あのひとおわかれ
始まったサバイバルでは他の参加者達が危険と感じた桃倉カナミを全員で討伐をしたが、それを全て跳ね除けた。檜垣橙賀という巨体の男に絡まれたマントの男もそいつをやっつけると、ここで二人の戦いが始まった。初めて強者に立ち合えた桃倉カナミは勝負を最高潮へと導く。
激化する試合は闘技場を揺るがせる。試験官も騒めき出す。
動きを対応され始めた桃倉カナミはスピードが跳ね上げた。
その早い動きに適応し男も一つ、ギアを上げる。
リーナはこの二人の姿が目には追えなかった。高速の中で使われる技術は武術を極めた者でないと分からない領域なのだ。もちろん、経験の浅いリーナには姿を捉えることすら怪しかった。
右! 左! 大裏の下!!
この男、私の速い動きの全ての攻撃をいなしている。流れる水のように。
私と同じ、強者の人生。いやそれ以上!
桃倉は男の強さに驚愕した。
男の大きい素振りを桃倉は高くジャンプして避ける。そして十メートルほど後退する。
ここでリーナの眼光も冴えわたる。動作が鮮明に見えるようになってきた。
彼女の足と腕を強く見る。
彼女のステップは私のものとは違い、踏まれたステップは小刻みで足の回転がとても早い。
飛んで移動しているわけではなく、高速で走っている感覚。
攻撃する時だけ強く踏み込みし攻撃をする……到底、私では真似ができない長年の技術だ。
だがそれをいなす才能。男には視線がなかった。
カナミちゃんには青い殺気の目線が見えるがこの男は目隠しをして戦っているような感覚だ。
それでいて、攻撃を食らっていない。私にはまだ分からない強さだった。
「まだまだだな」
「何よ! これからじゃない!」
彼は両手に剣を握り始めた。そして、少しずつ光が溜まっていく。
そして光り輝いた剣は左手に剣を構える。
それは、あの日に見た光景と一緒だった。
『カナミ! お前は何をしてる! 全力でやれ!!』
父に怒られ始めた頃から、剣の稽古がとてもつまらなくなった。
でも初めて剣を握った時は楽しかった。それもあの人が来た四歳の頃だ。
『カナミ! 今日は偉大な先生を連れてきたんだ!』
『せんせい?』
『はじめましてカナミちゃん。私は那烏糸依よ!』
その人の第一印象はとても明るかった。とても幸せそうに感じた。
『カナミちゃんは剣が好きなの?』
『お父さんがやれっていつも怒ってるから』
『そうなんだ〜。大変だね!』
『お姉ちゃんは?』
『ん〜、私はまた会いたい人がいるからかな』
あのお姉さんとの会話や特訓はすごく楽しかった。
剣を振る所から始まった私に軽くて振りやすい短剣を勧めてくれたのもあの人だった。
その日はずっとお姉さんと剣を振っていた。軍師の心を教えてもらった。
夕方、日の落ちる時に彼女は別れを告げた。「まるで”自分の子供”と触れ合っているようだ」と、
彼女は最後まで笑顔で居続けた。私の希望と剣の軌道はそこからだった。
そして今、この男の剣は彼女と同じ、光り輝く剣。
でも、あの夕日の温かさに包まれるような黄色い光とは違う、赤く眩しい剣。
ー星剣 【紅折】
これは、、避けられない……私の負けね。
すると、”あの人”の桃色の髪の毛が私の前にサラリと流れた。
ー七剣流 【氷濤 一月!!】
ダン! と私の目の前で彼の剣を押さえつけているのは紫色の髪で、リーナだった。
どうやらあの人と見間違えたのだ。
「リーナ! なんで!」
「私は! ……カナミちゃんと一緒に、、軍部に行きたい!!」
『……私はカナミちゃんが軍部に入ったら、一緒に戦いたいな』
「そのために! 負けちゃいけないの!」
脳裏に流れるのは”あの日の彼女”との会話。埋もれていた私、突っ立っている私、心と想いが動き出す。
瞬時、短剣に力を込める。
攻撃を受け止めていたリーナの木剣が折れた時、リーナを横に押し飛ばす。
「カナミちゃん!!」
ありがとね、リーナ。
私はまだまだ、これからも、、戦える。
強さの意味は、、、人と助け合う姿なんだ。
、、、バイバイ、 寂しい私。……強く、、共に生きよう。
桃倉の剣が一瞬だけ紫色に光った。そして、向かい来る男の赤い剣の根本に六度の早い突きを見せた。
すると、赤い光が黒く濃くなり男の木剣が折れた。
「見事だ、桃倉。だが……」
木剣の折れた箇所が地面に着く前に彼女の頬には強烈な蹴りが入った。それも、二度……。
バーーーン!
飛ばされた桃倉は意識を失っていた。手に握っていた木の短剣も粉々に砕けた。
だが、そこでは気持ちよさそうに寝ていた姿があった。まるで誰かの膝の熱を思い出しながら……。
『そこまで!! 集計を行う!』
私は地面にしゃがんだまま、カナミちゃんの方角を見ていた。
すると無論、男が話しかけて来た。
「見事な剣技だ。安定し始めたな」
「なんで彼女と戦ったんですか?」
「なんだ?」
「カナミちゃんも残れば評価がされたじゃないですか!」
「……大丈夫だ。彼女が軍部に受からないはずがない」
「でも軍部の枠は毎年二枠って……」
カーーーーーン、カーーーーーンと伊狩の屋敷の大きな鐘が鳴らされた。
それは、他の試験場も終わった合図だった。
その後、試験監督と数名の救助隊が入ってきた。
救助隊は意識を失っている者を運び出し、試験監督は次の試験に移れと命令を下した。
私は運ばれていくカナミちゃんを見ながら涙を拭い、移動を始めた。
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