゴンの敵ではない。

 これを軽く返り討ちにして、残った魔石をいただく。

 その魔石によってちょうどレベルが上がったらしく、リブゴンもそして俺も、ほんの少しだけパワーアップする。

 しばらく進むと、前方に三つの人影が見えた。

 それらは負傷したゴブリン二体と、憎き相手であるハイゴブリンだった。

 ハイゴブリンはリブゴンの姿を確認すると、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ、こっちへ来いと言わんばかりに手招きする。

「行くぞ、リブゴン。覚悟は出来てるなっ」

『ギギャギャ!』

「よし、かかれリブゴン!」

『ギギャァーッ!』

 俺の言葉を合図にして、リブゴンはハイゴブリンに向かって駆け出した。


 ハイゴブリンに迫るリブゴン。

 それを受け、ハイゴブリンもリブゴンめがけ襲いかかってくる。

 両者は互いに激突した。

 リブゴンの錆びた剣とハイゴブリンのこんぼうがぶつかり合い、ダンジョン内に大きな音が響き渡る。

『グギギャァァッ!』

『ギギィッ!』

 ハイゴブリンはバックステップで後ろに下がり、再度リブゴンめがけこんぼうを振り下ろした。

 それをリブゴンは盾で防御して、剣を突き出した。

 ハイゴブリンはその剣撃を体を反らしてなんとか避けるも、わずかにかすったらしく痛みで顔をゆがめる。

『グギャァァッ!』

 ハイゴブリンは腹を押さえながら前蹴りを繰り出して、リブゴンを突き飛ばした。

 両者の間に距離が生まれる。

『グギギギッ……』

『ギギャギャ』

 ハイゴブリンは歯ぎしりをしつつリブゴンをにらみつけてくる。

 その顔はさっきまでの余裕めいたものではなく、明らかに焦りの色がうかがえる。

 肩で息をしているハイゴブリンとは違って、リブゴンは息切れ一つしていない。

 一進一退の攻防ではあるが、俺の目にはリブゴンが優勢に見えた。

 それはハイゴブリンも感じていたようで、

『グガギギャッ』

 後ろを振り向くと、ハイゴブリンは後方で戦いの様子を見守っていた手負いのゴブリン二体に声を飛ばした。

 まるで、お前たちもかかれっと命令しているようだった。

 それを受け、ゴブリン二体が互いに顔を見合わせたあと、こくりとうなずき、加勢しに前へと出てきた。

 これでリブゴンは一対三の状況に追いやられてしまう。

「大丈夫かっ? リブゴン、やれるかっ?」

『ギギャギャ!』

 任せてくれとばかりにリブゴンは俺の問いかけに首肯する。

 頼もしい限りだ。

「わかった。お前に任せる!」

 三体の敵モンスターを前にして身構えるリブゴン。

 すると次の瞬間、

『グガァァァッ!』

『ギッギィッ!』

『ギギャァッ!』

 三体が一斉に飛びかかってきた。

 だがリブゴンは落ち着き払ってこれに対応してみせた。

 まず一旦左に避けて攻撃をかわすと、手負いのゴブリンめがけ剣を横なぎに振るった。

 剣はゴブリンの腹に命中して、それをくらったゴブリンは後ろの壁に吹っ飛び激突する。

 さらにもう一体のゴブリンの背後に素早く移動すると、そのゴブリンの背中に剣を突き刺した。

 錆びた剣とはいえ、今のリブゴンの力をもってすればゴブリンの身体を貫くことも容易だったようだ。

 これで早々にゴブリン二体を排除するリブゴン。

 二体のゴブリンが煙となって消え、地面には緑色の魔石が二つ転がる。

『グギギギギィ……』

『ギャギャギャ』

 にらみ合うハイゴブリンとリブゴン。

 だがどちらが優勢かは火を見るよりも明らかだった。

「リブゴンいいぞ、その調子だ! 勝てるぞっ!」

『ギギャギャ!』

 じりじりと詰め寄るリブゴン。

 ハイゴブリンは苦々しい顔でゆっくりとあとずさる。

 俺はリブゴンの勝利を確信した。

 しかしその時、ハイゴブリンは持っていたこんぼうをリブゴンに投げつけてきた。

 俺は前回のことがあったので、「懐に入られるなっ。注意しろ!」とリブゴンに声をかける。

 リブゴンは『ギギャ!』と飛んできたこんぼうを盾ではじき飛ばしながら、剣を前に突き出し、不意打ちを警戒しつつハイゴブリンに目を向けた。

 するとハイゴブリンは落ちていた魔石を二つ握り締めていた。

 リブゴンが盾でこんぼうをガードして視界が狭まっている間に、ハイゴブリンは素早く移動して二つの魔石を回収していたようだった。

 ハイゴブリンはニヤリと笑い、

『グガァァ』

 それからその二つの魔石をひと飲みにした。

 ごくん。

「なっ……!?」

 俺は思わず声を発してしまった。

 というのも魔石を体内に吸収した瞬間、ハイゴブリンはどくんと身体が脈動したかと思うと、直後、ハイゴブリンの腕の筋肉が一段と膨れ上がり、明らかにパワーアップしたように見えたからだ。


『グガッガッガ』

「マ、マジか……敵モンスターも魔石を吸収するとパワーアップするのかよ……」

『ギギャギャ……』

 肩に手を添えて、一回り大きく太くなった腕を振り回すハイゴブリン。

 勝ち誇ったような笑みを浮かべ、

『ググガッガァ』

 こちらを見据えてくる。

「き、気を付けろリブゴン! 相手は多分魔石を吸収して強くなっているはずだ!」

『ギギャギギャ』

 俺が忠告をした矢先にハイゴブリンが『グガァァァッ!』と声を発しながら攻め込んできた。

 大きく振り上げた太い腕をリブゴンめがけて振り下ろしてくる。

『グァァッ!』

『ギギッ……』

 それを後ろに飛び退け、すんでのところでかわすリブゴン。

 だがそのパンチは地面を大きくえぐった。やはりハイゴブリンのパワーはかなり強化されてしまっているようだった。

「リブゴン、絶対にくらうなよ! 一発でもくらったらアウトだからな!」

『ギギギャ』

 返事をしたリブゴンをハイゴブリンは執拗に追いかける。

『グガァァッ!』『グァァッ!』『グガァァァッ!』と連続でパンチを打ち込んできた。

 リブゴンは盾で上手くいなしつつ、なんとかそれに当たらないように努めるが、いかんせん一発一発のパンチが重いため、なかなか反撃の糸口がつかめないでいた。

 もし万が一隙を見せたらあの重い一撃が直撃するとあって、リブゴンも攻めあぐねている様子だ。

『グァ……グガァァッ!』

『ギギ……ィ』

 両者息を切らしながら、互いに相手の動きを読み合う。

 正直言って俺が指示を出す暇がない。

 それくらい緊迫した空気に包まれていた。

 すると突然、リブゴンがその場にしゃがみ込んだ。

 地面に手と膝をつき、苦しそうに呼吸をする。

「だ、大丈夫かっリブゴン! 一旦呼び戻すかっ!」

 俺はリブゴンの体を気遣いそう声をかけるが、リブゴンはまだやれると言わんばかりに首を横に振る。

 とその時だった。

 絶好のチャンスだと思ったのか、ハイゴブリンがしゃがみ込んでいるリブゴンに向かって駆け出した。

 だがしかし、リブゴンはそれを見るやいなや、地面を強く蹴ると向かってきたハイゴブリンの頭上を跳び越える。

 そして、その際にあらかじめ掴んでいたのであろう、ひと握りの砂をぱっとまき散らした。

 その砂が目に入り『グガッ……!?』と視界を失くすハイゴブリン。

 目が見えずもがき苦しむハイゴブリンの背後に着地したリブゴンは、ありったけの力を込めて剣を下から上に突き上げた。

『ギギャッ!』

『グガァァッ……!』

 ハイゴブリンの胸から大量の血があふれ出る。

 よく見ると、リブゴンの突き出した剣はハイゴブリンの心臓部分を見事に貫通していた。

 剣を引き抜くリブゴン。

 すると、身体から一切の力が抜け切ったように、ハイゴブリンは膝から崩れ落ち、地面に倒れ込んだ。

 そして地面に魔石だけを残して煙とともに消え去っていった。

「は、ははっ……やった、やったぞリブゴン!」

『ギギャッギャ~……』

 緊張の糸が切れたのか、リブゴンはその場にぺたんと座り込む。

 そして、

「よくやったなリブゴン。お疲れ」

『ギギャギャ~』

 俺の言葉を受け、強敵からの勝利をかみしめるように、リブゴンは何度もうなずくのだった。


 ハイゴブリンが残していった魔石を拾い上げると、リブゴンはそれを口の中に放り込む。

 ごくんと丸飲みして、それから『ギギャッギャ』満足そうな声を上げた。

 直後、俺の身体の奥底から熱いものがこみ上げてくる感覚があった。

 おそらくリブゴンのレベルアップとともに、俺もまたほんの少しだけだが、パワーアップを果たしたのだろう。

 一体のハイゴブリンを倒しただけで、リブゴンのレベルは3も上がっていた。

 やはりそれだけ強敵だったということなのだろう。

 しかもレベルが上がったおかげか、ゴブリンヒールという特技も覚えた。

「ゴブリンヒール……ってなんだ?」

 名前からしてなんとなく回復技っぽい感じもするが……。

「リブゴン、試しにゴブリンヒールってやつを使ってみてくれないか?」

『ギギャ? ギッギャッギャ!』

 ……。

 ……。

 リブゴンはゴブリンヒールを唱えてみた。

 だが何も起こらない。

「リブゴン、身体に何か変化はあるか?」

『ギギャギギャ』

 ないらしい。

「うーん、どういうことだ……あっ、もしかして!」

 ステータスボードを見ると、ゴブリンヒールの文字の隣にかっこがあって中に5と数字が書かれている。

 これはもしや消費魔力のことではないだろうか。

 だとしたら今のリブゴンの魔力は4しかないので、使うことが出来ないということになる。

「うん、多分そうだ。いや、間違いないぞ」

 俺はそう考え、それをリブゴンにも伝えてやった。

 するとリブゴンは残念そうに声を出したあと、俺に見えるように手でグーサインを作ってみせた。

 了解のポーズだろう。

「どうするリブゴン。このまま先に進むか? それとも一旦戻るか? お前が決めていいぞ」

 体力もかなり消耗しているし、魔力も4しかないのでは、せっかく覚えた特技も使うことが出来ない。

 なので俺はリブゴンにそう問いかけた。

 それを受けリブゴンは少し考えるそぶりを見せたあと、

『……ギギャギャ』

 そう答えた。

「そっか、わかった。じゃあ呼び戻すからな」

『ギギャ』

 やはり俺はリブゴンの言わんとしていることが理解できるようになってきたようで、今もリブゴンの考えが手に取るようにわかった。

 だからこそ俺は、「ウレクイエムロボロス!」と召喚の呪文を唱え、俺のもとへとリブゴンを帰還させた。

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