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第5話

「それにしても宝箱の中に爆弾が入ってることもあるならそう言っといてくれてもいいだろ。まったく」

「いやあ、すまないな。わたしは最近物忘れがひどくなってきていてな」

「親父の身体機能は向上されてるんじゃないのかよ」

「向上してこの状態なんだよ。もしわたしがダンジョンに潜ってなかったら今ごろは、ボケ老人になっているかもしれないぞ。はっはっは」

 他人事のように笑う親父。

 どうでもいいけどそろそろ会社に戻れよ。

「リブゴン、今日はもうダンジョン探索はやめにするか?」

 ついさっき大怪我を負ったばかりのリブゴンを気遣い、そう口にした俺だったが、

 リブゴンは『ギャギャ』と首を横に振る。

 どうやらまだダンジョンに潜りたいらしい。

「まあ、リブゴンがそう言うんなら俺は別に構わないんだが。じゃ行くか?」

『ギギャギャ!』

 錆びた剣を手にリブゴンはやる気満々の顔で俺を見上げた。

 それを受け、俺も気合いを入れ直す。

「よし、それじゃあ時間の許す限り、ダンジョン探索だっ!」

『ギギィッ!』

 こうしてリブゴンはみたびダンジョンへと足を踏み入れるのだった。

 

 ダンジョンの地下一階。

 リブゴンはスライムをみつけては次々に狩っていく。

 そして手に入れた魔石をどんどん口の中に放り込む。

 さらにダンジョンをくまなく捜索した結果、リブゴンは宝箱を発見した。

 中身が爆弾かもしれないと思い、おそるおそる宝箱に手をかけるリブゴン。

 だが、今度はちゃんとしたアイテムが中に入っていた。

 リブゴンは『ギギャッ』と一声鳴き、それから宝箱の中身を拾い上げる。

 リブゴンが手にしていたものは靴だった。

 早速それを履き始めるリブゴン。

 リブゴンはずっと裸足だったので靴を手に入れたことが余程嬉しかったらしく、陽気に鼻歌なんぞ歌い出す。

「よかったな、リブゴン」

『ギギャギャ!』

 リブゴンは俺に返事をしつつ、その場でジャンプしてみせる。

 スタッと床に着地して満足そうにリブゴンが笑った。

 靴を履いたおかげか、リブゴンの足取りも軽くなる。

 ダンジョン内を軽快に突き進んでいくリブゴン。

 そしてまたスライムをみつけては、それらを一撃でのしていった。

 すると三十匹目くらいだろうか、スライムが煙となって消えゆく様子を見届けた時だった。

 床に宝箱が残されていた。

 スライムのドロップアイテムだった。

「リブゴン、開けてみてくれ。でも慎重にな」

『ギギャッギャ』

 リブゴンが俺の言葉に応えるように宝箱に手を伸ばした。

 そしてゆっくりと中を覗き込む。

 リブゴンの目を通して俺にも宝箱の中身が確認できた。

 それは皮製の丸い盾だった。

「おおっ!」

 と宝箱の中に入っていた盾を見て、俺は思わず声を上げる。

 リブゴンは宝箱からその皮の盾を取り出した。

 それを左腕に装着して、

『ギギャギギャ!』

 リブゴンは嬉しそうに声を発する。

 これでリブゴンは右手には錆びた剣を、左手には皮の盾を、そして足元には皮の靴、さらに下半身には布の腰巻きという、それなりの装備を整えることが出来たのだった。


「だいぶ見違えたんじゃないか? これならゴブリンが複数で襲ってきても戦えそうだな」

『ギッギャギャ』

「とはいえ、今日はもう遅いから地下二階に行くのは明日にしようか。リブゴンも一日中スライムと戦ってたから疲れただろ?」

『ギギギャッ』

「じゃあ呼び戻すぞ」

 俺は「ウレクイエムロボロス」と唱え、ダンジョンの中から地上にリブゴンを舞い戻らせた。

 そして体力を回復してもらうため、一度リブゴンをもとの世界へと送り返す。

「さてと、そろそろ親父が帰ってくる頃か。夕飯の支度しなくちゃな」

 つぶやくと俺は裏庭をあとにして家に戻った。

 

 親父の言う通り、俺はしばらくの間、学校を休むことにした。

 まあどうせ、中学の授業のペースは俺にとってはかなり遅かったので、休んでもさして問題ではない。

 給食が食べられないのはちょっと惜しい気もするが、これも地下深くに眠る、どんな願いごとでも叶えてくれるという黄金の聖杯とやらを手に入れるためだ。

 今からどんな願いにしようかと胸が躍る。

「なあ親父」

「ん、なんだ? 比呂」

 俺はテーブルを挟んで対面に座っている親父に声をかける。

 親父は夕飯を食べる手を止めて顔を俺に向けた。

「あのさ、出来ればでいいんだけど、リブゴンを召喚する時に血を出さなきゃいけないの、あれなんとかならないかな? 俺、自分の血を見るのって結構苦手なんだよな」

 そうなのだ。

 俺は映画とかで怪物から血が噴き出るシーンとかは別に気にならないのだが、自分の身体から出てくる血液を見るのは苦手なのだ。寒気がしてしまう。

 なので、親父に相談してみた。

 すると親父は平然と答える。

「なんだ、そんなことか。だったら爪とか髪の毛でも代用できるぞ」

「え、マジで? 髪の毛でもいいのか?」

「ああ、身体の一部なら問題ないはずだ」

「ホントかよ。だったらなんで初めから髪の毛にしなかったんだよ。わざわざ親指切ってまで血出す必要なかっただろ」

 親指にカッターナイフで傷をつけるの結構勇気がいったんだぞ。

「いや、何言ってるんだ比呂! わたしからすれば髪の毛一本抜くことの方がよっぽどおおごとなんだぞっ、五五歳の髪の毛はお金より大切なんだからな!」

 いつになく親父が声を大にして怒鳴った。

 虚を突かれた俺は若干引き気味で「な、なんだそりゃ……」と返す。

「お前もわたしぐらいの年になれば実感するさっ。髪はそれほど大事なものなんだっ、もう生えてはこないんだっ」

「わ、わかったからそんなに興奮するなよ。俺、もう風呂入って寝るから、食べ終わったら食器は自分で洗ってくれよな」

 思わぬところに親父の地雷があったことを知り、俺は辟易としつつ席を立った。


 翌朝。

 俺は親父の乗った車を見送ってから裏庭へと足を運んだ。

 もちろん、ダンジョン探索の続きをするためだ。

 昨日親父から聞いていた通りに、俺は自分の髪の毛を一本抜いてそれを穴の前に置いた。

 そして「ウレクイエムロボロス」と召喚の呪文を唱える。

 すると、髪の毛でも問題なくリブゴンをこちらの世界へと呼び出すことが出来た。

 リブゴンは俺を見上げ、『ギギギッ』と微笑む。

 一応ステータスを確認してみると、リブゴンの体力も魔力も完全に回復していた。

 やはり一度向こうの世界に戻せば体力も魔力も全回復するようだ。

 まあ、体力はともかくとして、魔力が回復したところで、リブゴンは何も特技を覚えてはいないので魔力など別に必要もないのだが……。

「おはようリブゴン。今日もよろしく頼むな」

『ギギャギャ!』

 自分に任せてくれとばかりに胸をどんと叩くリブゴン。

 実に頼もしい。初めて召喚した時とは違って自信に満ちあふれて見える。

 そこで俺はふとリブゴンに違和感を覚えた。

 昨日より少しだけだが精悍な顔つきになっている気がしたのだ。

 さらに体つきもどことなくだが筋肉質になっているような気がする。

「なあリブゴン、お前少し変わったか?」

『ギャギャ?』

「いや、ギャギャじゃなくて、昨日よりカッコよくなってないか?」

『ギギャギャ? ギャッギャ、ギャッギャ!』

 リブゴン自身は自分の変化には気付いていなかったようだが、それでも俺の言葉に気をよくしたらしく、身体を揺らしながらリズミカルにステップを踏む。

「まあ、いいや。じゃあリブゴン、そろそろ始めるか」

『ギギャ!』

 そうしてリブゴンは俺に手を振りつつ、地面に開いた穴の中へと消えていった。

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