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第21話

 しばらく歩くと雪の中に階段が埋まっていた。

 それをみつけたリブゴンは素早く駆け下りていく。

 そして――ダンジョンの地下一二階へと下り立った。

 

 そこはこれまでとは違って、落ち着いた空間だった。

 そのためひと息つくリブゴン。

 本来ならここらで休憩させたいところなのだが、いかんせん俺たちには時間がない。

 今日限りでダンジョン探索は終わりにすると誓ったのだ。

 なのでリブゴンには悪いが先を急いでもらう。

「リブゴン、階段を探してくれ。でも慎重にな!」

『ギギギャ!』

 もうリブゴンは回復アイテムを持ってはいない。

 魔力も残り二しかない。

 体力の回復はもう出来ないというわけだ。

 ここからは小さなダメージも命取りとなる。

 だからこそ俺はリブゴンに慎重に進むよう進言したのだった。

 

 敵モンスターに一切出遭わぬまま、階段へとたどり着くことが出来た。

 だがしかし、その階段の前には行く手を阻むかのように一体の巨竜が居座っていた。

 赤いうろこを持ち、赤い目をしたその巨竜の名前はレッドドラゴン。

 リブゴンに聞いていた限りではこのダンジョンで一番強いモンスターらしい。

 よりによって残り魔力たった二で遭遇することになるとはな。

 しかも階段を守っている以上、戦って倒すしか手はなさそうだ。

 とその時、レッドドラゴンがリブゴンの存在に気付いて顔を上げた。

 やはり大きい。

 体長はリブゴンの一〇倍以上はありそうだ。

「やれるかリブゴンっ?」

『ギギギ』

「頑張ってくれ、多分だけど、こいつを倒せばもうほかにモンスターはいないはずだ! つまりここの下が最深部のはずなんだ!」

『ギギャギギャ!』

 そう。

 このレッドドラゴンがこのダンジョン最強のモンスターであるということは、この下の階にはおそらく黄金の聖杯が眠っているのだろう。

 こいつさえ倒せれば黄金の聖杯はもうすぐそこだ!

「行けリブゴンっ!」

『ギギャッ!』

 俺の掛け声とともに駆け出すリブゴン。

 レッドドラゴンはいまだ様子見をしているようで動く気配はない。

 そんなレッドドラゴンの懐に入ると、リブゴンはギガントサハギンのヤリを突き上げた。

 だがレッドドラゴンは翼をはためかせ空中に飛び立つと、それを難なく回避する。

「なっ!?」

『ギギャ……!?』

 空飛べるのかよ。卑怯だろ。

 しかもさらに卑怯なことに、レッドドラゴンは空中にとどまりながら口を大きく開けると、

『グガァァーッ!』

 と火炎放射器のような火を吹いた。

 とっさに盾でガードするリブゴン。

 上の階でフロストシールドを手に入れていたことが功を奏し、リブゴンはレッドドラゴンのブレス攻撃を完全に防ぐことが出来ていた。

 とはいえ、相手が空中にいる以上むやみやたらに飛び込んでいけない。

 ど、どうする……。

 とその時だった。

 俺が頭を悩ませていたところ、リブゴンが自分に任せてくれと言わんばかりにグーサインを作ってみせたのだ。

 そしてその直後、盾を前に出したまま、リブゴンは空高く跳び上がった。

 ブレス攻撃を防ぎつつ、レッドドラゴンの正面にまで迫ったリブゴン。

 レッドドラゴンはリブゴンをはたき落そうと、鋭い爪を振り下ろした。

 対するリブゴンは盾を足場にしてさらにジャンプ、爪攻撃をかわすと、レッドドラゴンの額めがけてギガントサハギンのヤリを突き刺した。

『グガァァァーッ……!』

 後ろに倒れゆくレッドドラゴン。

 だがやはり最強の名は伊達ではないようで、倒れながらも長い尻尾をムチのようにしならせ、空中にいたリブゴンをはじき飛ばした。

『ギギャッ……!』

 後方の壁に激突し落下するリブゴン。

 両者ともに地面に倒れてどちらも動かなくなってしまった。

「リ、リブゴーンっ!!」


「リブゴン、リブゴン起きろっ! 立ち上がるんだリブゴンっ!」

『グ、ギギギ……ィ……』

『グガ……ガガ……ッ』

 リブゴンもレッドドラゴンもまだ意識はあるようだった。

 だが深いダメージを負っていてどちらも立ち上がることが出来ないでいた。

 俺の呼びかけもむなしくリブゴンは起き上がれない。

 しかしレッドドラゴンもまた身動きできないでいる。

 そんな時間が数分続いた頃だった。

 俺はハッとなり、あるアイテムをリブゴンが持っていたことを思い出す。

 そのアイテムの名はスズメの涙。

 文字通りスズメの涙ほどしか回復は出来ないものの、一応れっきとした回復アイテムだった。

「リブゴン、スズメの涙を使うんだっ!」

『グギギ……ィ』

「そうだ頑張れっ、袋から取り出すんだ、早くっ!」

 リブゴンは震える手で布の袋をまさぐる。

 そんな中、レッドドラゴンの腕がぴくっと動いた。

 マズい、起き上がられてしまう。

「リブゴン、早くするんだっ! レッドドラゴンが起き上がるぞっ!」

『ギ……ギギ……』

『グガ……ガガァ……ッ』

 レッドドラゴンが足を前に踏み出して立ち上がる。

 よろよろとしつつも倒れたリブゴンに向かってやってきた。

 もう駄目だっ。

 そう思った刹那、リブゴンはスズメの涙を布の袋の中から取り出すと、それを一気に飲み干した。

 その瞬間、リブゴンの体力がわずかに回復し、リブゴンは地面を強く蹴った。

 そして――

『ギギギャーッ!』

『グガァァァッ…………!!』

 リブゴンの最後の力を振り絞った渾身の一撃がレッドドラゴンの脳天を貫いた。

 レッドドラゴンは額から血を噴き出して仰向けに倒れ込んだ。

 どすーんと地面が大きく揺れる。

 息絶えたレッドドラゴンは煙となって消え去っていった。

 あとには大きな魔石と宝箱が一つ残されていた。

「や、やった……やったぞリブゴンっ! お前の勝ちだっ! ははっ、やったぞーっ!!」

『ギ、ギギギィ……』

 リブゴンは弱々しいが、安心しきった声で応えてくれた。

 もしリブゴンのそばにいたら、きっと俺は駆け寄っていって抱きしめていたはずだ。

 それくらい俺は嬉しかった。自分のことのように嬉しかった。

 この時はもう黄金の聖杯のことなどまったく頭にはなく、ただリブゴンの勝利を心から祝福したい気持ちしかなかった。

 

宝箱の中身はエリクサーだった。

 体力と魔力を完全回復させるというアイテムだ。

 リブゴンはそれを飲み干した。

 するとあっという間に全身の怪我が治り、元気を取り戻すリブゴン。

『ギギッギャ!』

「よかったなリブゴンっ」

 さらに魔石も食べ切ったリブゴンはレベルアップを遂げる。

 まあ、今さらレベルを上げる必要もないのだがな……。

「さて、じゃあ下の階に行ってみるかリブゴン」

『ギギャ!』

 リブゴンは大きくうなずくと目の前の階段を一歩ずつ下りていった。

 そして地下一三階にたどり着くと、そこには、

「おおっ!!」

『ギギギギャー!』

 黄金色に光り輝く聖杯が台座の上に置かれてあった。

「あ、あった……本当にあったぞ」

『ギギギィ』

 それは時間を忘れて目を奪われるほど神々しいオーラを放っていた。

 リブゴンも思わずその光景に見惚れてしまっている。

「リブゴン、もうこっちは夜だ。そろそろ願い事をお願いしてみよう」

『……ギギギャ!』

 我に返ったリブゴンは『ギギギィ?』と俺に問いかけてきた。

 どんな願いごとにするのか? と訊ねているようだった。

「そうだなぁ……どうするか」

 実は何も考えていなかった俺。

 黄金の聖杯見たさに意地になっていた部分もあったので、願い事を何にするかなどまったく決めていなかったのだ。

「うーん、今井さんと付き合えるように……とかは駄目だなやっぱり。よくないな、うん」

 不純な考えを振り払いつつ、

「リブゴンは何か願い事はないのか?」

 と訊いてみた。

『ギギ? ギギャギャ~』

 リブゴンも思いつかないらしい。

 とそんな時、

「おーい比呂、そろそろダンジョン探索もやめにしないかーっ」

 と親父が裏庭へとやってきた。

 ヤバい、やはりもう時間がない。

 ……よ、よし、じゃあ。

「リブゴン、俺の願いを言うぞ! 俺の願いはな――」

 

 ――

 

 ――――

「お父さんっ、早く起きてってば! お母さんが怒っちゃうよ!」

「……ぅん、あ、ああ。わかった、起きるから……」

 俺は息子の飛呂彦にそう言って部屋から追い出すと、ベッドから起き上がり身支度を整える。

 部屋を出てリビングへと向かうと、そこには飛呂彦と談笑する妻の茜の姿があった。

 茜は俺を見て、

「もう、会社に遅刻しちゃうわよ。っていうかネクタイ曲がってるじゃないのっ」

 苦笑しつつ俺のもとへと駆け寄ってくる。

 俺のネクタイを直しながら、

「今日は飛呂彦の一二歳の誕生日なんだから早く帰ってきてね、あなたっ」

 と茜。

 それを受けて飛呂彦も「誕生日パーティーだ、やったーっ!」と嬉しそうに飛び跳ねている。

「ああ、わかったよ」

「じゃ、僕もう学校行ってくるねっ」

 飛呂彦がリビングを出ていく。

 だが、背中に背負ったランドセルが目に入って、俺は「こら、ちょっと待て飛呂彦」と呼び止めた。

「え、な、なに……?」

「なにじゃないだろ。ランドセルの横についてる袋が膨らんでるぞ」

「え、だ、だから……?」

 飛呂彦は俺と同じで嘘をつくのが下手なんだ。

 だからすぐわかる。

「おい、リブゴン。出てこい」

『……』

「こら、そこに隠れてるのはわかってるんだぞリブゴン」

 追及すると、

『……ギ、ギギャ』

 袋の中からリブゴンが申し訳なさそうに顔を出した。

「まったく。飛呂彦、リブゴンを学校に連れていっちゃ駄目だって言ってるだろ。ほかの子たちにバレたらマズいんだからな」

「え~、だってさあ……」

「だってじゃない。それとリブゴンも飛呂彦を甘やかすな。いいなっ?」

『ギギ……ゴ、ゴメン、ヒロ』

 リブゴンはそう口にすると自らの意思で煙とともに消え去った。

「あっ、逃げたっ」

「こら、飛呂彦、話はまだ終わってないぞ」

「もう、あなたったら! あなたの方こそそんな時間ないんだからね、わかってるのっ?」

 茜にきつい目でにらみつけられた俺は、

「あ、わ、悪いっ……俺、もう会社行ってくるよ。じゃあ!」

「あ、僕ももう学校行かなきゃっ。じゃあねお母さん!」

 飛呂彦とともに家を駆け出る。

 そして、

「そうだ飛呂彦。今日帰ってきたらお前に大事な話があるからな。楽しみにしてろよっ」

 と飛呂彦に言い置くと俺は車に乗り込んだ。

 怒られるものだと勘違いして肩を落としている飛呂彦の背中を眺めながら、俺は今日の夜、口にする言葉を車の中で試しに言ってみる。

 ちょっと照れながら――

「いいか飛呂彦……うちの裏庭にはな、ダンジョンがあるんだ」

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