第20話
「うおっ、なんだこれっ……?」
『ギギギャ……!』
地下一一階に下り立って目にしたものは猛吹雪だった。
目の前が横殴りの大雪でよく見えない。
リブゴンからしてみたらおそらく寒さも感じていることだろう。
足元には雪が積もっていて歩くのもひと苦労だった。
「リブゴン大丈夫かっ?」
『ギギギ』
あまり大丈夫そうではないが、これも最深部へと行くためだ。
突っ切るしかない。
視界の悪い中、リブゴンは一歩一歩前へと進んでいく。
ゴォォォーという猛吹雪による轟音で音もよく聞こえない。
「平気かリブゴン! 俺の声届いてるかっ?」
『ギギギィ』
なんとか返事をするリブゴン。
俺はリブゴンとは視覚と聴覚と嗅覚しか共有していないので、寒さは感じないが、リブゴンは違う。
実際、リブゴンの動きはさっきよりも鈍くなってきているようだった。
これは早いとこ次の階へと下りないと戦う以前の問題だ。
体力が大きく削られて、モンスターに出遭う前に倒れてしまうかもしれない。
「リブゴン頑張れ! もう少しだからな!」
『ギギギィ……』
根拠のない応援だがしないよりマシだと思い、俺はリブゴンを励まし続けた。
するとそんな中、前方に明かりが見えてきた。
階段かっ?
そう思ったのは俺だけではなくリブゴンもそうだったようで、
『ギギャ!』
声を上げたリブゴンはそこへと駆け出した。
だがしかし――
たどり着いてみるとそこには階段などはなく、代わりに巨大な氷の塊のモンスターであるフロストゴーレムの姿があった。
「マ、マジかよ……」
『ギギギィ……』
俺たちの心情をよそにフロストゴーレムは、
『ヌオオォォォーン!』
とひと声鳴くと容赦なく襲いかかってきたのだった。
『ヌオオォォォーン!』
フロストゴーレムの大きな腕が振り下ろされてくる。
それをとっさに鉄の盾で受けるリブゴンだったが、強烈な重い一撃だったため盾を弾かれてしまった。
リブゴンも後方へと吹き飛ばされる。
「リブゴンっ!」
雪の中に埋もれるリブゴン。
なんとか膝に手をつき立ち上がるも、鉄の盾を見失ってしまったらしい。
「リブゴン、シャムシールを使え!」
『ギギギッ』
左手が空いたことで俺はシャムシールを左手に持つように勧めた。
これで右手にはギガントサハギンのヤリ、左手にはシャムシールの二刀流だ。
盾がみつからないのならば、この際二刀流で攻め込もうという作戦だった。
「リブゴン、フロストゴーレムの攻撃は受けようとはするな! とにかく避けるんだ、いいな!」
『ギギャ!』
「先手をとれ! 相手はお前より遅いはずだっ!」
『ギギギャッ!』
雪が敷き詰められた地面では素早く動くことは難しい。
それでも俺はそんな難しい注文をするしかなかった。
とにかく頑張るんだリブゴン。
俺は祈りつつ戦いを見守った。
『ギギッギャ!』
『ヌオオォォォーン!』
足場が悪い中、リブゴンは懸命に走った。
フロストゴーレムの連続攻撃をなんとか避けながら近付いていくリブゴン。
そして隙を見計らって下から上にヤリを突き上げる。
『ギギャ!』
『ヌオォッ……!』
その一撃で体勢を崩したフロストゴーレムが地面に転倒する。
すかさずリブゴンは追撃を浴びせようと飛びかかっていった。
だがしかし、フロストゴーレムは口を開け、口から猛吹雪を吐き出した。
『ギギャッ……!』
それを顔に浴びてしまいひるむリブゴン。
目も開けられなくなってしまう。
「リブゴン、落ち着くんだ! 一旦距離を取れっ!」
『ギギギィッ……』
俺の声が聞こえているのかいないのか、リブゴンはふらふらっと歩き回る。
そこをフロストゴーレムは見逃さず、フロストゴーレムのパンチがリブゴンの腹に思いきりヒットした。
『グギャッ……!』
リブゴンは声を上げ後ろへと吹っ飛んでいく。
雪の上を転がるリブゴン。
「リブゴン、リブゴン起きろっ!」
『ギギギ……』
「回復するんだ、早くっ!」
『ギギャ……ギギッギャ!』
意識を失いそうになりながらもなんとかゴブリンヒールを唱えたリブゴン。
体力を回復することには成功したが、これで残りの魔力はたったの二だ。
回復アイテムもない今、もうこれ以上ダメージを受けるわけにはいかない。
『ギギッギィ』
立ち上がるリブゴン。
その目はまだ闘志に燃えている。
一方のフロストゴーレムは表情がまったく読めない。
ただ、どうやらフロストゴーレムもそれなりにダメージは負っているように見えた。
「行けるぞリブゴン! お前の力を見せてやれっ!」
『ギギャッギャ!』
リブゴンは声を大にして叫ぶと、フロストゴーレムめがけ駆け出した。
そしてシャムシールとギガントサハギンのヤリによる同時攻撃を仕掛ける。
迎え撃つフロストゴーレムは大きな腕を前に出してこれを防御する。
しかしながら、リブゴンの攻撃力の方が若干フロストゴーレムの防御力を上回っていたようで、ガシャーン! とフロストゴーレムの腕が粉砕し、崩れ落ちる。
『ヌオォッ……!?』
「今がチャンスだ! 決めろリブゴンっ!」
『ギギャーッ!』
がら空きになった心臓部分を狙って、リブゴンは両手に持った武器を同時に突き刺した。
『ヌオオォォォー……!!』
大きな咆哮を上げながら後ろへと倒れ込むフロストゴーレム。
雪の中に沈みながら、そのまま煙となって消えていった。
あとに残った大きな魔石を拾い上げようと近寄るリブゴン。
だがそこには魔石とは別に宝箱が現れていた。
どうやらフロストゴーレムのドロップアイテムらしい。
「開けてみようリブゴン。何か役に立つアイテムが入っているかもしれないぞ!」
回復アイテムだったらいいなと思いつつ、俺はリブゴンに声をかけた。
『ギギャギャ!』
リブゴンは宝箱に手を伸ばし、それをおもむろに開け放つ。
すると中には銀色に輝く盾が入っていた。
それは炎の攻撃から身を守ることの出来るフロストシールドだった。
「よかったじゃないかリブゴン。ちょうど鉄の盾を失くしたところだったんだからな!」
『ギャッギャ!』
リブゴンはシャムシールを布の袋の中にしまうと、フロストシールドを左手に持ち直す。
そして魔石ももちろんいただく。
ガリガリガリ……。
「美味しいかリブゴン?」
『ギギギィ……』
やはり大きな魔石は美味しくないらしい。
まあ、ともかくだ。
これによりリブゴンはさらにパワーアップを果たしたというわけだ。
「リブゴン、この調子でガンガン行こうなっ!」
『ギギャッギャ!』
俺の熱意に応えるように、リブゴンはギガントサハギンのヤリを天高く掲げてみせた。