2章
不穏
「ほ、報告いたします!」突然遠慮もなく戸が開けられ、織田重臣達の視線が間者に一気に集まる。その視線に一瞬戸惑いながらもすぐに間者は続けた。「報告します!我ら織田の領内に武田軍が進軍中とのことです!」「武田如きが出てきたとて我ら織田に勝てるはずがなかろう!」そう勇んだ勝家。その言葉に賛同する織田家諸将達。しかし、信長本人は顔には出さないが、武田軍の動きに違和感を感じていた。今まで何度も武田軍が攻撃をするタイミングはあったはずだ。それこそ、自分が京を制圧する時には美濃にほぼ兵を残さず、武田からしてみればこの上ないチャンスだったはずだ。あの時全く攻撃する構えを見せなかったから為信長は、勝頼は天下を狙うつもりはないと考えていた。しかし今はそんな事を考えている場合ではない。武田軍は既に進軍中なのだ。「して、武田軍の進軍目標は?」「我ら織田の居城、岩村城に約2万の兵数で進軍中とのことです。」また違和感。武田は兵を総動員すれば3万5000ほどの軍を出せるはずだ。しかし、武田からすれば一世一代の賭けに出ようという時に2万での出陣。南側から徳川が攻めれる事を考えてもやけに消極的なように感じる。しかし、武田が軍を出してくる以上こちらも迎撃しなければならない。信長達はその場で岩村城援軍の会議を始めた。その頃、岩村城主(池田恒興)「...。」彼は知らせの者から武田軍がこの岩村城に向かっているという報を聞き、すぐに準備に取り掛かろうとした。しかし、そもそも織田軍の特徴として、基本的に相手の領地に攻め行って戦に勝つ。というパターンが殆どで、城で防衛という選択をした事がほぼ無かった。その為、彼は防衛線にあまり自身が持てずため息を漏らしていたのだ。まず状況を整理しよう。武田軍が2万の兵を率いてこの岩村城に向かっている。現在岩村城に待機している兵士はせいぜい800人。無論、城から出て戦おうにも一瞬ですり潰されてしまう為、城内2立て篭もる必要がある。兵糧は心配ないほど蓄えがあるが、肝心の城自体あまり強固な城とは言えない作りをしていた。一応堀で周りを囲っているが、大した規模の堀でもなく、堀を超えられてしまうだけでかなり敵に詰められてしまう。「これでは否が応でも上様の援軍を待つしかないか...。」恒興はまた、大きな溜め息をついた。信長は岩村城の援軍として、自らの子の信忠に32000の兵を率いさせ、総大将として出演させた。その中には有力武将として、明智光秀や佐々成政、蜂須賀正勝などがいた。そして気付けば、武田軍が岩村城からギリギリ見える位置にまで侵略してきた。これに対し恒興は固く門を閉ざし籠城の構えを見せた。しかし恒興は武田軍の動きを見て困惑していた。普通、攻城戦を開始するにはまず城を包囲し、敵兵を逃げられないようにするのが当たり前にも関わらず、それを全くしてこない。それどころか、一定の距離まで近づいてきてから、大軍がぶつかり合う時のように、陣を作り始めたのだ。そのまま武田軍が攻城戦を開始することはなく、そのまま3日ほど膠着状態が続き、遂に信忠が到着してしまった。「武田軍には真田昌幸などを始めとした優秀な軍師がいるはずだ、それなのにも関わらず全く攻めてこないまま信忠様の援軍が到着した。彼らは一体何がしたいんだ?」恒興は困惑した。
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