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第11話

 翌日。

 俺はリブゴンと裏庭にいた。

 もちろんダンジョン探索をするためである。

「さあ、準備はいいかリブゴン」

『ギギャ』

「よし、じゃあ行ってこい!」

『ギギギャ!』

 剣を持った手を高らかに上げ、穴の中へと入っていくリブゴン。

 俺はそんなリブゴンを見送ったあと、ゆっくり目を閉じた。

 リブゴンはいつものように古めかしい扉を開け、ダンジョンへと進んでいく。

 その様子を俺もリブゴンの目を通して共有する。

 リブゴンの目は暗い場所でもはっきりと視えるため、ダンジョンの中も遠くまで見渡せる。

 地下一階。

「敵はいないみたいだな。さっさと階段を探して二階に下りようか」

『ギギャギャ』

 今さらスライムを倒しても拾える魔石が含んでいる経験値量はたかが知れている。

 スライムの残していく魔石を沢山食べたところで、レベルはもう上がらないかもしれない。

 スライムを倒せばドロップアイテムは期待できるが、それも確率は低そうなので、時間と効率を考えると、次の階に行った方がいいと判断する。

 リブゴンは俺の指示に忠実に従い、スライムしか出ない地下一階を軽快な足取りで駆けていく。

 そして数分で地下へと続く階段を発見した。

『ギギャッ』

「ああ、いいぞリブゴン。下りてくれ」

 リブゴンはうなずくと颯爽と階段を下りていった。

 地下二階。

 ここはゴブリンとハイゴブリンがいるフロア。

 とは言っても、ハイゴブリンは地下二階の中ボスのような存在だったらしく、どれだけ歩き回ってももうハイゴブリンに出遭うことはなかった。

 その代わりにゴブリンが群れをなしてリブゴンに襲いかかってくる。

 リブゴンは壁を背にして、盾でそれらの攻撃をガードする。

 そして右手に持った剣で一体一体確実に葬っていく。

 もう今のリブゴンはゴブリンが大挙して押し寄せようとも問題なく対処できるだろう。

 頼もしく成長したものだ。

 俺は、自分の子を誇りに思う親の気持ちが少しだけ理解できた気がした。

『ギギャギャ?』

「ああ。リブゴンが行きたいならもちろん構わないぞ」

『ギギギャ!』

 リブゴンは俺に地下三階へ行っていいかと同意を求めてきた。

 俺は明らかに強くなっているリブゴンを目の当たりにして、当然のように肯定してやった。

 リブゴンは襲い来るゴブリンを蹴散らし、魔石を体内に取り込みながら階段を探し歩いた。

 そしておよそ十分後、地下三階へと続く階段をみつけ出したリブゴンは、期待と不安を入り混ぜつつそれをゆっくりと下りていった。

 そうして――地下三階へと下り立ったリブゴンが目にしたものは、横に三つ並んで置かれた宝箱だった。


 三つの宝箱を前にして『ギギャッギャ!』と飛び跳ねるリブゴン。

 俺もまた、三つ置かれた宝箱を目にして「やったぞ」と声を発していた。

 だが宝箱には苦い思い出もある。

 宝箱の中に入っていた爆弾で、リブゴンは危うく死にかけたのだからな。

 なので俺はリブゴンに、

「開ける時は慎重にな。中に爆弾とか怪しそうなものが入ってたらすぐ離れるんだぞ」

 と言い聞かす。

 リブゴンも爆弾には懲りているようで、

『ギギャッギャ』

 こくりと首を縦に振って答えた。

「じゃあまずは、一番左の宝箱を開けてみるか」

『ギギャ』

 俺の指示でリブゴンは左の宝箱に近付いていく。

 そして手をかけるとそれをゆっくりと開けた。

 慎重に中を覗き込み、中身が爆弾でないことにホッとしつつ、

『ギギギ』

 リブゴンは宝箱の中に入っていたものを取り出した。

 見るとそれは透明な液体が入ったボトルだった。

 新発売の清涼飲料水だと言われたら、そのように信じてしまうかもしれない。そんな見た目をしていた。まあ、明らかに小さすぎるので実際はあり得ないが。

 リブゴンはそのアイテムが何か知っていたらしく、

『ギャギャッ!』

 喜びの声を発していた。

 あとでリブゴンに筆談で教えてもらってわかったことだが、それはニトロ薬というもので、敵に投げつけて爆発を起こして倒すためのアイテムなのだそうだ。

 リブゴンはそのニトロ薬というアイテムを腰のベルトに挟み込むと、続いて真ん中の宝箱に近寄っていく。

 俺はそれをただ黙って見守る。

 真ん中の宝箱に手をかけ、ゆっくりと開けると、その中には緑色の石ころが入っていた。

 魔石だった。

 リブゴンはそれを拾い上げ、早速飲み込んだ。

 その瞬間、俺の身体に熱い何かがこみ上げてくる。

『ギギャギャ!』

 魔石を体内に吸収したリブゴンは満足そうに声を上げる。

 これまでの経験則からいって、おそらく今の魔石を飲み込んだことで、リブゴンはレベルアップを果たしたのではなかろうか。

「よし、最後の宝箱だ」

『ギギギ』

 リブゴンは右端に置かれた宝箱に向かって歩いていき、その宝箱に手を伸ばした。

 おもむろにそれを開け放つリブゴン。

 その中には短剣のようなものが入っていた。

「リブゴン、それは武器だよな?」

『ギギャギギャ』

 リブゴンはそれを手に取って眺める。

 俺も一緒にその短剣を見定める。

 錆びた剣より小ぶりなそれは扱いやすそうだが、もろそうな気もする。

 だが剣先は鋭くとがっていて、斬れ味という点では圧倒的に錆びた剣よりも上だろうと思えた。

「リブゴン、今持っている錆びた剣とその短剣、どっちがいい?」

『ギギャ~……』

 悩むそぶりを見せるリブゴン。

 どうせリブゴンが使うのだからリブゴンの好きにさせた方がいい。

 そう思い、リブゴンが考えをまとめるまで俺は待った。

 すると数瞬したのち、リブゴンが『ギギャッギャ!』と錆びた剣を捨て、短剣を高々と掲げた。

 どうやらリブゴンは短剣の方が気に入ったようだ。

「よし。じゃあリブゴン、先へ行こうか!」

『ギッギギャ!』

 こうして武器を変えたリブゴンは心機一転、気合いを入れ直すのだった。


 ダンジョンの地下三階。

 細長く狭い通路を進んでいると、前方から何やら足音が聞こえてきた。

 リブゴンは立ち止まり、前方を注視する。

 俺も一緒になって前の方をよく見た。

 すると通路の奥から醜悪な顔をした毛深いモンスターがこちらに近付いてきていた。

 この時の俺はまだ知らなかったが、あとでリブゴンに教えてもらってわかったそいつの名前は、コボルトというのだそうだ。

 そのコボルトというモンスターはリブゴンと目が合うと、

『ギシャァァー!』

 途端に駆け出し、リブゴンに向かってくる。

 リブゴンはその場で体勢を低くして、それを受けて立つ。

『ギシャアァァッ!』

 掛け声とともに、コボルトが長い爪を生やした手を振り下ろしてきた。

 それを盾で防いだリブゴンは、

『ギギィッ!』

 今度はこちらの番だと、さっき手に入れたばかりのアサシンダガーを、コボルトの腹めがけて突き出した。

 それをコボルトは体を反らして回避する。

 見た目とは裏腹に洗練された、いい動きを見せるコボルト。

 体感だが、コボルトの強さはおそらくハイゴブリンと同等ではないだろうか。

 いや、武器がないだけコボルトの方が幾分マシか……。

 そう結論づけると俺は、

「行けリブゴン、お前ならやれるぞ!」

 と檄を飛ばした。

 それを受けリブゴンはアサシンダガーによる突きを何度も繰り出す。

 コボルトはあとずさりながらそれを避けるが、すべてを避けきることは難しかったようで、次の瞬間、

 ザシュッ。

 アサシンダガーの先端部分がコボルトの腹に突き刺さった。

『ギシャァァッ……!』

 痛みに顔を歪ませるコボルト。

 だがコボルトもそこで意地を見せる。

 腹に突き刺さったアサシンダガーを右手で掴み、残った左手をリブゴンの顔めがけ振るった。

『ギギャッ……!』

 コボルトの長い爪がリブゴンの右目にかすり、リブゴンは右目を塞がれてしまう。

 もちろん俺も右目の視界が真っ暗になり、何も見えなくなる。

 そのことで距離感がつかみにくくなったリブゴンは、一旦後ろへ飛び退き、コボルトから離れた。

 しかしその隙を逃すはずもなく、コボルトは腹にアサシンダガーが刺さった状態のまま追いすがる。

『ギシャァァッ!』

『グギギィッ』

 優勢に思えた形勢は逆転し、リブゴンは徐々におされ始める。

「集中だ、リブゴン! コボルトから距離を取れっ!」

 喝を入れる俺。

 だがリブゴンの右目の視界は一向に戻る気配はなく、また、武器も手放しているため防戦一方になる。

 そこで俺はリブゴンの特技を思い出した。

《リブゴンヒール》

 まだ実戦で使ったことはないが、おそらく回復技のたぐいであろうと推測していた俺は、それをリブゴンに伝える。

「リブゴン、特技を使え! ゴブリンヒールだっ!」

『グギャギィ!』

 コボルトの爪攻撃を盾で必死にガードしつつ、リブゴンは、

『……ギッギャッギャ!』

 とゴブリンヒールを唱えた。

 その刹那、リブゴンの身体が淡いオレンジ色の光に包まれる。

 その事象に警戒したのか、思わず後ろに飛び退くコボルト。

 するとそのオレンジ色の光は次第におさまっていき、光が完全に消え去ったあとには、

『ギギャギギャー!』

 リブゴンの右目は元に戻っていて、ここまでに受けていた傷もすべて治っていた。


 俺の推測通り、やはりゴブリンヒールは回復技だった。

 ゴブリンヒールで体力を回復させたリブゴンは、腹に傷を負いさらにアサシンダガーが突き刺さったままのコボルトを見据える。

 一方のコボルトは、リブゴンの右目の傷が完全に癒えたことに驚きを隠せないでいた。

 さらに腹にはすでに深い傷を負っていて、そこからは大量の血液が流れ出ている。

 勝敗はもう火を見るより明らかで、コボルトが息絶えるのも時間の問題に見えた。

 するとコボルトはさっきまでの攻めの姿勢から一転して、逃げの態勢に入った。

 腹に刺さっていたアサシンダガーを引き抜き、それをリブゴンに投げつけると同時にきびすを返し、一目散に逃げ出したのだ。

 だがリブゴンもみすみす逃がしはしない。

 投げつけられたアサシンダガーを上手くキャッチして、すぐさまコボルトを追いかける。

『グハァ、グハァッ……』

『ギギギャ!』

 深手を負っているコボルトと体力万全のリブゴンでは走力に差がありすぎた。

 あっという間にリブゴンはコボルトに追いつく。

 そして逃げるコボルトの背中に向かって、アサシンダガーを思いきり突き刺した。

『グギャャーッ……!』

 コボルトはリブゴンの渾身の一撃を背中に受けて断末魔の叫び声を上げ、そのままの勢いで前のめりに倒れた。

 結局それが決め手となり、コボルトは煙とともに消え去ってゆく。

 地面に残った緑色の魔石を拾い上げ、

『ギギギギィ』

 それを大きな口を開けて飲み込むリブゴン。

 すると、やはりコボルトはそれなりに強敵だったようで、リブゴンのレベルが一上がった。

「よくやったなリブゴン! お前は強い!」

『ギギャッギャ!』

 俺もリブゴンもコボルトに勝利したことでさらなる自信をつけた。

 そしてまだ見ぬ地下深くのモンスターやアイテムを想像して、俺たちは心を躍らせていた。

 まさにそんな時、

『ギギャ……!?』

 リブゴンが奇声を発した。

 言葉こそいつもと同じようだったが、俺には何となく違いが分かった。

 だからこそ、俺は「どうしたリブゴン? 何かあったのかっ?」と問いかける。

 だがリブゴンは俺の問いには答えず、

『ギギギギャ……!』

 ただ苦しそうな声を発するだけ。

 そのうちにリブゴンは地面に転がるように倒れると、手足をばたつかせ、もがき出した。

 明らかに様子がおかしい。

 俺は何度もリブゴンに声を飛ばすも、リブゴンは応じない。

 もがき苦しみながら『ギギギ……ィィ……!』と返すのみでまともな返事は戻ってこない。

 俺はゴブリンヒールを唱えさせようと考えた。がしかし、リブゴンの魔力では日に一回しか使えないため、もう発動できない。

 理由は定かではないが、リブゴンが苦しんでいる以上仕方ないっ。

 俺は「リブゴン、今呼び戻すからなっ!」と断りを入れてから「ウレクイエムロボロスっ!」と声を上げる。

 そして、俺の目の前に現れ出たリブゴンを、今度は指をパチンと打ち鳴らしすぐさまリブゴンの暮らす世界へと送り返す。

 これでリブゴンの身体はもとに戻るはず。

 少し間を置いてから俺は再びリブゴンをこちらの世界に召喚してみた。

 すると、魔法陣の上に、小さな爆発音とともに姿を現したリブゴンは、

『ギギャギャ!』

 さっきまでのもがき苦しんでいた様子がまるで嘘だったかのように、元気な声を発しながらピースサインを作ってみせた。

 俺はすっかりもとに戻ったリブゴンの姿を見て、安心しきって安堵の息を漏らすとともに地面にくたっとへたり込むのだった。

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