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第14話

[比呂くん? わたし、何回か電話したんだけど気付いてくれてるかなぁ?

 ごめんね、何度も電話しちゃって。迷惑じゃなければいいんだけど……。ついでにこのメールも。

 えーっと、実はね、比呂くんにお願いがあって連絡したんだ。

 比呂くんって桑原くんと仲いいよね? たしか幼稚園の頃からのお友達だって聞いたんだけど。

 それでね、うーん……なんて書いたらいいのかな。

 隣のクラスにわたしと仲のいい女の子がいるんだけど、その子、あ、美咲っていうんだけど、美咲がね、桑原くんのこと好きなんだって。

 それで、美咲がわたしと比呂くんが仲良さそうに話してるのを見て、わたしと比呂くんとで桑原くんとの仲を取り持ってくれないかなぁって頼んできたの。

 いきなりこんなこと聞かされて迷惑だとは思うんだけど……もし、もしよかったらなんだけど、わたしと比呂くんと美咲と桑原くんとで今度遊園地に行かない?

 あ、もちろん嫌だったらそう言ってくれて全然いいからねっ。

 無理なお願いしてるのはこっちなんだから。

 ……でも、もしオッケーだったら嬉しいな。なんて。

 またあとで電話してもいいかな?

 詳しい話は電話で直接したいから。

 じゃあ、失礼します。茜より。]

「お、おおう……ゆ、遊園地ってことは、これはまさしく、ダブルデートってやつなのでは……?」

 自分と今井さんと桑原と美咲さんの四人で遊園地にいる姿を想像して、

「おっと、よだれが……」

 つい口元が緩んでしまう。

 まあ、美咲さんとやらの顔は俺はまったく知らないのだが……。

「詳しい話は電話で、か……まあ、とりあえず俺から電話してみようかな。桑原は別にあとでどうとでもなるだろ」

 そう考え、俺は早速今井さんに折り返しの電話を入れた。

 トゥルルル、トゥルルル……と呼び出し音が数回鳴ってから、『はい、もしもしっ』と凛とした声が聞こえてくる。

 もちろん今井さんの声だ。

「あ、俺だけど。さっき電話何度かもらったみたいだから電話してみたよ。一応メールも見たから」

『ごめんなさい比呂くん、わたしから電話しようと思ってたのに比呂くんに電話かけさせちゃって……』

「いいよいいよ。俺が勝手にしたことだし」

『ありがと比呂くんっ。それでいきなりなんだけど、メールの内容見て率直にどうかな?』

 と今井さんは訊ねてきた。

 声の感じから察するに、多分電話の向こうでは今井さんが不安げな顔を浮かべていることだろう。

『比呂くんはどう思う?』

「うーん、どうって言われても……」

 これまで彼女など一度たりともいたことがない俺が、他人の恋愛相談にうまく乗ることが出来るかどうか……。

 というかそもそも、今井さんとこうやって二人で話すのだって、いまだに緊張しているくらいなのに……。

『そうだよね、困っちゃうよね。急にそんなこと言われてもね』

 俺の言葉をどうとらえたのか、今井さんの声のトーンが若干下がる。

 もしかしてがっかりさせてしまっただろうか。

「いや、別に困りはしないけどさっ」

 今井さんとのデートには大いに興味がある。それは本心だ。

「っていうかその美咲さんだっけ? は本当に桑原のことが好きなの? あいつ、俺が言うのもなんだけど、モテないよ」

 別に桑原の評判を故意に落とそうなんて思ってはいない。

 俺は事実を述べているまでだ。

 だが、今井さんは少し笑って、

『ふふっ。うん、それはホントだよ。美咲が直接わたしにそう言って頼んできたんだもん』

 と返す。

「へー、そうなんだ」

 変わってるね。と思ったが口にはしないでおいた。

『比呂くんは美咲、あ、えっと、橋田美咲っていうんだけど、とは面識はないんだよね?』

「うん。話したことない」

 顔も知らない。名前も今初めて知ったところだ。

『まったく面識のない美咲のために、一緒に遊園地に行ってっていうのはやっぱり都合が良すぎるよね……?』

 どう答えてほしいかはさすがに俺でもわかった。

 なので、

「そんなことないよ。四人で一緒に遊園地なんて楽しそうじゃないか」

 と今井さんに言ってやる。

 すると今井さんは声を弾ませ、

『ホントっ!? 比呂くんいいのっ?』

 と前のめりになって訊いてくる。

 きっと電話の向こうでは本人も身を乗り出しているに違いない。

「うん、もちろんいいよ」

『ありがとう~っ! あ、でも桑原くんは平気かな? 勝手に話進めちゃってるけど』

「問題ないよ。あいつなら喜んで誘いに乗ってくるに決まってるさ」

 彼女が欲しいという思いは俺以上に強く抱いているはずだからな。

 相手の女子が今井さんの親友だと言えば、たとえ台風が来ようとも必ずやってくる。桑原はそういう男だ。

『ありがと比呂くんっ。比呂くんに話してやっぱりよかったぁ!』

 俺も今井さんが喜んでくれて嬉しい。

 それに何より今井さんと遊園地デートが出来るんだからな。断るはずがないだろ。

 まあ、余計なのもついてくるが……。

『ホントはリブゴンちゃんとも一緒に遊園地に行きたいところなんだけどね、今回は美咲たちがいるからお留守番してもらうしかないよね』

「ん? うん、まあそうだね」

 リブゴンか……遊園地に連れていったところで果たして喜んでくれるかな……?

 ずっと人形のフリをしていなくてはならないから、大変そうな気もするけど。

『だからリブゴンちゃんとはまたわたしと比呂くんと三人で行こっ』

「え、あ、ああ、わかった」

 マ、マジか……。

 期せずして、リブゴン込みだが、今井さんとの二人きりデートの約束までこぎつけることが出来たぞ。

 リブゴンさまさまだ。

 ありがとうリブゴン。

『あっ、ごめん、それと話は全然変わっちゃうんだけど、比呂くんなんでわたしに電話してくれないの?』

「えっ?」

『ほら、せっかく電話番号交換したのにいっつもわたしからで、比呂くんからはこれが初めてだよ電話。もっといろいろ話したいのにさっ』

 少し怒った口調で今井さんは言う。

 これが電話じゃなければ、もしかしたら頬を膨らませている可愛い今井さんの顔が拝めたかも。

 などと考えつつ、

「あー、ごめんごめん。ダンジョン探索に忙しくてつい、ね」

 適当にごまかす俺。

『そうなの? じゃあ仕方ないのかぁ。でもたまには比呂くんからも連絡ちょうだいよねっ』

「わかった、そうするよ」

『うんっ。じゃあ、遊園地に行く詳しい日時と集合場所が決まったらまた電話するからっ。今日はホントにありがとっ! じゃあねバイバイ比呂くんっ!』

 そう言い残し、今井さんは電話を切った。

「はぁ……なんか、どっと疲れた」

 今井さんと十数分電話で話しただけなのに、こんなにも心身ともに疲れてしまうとは。

 これじゃ実際に今井さんと遊園地デートなんかしたら、俺は倒れてしまうかもしれないな。

 そんなことを思いながら、俺は汗でびしょびしょに濡れてしまっていたスマホをベッドの上に放り投げた。


「おい、本当なんだろうなっ? おれのことが好きな女子がいるって。しかもそれが今井の親友だっていうのはっ」

「ああ、何度言わせれば気が済むんだよ。だから今日の遊園地行きが決まったんだろうが」

 俺は桑原に問い詰められながらも、今井さんたちとの集合場所である学校へと向かっていた。

 桑原は自分を好きな女子がいるということがいまだに信じられないようで、俺に顔を寄せ何度も訊ねてくる。

 ちなみに桑原に橋田さんの想いを事前に伝えておいてもいいかどうかはすでに確認済みである。

「お~い比呂くん! こっちだよ~っ!」

 校門までたどり着いたところで、校庭の方から声が上がった。

 振り向いて見ると今井さんともう一人、小柄な女子生徒が手を振りながらこちらに駆けてくる。

 今井さんの隣にいる女子が橋田美咲さんとやらでまず間違いないだろう。

「比呂くん、桑原くん、おはよっ! 今日はよろしくねっ!」

 今井さんが元気よく話すと続いて橋田さんが口を開いた。

「B組の橋田美咲です、はじめまして。今日は無理言って来てもらって本当にありがとうございます」

 深々とお辞儀をする橋田さん。

 緊張しているのか、どことなく表情がかたいように見える。

 するとそれを見て今井さんが橋田さんに抱きつきながら、

「美咲、かたいってば! 同学年なんだから敬語は無しだよっ。ね、桑原くんもそう思うよねっ?」

 フォローのつもりだろう、桑原に顔を向けウインクをしてみせた。

 か、可愛い……。

 桑原を見やると、桑原は今井さんに抱かれた橋田さんに視線を釘付けにしたまま、ほくほく顔で満面の笑みを浮かべている。

 どうやら桑原は橋田さんを一目見て気に入ったようだ。

 まあ、桑原とは付き合いが長いから好みの女子のタイプは知っているつもりだが、橋田さんはそれにピタリと当てはまっているからな。

「美咲、こっちが比呂くんだから。比呂くん、この子が美咲だよ。お互い今日は楽しもうねっ」

「あ、ああ。橋田さん、よろしく」

「こちらこそよろしく」

 橋田さんは俺と握手を交わす間もずっと桑原の方を見ていた。

 意中の桑原が目の前にいるのだから俺など眼中にはないようだ。

 俺としてはそれでまったく構わないがな。

「じゃあ挨拶も済んだし、早速遊園地へレッツゴー!」

「おーっ!」

 今井さんの掛け声に桑原がこぶしを天に突き上げ応える。

 それを目にして俺も、恥ずかしさを押し殺しつつ「おおーっ!」と声を張り上げた。

 

 電車に揺られること一時間、俺たち四人は目的地である東部遊園地に到着した。

 日曜日ということもあり沢山の人でにぎわっている。

「わーっ、いっぱい人がいるね美咲っ」

「うん」

「すげぇなこりゃ」

「ああ、そうだな」

 俺たちの住む地域にはほかに遊園地はない。

 そのためこの辺りの人たちにとっては、この東部遊園地が唯一近場で楽しめるテーマパークなのだった。

 小学生の頃は家族でよく遊びにきたが、最近はめっきり来ていなかったので、まさかこんなにも混んでいるとは思ってもいなかった。

 それは俺以外のほかの三人も同じだったらしく、人の多さに驚きの表情を隠せないでいた。

「こりゃあ、一つのアトラクションに乗るにも結構待つことになるかもなー」

「そうかもな」

「でも人が多い方が遊園地に来たって感じがしてわくわくしないっ?」

「そう? 茜はちょっと変わってるからなぁ」

「え~、そんなことないってば!」

 などと会話をかわしながら俺たちは園内を歩き始めた。


 結局遊園地には五時間弱いたのだが、途中昼ご飯や休憩などを挟んだこともあり、乗れたアトラクションは四つだけだった。

 だが今井さんも橋田さんも桑原も、みんな終始笑顔だったので、俺も満足だ。

 夕日が地平線に沈みかけ今井さんが「最後にお土産屋さんに寄ってから帰ろっ」と言い出した。

 それに反対する者などもちろん誰もいなかったので、俺たちは四人そろってお土産屋へと足を運ぶ。

 オレンジ色の太陽に照らされた今井さんを俺は歩きながら横目で見る。

 それからふと隣に顔を向けると、桑原と橋田さんが二人で楽しそうに会話を弾ませていた。

 どうやら今日一日で二人は仲良くなれたようだ。

 顔を前に戻すと今井さんがこちらを見ていた。

 俺と目が合い、にこっと微笑む今井さん。

 そして「ありがとっ」と聞こえるか聞こえないかくらいの声でささやいた。

 俺はそれに小さくうなずいておいた。

 

 お土産屋に着くと、そこもかなり混雑していた。

 人が多すぎてなかなか思うように前に進めない。

 まるで満員電車のような状態の中、俺たち四人は少しずつ店内を移動して回った。

 お土産屋に入ってから五分後くらいだっただろうか、突如今井さんが、「ちょっとやめてくださいっ!」と大声を上げた。

 俺を含め、周りにいた人たちは何事かとそちらを振り向く。

 するとそこには今井さんに手を掴まれた大柄な男がいて、「なんだよてめぇ、放せやっ!」と語気荒く今井さんをにらみつけていた。

「あなた、さっき美咲のお尻触ってたでしょっ! 大丈夫美咲っ?」

「う、うん……」

 怯えた様子で答える橋田さん。

 よく見ると涙目になっている。

「はぁっ? ふざけんなっ! 誰がこんなブス触るかよっ、さっさと手ぇ放せ、くそがっ!」

 そう叫ぶと男は今井さんの手を強引に振り払った。

 そして続けざま、

「こんな大勢の前で恥かかせやがって、ガキがっ! 土下座して謝ってもらわねぇとオレの気が済まねぇぞおいっ! それとも警察呼んで冤罪で逮捕してもらうか、ああぁっ!」

 とまくしたてる。

 だが今井さんも負けてはいない。

 男を見上げ、声を震わせながら、

「あ、あなたの方こそ美咲に謝ってください! ブスって暴言吐いたこと、謝罪してください!」

 と立ち向かっていく。

「そ、それに警察が来たら困るのはあなたの方なんじゃないですかっ!」

 今井さんの身体は小刻みに震えていた。

 相手の男はかなり大きく、強面なのでやはり今井さんとしても怖いのだろう。

 しかしそれでもなお今井さんは、泣いている親友の橋田さんのためにひけないのだろう。

 とその時だった。

 男の目の色が急に変わった。

「てめ、ぶっ殺すっ!」

 そして次の瞬間、激昂した男は今井さんの顔面めがけこぶしを振り下ろした。

 パシィィン!!

 男のこぶしは今井さんの顔の前数センチの距離で止まった。

 俺が手でそれを受け止めたからだ。

「な、なんだてめぇっ!」

「この子たちの友達だよ。それよりあんた、女子の顔を殴ろうなんてさすがにやりすぎじゃないのか?」

「う、うるせぇ、外野は黙ってろっ!」

 男は俺の言葉など聞かず、もう片方の手で殴りかかってきた。

 しかし俺はそれもまた余裕で受け止めてみせた。

「なっ、く、くそがっ、手ぇ放しやがれぇっ!」

 男は俺の手を振り払おうと暴れるが、俺は男を鎮めるために、男の手を掴んだまま徐々に力をくわえていく。

 すると男は、

「いて、いてぇいててててっ、放せ放せくそがぁぁ、放しやがれぇてめぇっ!」

 表情を歪ませ、わめき立てる。

 さらにそれと同時に俺に蹴りをくらわせてきた。

 そのことで俺は少しだけ。ほんの少しだけだが頭にきてしまった。

 なので俺はその場でぴょんと跳び上がると男の頭上に足を振り上げてから、

「うるさい」

 かかと落としを男の頭にくらわせてやった。

 ゴンッという鈍い音が響いて男は床に倒れ込む。

 見ると白目をむいて口からは泡を吐いていた。

 や、やり過ぎたかな……?

 一瞬そう思うも、直後、お土産屋の店内にいた人たちが一斉に沸いた。

「よくやったぞ少年っ!」

「いやぁ、スカッとしたねぇ」

「女の子たちを守るなんてカッコイイよっ」

「やるじゃないかあんたっ!」

「は、はあ。ど、どうも……」

 俺はどう返していいかわからず、ただその場で頭を下げ続けていた。

 とそこへ、警備員の男性が二人駆けつけてきた。

 ようやく歓声は止み、俺たちは警備員さんたちと一緒に店を出ると警備員室へ向かうことになった。

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