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第15話

「ごめんなさい、私のせいで……」

 警備員さんたちに話をした結果、大柄な男は警察に引き渡された。

 そして俺たちは注意を受けたあと無事解放された。

 今俺たちはちょうど電車から降りたところだったのだが、その時突然橋田さんが頭を下げたのだ。

「私が痴漢なんかされたせいで……」

「何言ってるの美咲、悪いのはさっきの男の方だよっ。だから美咲が謝る必要なんてこれっぽっちもないんだからねっ!」

 そんな橋田さんを見かねて今井さんは頭を上げさせる。

「っていうか、わたしが大ごとにしちゃったせいもあるし。ごめんね美咲」

「ううん、そんなことないよ。助けてくれて嬉しかったよ茜」

 複雑そうな顔を見せる橋田さん。

 そこで今井さんは何か思いついたように声を上げたかと思うと、

「そうだっ。もう暗いし、桑原くん、美咲を家まで送り届けてもらえないかなっ?」

 そんなことを桑原に言った。

 もちろん桑原は断るはずもなく、これをこころよく受け入れた。

 そして桑原に連れられて帰る橋田さんの背中に向かって、

「じゃあ、また明日学校でね~っ!」

「美咲頑張って」と余計な一言を付け足して今井さんは俺に向き直る。

「はぁ~っ、疲れたけど楽しかったね!」

 俺を見上げ今井さん。

「ああ、そうだね」と首肯する俺。

 先ほど今井さんが口にしたように辺りはすっかり暗くなっていた。

 なので俺は少し考えてから、

「俺も今井さんの家まで送っていこうか?」

 勇気を出してそう声に出した。

 すると今井さんは少し驚いたような顔を見せたあと、

「……うんっ。それじゃ、お願いしようかな!」

 と今日一番の笑顔で俺に微笑んでみせた。


 休日明けの月曜日。

 俺はいつものようにリブゴンとダンジョン探索にはげんでいた。

「行けリブゴン、そこだっ!」

『ギギャ!』

 ダンジョンの地下五階――リブゴンの一撃によってゴブリンソーサラーが煙となって消えてゆく。

「よし、よくやったリブゴン!」

『ギギギャ』

「そろそろ次の階に行ってみるか?」

 俺の問いかけにリブゴンは魔石をひと飲みにしてから『ギギャ』とうなずいた。

 ――地下六階。

 そこに下り立つと辺りは一面、砂に覆われていた。

 床には砂が敷き詰められてあって歩くたびに足をとられるようだった。

「大丈夫かリブゴン?」

『ギギィ』

 足取り重く前へと進んでいくリブゴン。

 すると突然、地中から平べったい形をしたモンスターが姿を見せた。

「サンドシャークだっ!」

 サンドシャークは砂を巻き上げながら飛び掛かってくる。

『ギギャ!』

 それをバックステップでかわしたリブゴンだったが、顔を上げるとサンドシャークの姿が見えなくなっていた。

 おそらくまた砂の中に潜ったのだろう。

「リブゴン気を付けろ、いきなり襲ってくるからな!」

『ギギギャ』

 リブゴンは視線を下に向け、いつサンドシャークが現れても反応できるよう身構える。

 右手にはアサシンダガー、左手には銅の盾を持ち、気配を消すように息を潜めるリブゴン。

 自然と俺も呼吸をすることを忘れてしまう。

 と次の瞬間、

『ブガァァァッ!』

 リブゴンの足元からサンドシャークが飛び出てきた。

 大きな口を開け、リブゴンに噛みつかんとしてくる。

 しかしリブゴンはそれを瞬時に見極め、ジャンプでかわすと、空中でアサシンダガーを横に振るった。

 ザシュッ。

 サンドシャークの鼻先を斬りつけることに成功したリブゴンは、続けてサンドシャークより早く着地すると同時に、今度はサンドシャークの腹めがけアサシンダガーを振り上げて、それを斬り裂いた。

『ブガァァァッ……!』

 サンドシャークが地面にのたうち回る。

 それを見下ろすリブゴン。

 するとサンドシャークは息絶えたようで、動かなくなった。

 そして直後、煙とともに消え去り、あとには緑色に光る魔石だけが残った。

 それを拾い上げ口にするリブゴン。

 ドクンと身体が脈動し、筋肉が一層膨れ上がる。

「悪いリブゴン、俺ちょっと昼ご飯食べてきてもいいかな?」

 朝からずっとダンジョン探索に夢中になっていて忘れていたが、気付けばもう午後三時だった。

 昼ご飯というにはいささか時間が経ちすぎているが、腹の虫がさすがに限界を訴えているので俺はリブゴンにそう問いかけた。

『ギギャギギャ』

 構わないと返してくるリブゴン。

「ありがとう。すぐ戻ってくるからそれまで一人で頑張っててくれ。それにリブゴンももし疲れたら全然休憩してていいからな」

『ギギャッギャ!』

 俺はリブゴンをダンジョン内に残したまま、家へと戻る。

 そして適当に冷蔵庫の中のものをあさり始めた。

 とその時だった。

 ピンポーン!

 玄関のチャイムが鳴らされた。

 そして、俺が返事をする前に玄関のドアが開く音が聞こえてきた。

「こんにちはーっ、おれだけど比呂くんいるかーっ?」

 野太い声がキッチンまで届いてくる。

 俺はすぐに玄関に急いで、その声の主と対面した。

「和彦叔父さんっ、どうしたのっ?」

「おおっ比呂くん、元気だったかいっ?」

 声の主は親父の弟の和彦叔父さんだった。

 和彦叔父さんはフリーのルポライターをやっていると聞いたことがある。

 だからこそ、こんな平日の昼過ぎでも時間があるのだろう。

 とはいえ、和彦叔父さんがうちに来ることは正月以外はほぼないと言っていい。

 なので俺は思わず驚きの声を上げてしまったというわけだ。

「うん、元気だけど。親父ならまだ仕事から帰ってきてないよ」

「ああ、わかってるよ。今日は比呂くんに渡すものがあって来ただけだから大丈夫っ」

 そう言うと和彦叔父さんは持っていたセカンドバッグに手を入れて、何やらごそごそと中をまさぐる。

 そして、

「ほら、これだよこれっ」

 セカンドバッグの中から赤い石ころのようなものを取り出して俺に差し出してきた。

「うん? なにこれ? 石……?」

 俺のリアクションが薄いのは何も俺のせいだけではないはずだ。

 プレゼントにしては喜びにくいものを選んだ和彦叔父さんの責任でもある。

「赤い、石だよね? これってなんなの……?」

 ぎこちない笑顔のまま再度問いかける俺。

 そんな俺に対し、和彦叔父さんは、

「やっぱり知らなかったかっ」

 と声を大にして嬉しそうな顔になる。

「な、なに? どういうこと?」

「これはな、進化の秘石っていうアイテムで、その名の通り、使役モンスターを進化させることが出来るめちゃくちゃレアなアイテムなんだよっ」

「えっ? ア、アイテムっ!?」

 俺は一瞬自分の耳を疑った。

 だってそうだろ。

 和彦叔父さんの口から、アイテムなんて単語が発せられるとは、思ってもいなかったのだからな。

「えっ、なにっ? もしかして、和彦叔父さんもダンジョンのこと知ってるのっ?」

 早口で訊ねると、

「当然でしょ。おれは比呂くんのお父さんの弟なんだからさ。おれも父さんからダンジョンの話は何度も聞かされたし、兄さんと一緒にダンジョン探索したことだってあるんだよ」

 さも当たり前のように口にする和彦叔父さん。

 続けて、

「なんだったら、おれの方が兄さんより強いモンスターを使役していたし、おれのモンスターの方がダンジョンのより深い部分まで行ったことがあるくらいだよ」

 と和彦叔父さんは少し自慢げな顔をして話してくれた。

 マ、マジか……知らなかった。

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