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七剣流


 検品に向かったリーナは様々な下部との違いを見せつけられ腹が立っていたが、

向かう際の列車で出会った女の子、神楽坂望都と伊狩の屋敷を目指す。

 その間のバスで出会った鼻につく令嬢に何も言い返せなかったことで私は望都を失望させてしまう。

 自信が持てなくなったリーナだったが検品の試験が始まると良い成績を得ることができた。

これから、特に不安な対人戦が始まる。再び、緊張を肌で感じていた。


『では、対戦相手を各自で決めてください。ルールとしましては、武器の破損または行動不能となりましたら敗北となります』


 白いマスクで顔を隠した、祭司のような試験監督はこう告げた。

私達参加者は、互いを睨み合い、すべての人が相手の実力を見定め始めた。


私は誰でも良かったが、できれば弱い人と組みたいと思っていた。

その矢先。


「ねぇ、あんた……」


 私と同じくらいの身長の女の子が話しかけてきた。ショートヘアの黒髪で黒い忍者のような着物を纏っている。そして私と同じ青い目が特徴的だった。


「あんた、さっきの身体力試験の上位の人でしょ」

「えっと……」

「私は桃倉カナミよ」

「あっ、あたしは神挿リーナ」

「そう。じゃあリーナ? 私とやろうよ」


 彼女はさっきの試験でスピード力が一位だった人だ。

素早いフットワークと滑らかな身のこなしが綺麗だった。

そんな彼女に勝てる気がしなかった私は、断ろうとした。


「そんな、私全然強くないし……」

「なら良いじゃん。私にとって都合がいいよ。上位成績者を潰せるなら」


 彼女は頭の上に腕を曲げて、真っ直ぐな目でこっちを見ている。

やるしかないんだろうか。

すると、どこからか湧き出た男の人に腕を掴まれた。


「え、あの。ちょっと!」

「悪いな、桃倉と言ったか?」

「あんた、何してんのよ」

「こいつは俺と先に組む予定だったんだ」

「はあ? 何こいつ、あんたの知り合い?」

「ええっと、貴方は誰ですか?」


 男は黙って私の腕を引っ張って、その場から離れた。

桃倉という方は、「ふんっ」と言って、別の所に行ったようだ。


「あの、すみません。ありがとうございます」


 私がそう言うと、彼は掴んでいた手を離した。

黒いフードの付いたマントで顔はあまり見えないが、腕の力や高い身長から騎士のような図体をしていた。


「えっと、私とやるんですか?」

「……そうだ」

「なんで私なんかと?」

「……お前は俺に似た強さだと思ったからだ」

「私、それほど強くないです」

「……俺も一緒さ」


 不思議な人だった。どこか私に優しさを感じさせる。

見守ってくれている感覚だ。

どうして、私と戦うのかは最後まで分からなかったけど、この人となら戦える。

私は軍部に入らなければならないんだ。


『ではこの、十四組でそれぞれ戦ってもらいます。七チームずつ行うので、まずはこっちの人達は観戦をしていてください』


 このアナウンスの時、左側に居た私達は一旦捌けることとなった。


 闘技場の観戦席はコロシアムのようになっていて、試合を一望できた。私が席に座る頃に、カーーーンという音で試合が始まった。


 試合が始まるとみなが目を驚かせて見た試合は桃倉さんと戦っている所だった。

スルリスルリと相手の攻撃を躱し、避けれないのは軽くいなす。そして最速で懐に入り、貫く短い双剣の突きで相手は簡単に倒れた。


対戦相手の男も身体力試験のトップの成績だったはず。それを簡単に倒すなんて。


「多分、この中で一番強い人やつだ」


突然、隣に座り込んだ先程の黒いマントの男はそう言った。


「私達じゃあ敵わないね」

「そんなことない」

「え?」


この人が何を考えているかは分からない。あんな動き、私では何もできずにやられる。

少し落ち込んだ気持ちになって、下を見る。


「大事なのは力の入れ方だ」

「……力の入れ方?」

「ああ、その中核にあるのがステップだ」


 私も少し、聞いたことがある。

今はもうない武術の話で、剣を使った武道では『踏み込み』、という技術があり、間合いを詰める動きと合わせ、強烈な威力を出せるらしい。それも相当な修行と教育者が必要なのだろう。


「でもそれを今から習得できるんですか?」

「違うな」

「違う?」

「……それを狙うんだ」


 彼は立ち上がって、どこかに行ってしまった。

踏み込みを狙う……。来ると分かっているものではない。いつ来るか分からないものを狙うなんて。



 前の七組が終わった所で私は舞台に向かった。

暗い入場口を歩いていくと、そこにはマントの彼が居た。

腕を組んで、月を見ている。まだ、欠けているのに。


そこへ、試合の終わった選手たちが流れ込んできた。

体のいたる箇所を押さえて、下を見て歩いていく。


「あんた負けるわよ」


桃倉さんが私を見て言った。


「そんな負けた後のことなんか気にすんじゃないわよ」

「そうですね」

「自信がないことがモロバレ。相手のパファーマンスを上げるようなことしない方がいいんじゃない?」


彼女は真っ直ぐな自信に満ちた目をしている。

その青い目を見て、私は使用する長い剣をぎゅっと握った。


桃倉さんは「ふんっ」とまた言って観戦席に向かったようだ。

私に呆れたのかな、それとも……。


 会場は思ったよりも明るかった。

もちろん聞こえない歓声も緊張を解く、非常に良いコンディションに思えた。

マントの男の人は自信の木剣を見て、バッっと左に振り払った。


「さあて、リーナ。貴方はどんな試合を見せてくれるのかしら」




…………心が落ち着く。力もよく入る。あと……よく見える……。

顔が見えないはずの彼の視線がポインターのように見える、感じる。

私は、この人に……なにができる?



 男も落ち着いていた。剣を左手に微動だにしない。

ただ、試験官が「開始!」という十秒前ほどに、足を動かす。

左足を前に出し、剣を両手で握る。体は少し前傾、そして目を瞑る。



 この構えと急に視線が消えたと感じたリーナは分からないなりに構える。

右足を後ろに出し、右手にあった剣を両手で掴み、体の正面に剣を構えた。

そして、視界を見えやすくするために意図せず剣を斜めに向けた。


 前者も後者も負けていない。勝負の行方は彼にあった。

彼女をどうするのか。ここで文字通り切り捨てるのか、否や。



 客席では頭を抱え、落ち込んでいる男女、または彼女らの戦いを見る猛者の姿。

風が吹く夜の照らされた舞台には主演が二人。今、この瞬間が一枚の絵画のようだ。




『リーナ……母さんの話をしよう』


『うんっ! 聞きたい聞きたい!』


茶色の麦畑の横を親子が歩いている。


『母さんは初めてここで会った時、吸い付かれるような青い瞳で僕に剣を向けたんだ』


『ええー、なんでぇ?』


『多分、あの時は誰も信じられなくなっていたんだろう。だけどね、その剣を向けた姿に俺はすごくときめいたんだ。いくら着物がちぎれていようが汚い泥が付いていようが、父さんの人生で一番綺麗な眺めだった』


『それが、彼女が持っていた技、ー七剣流(しちけんりゅう)ーってやつらしい』


『しちけんるゅう?』


ーああ、母さんはそれで、伊狩の頂点に輝いたんだ



くる!!!


カーーン!!!!!!!!



彼は小さな砂埃を立てて、たった一歩で私の間合いの所に足を着いた。

ギリ! ギリ!! 見える!!


 左脇腹を狙った攻撃を何とか防いだ。

彼はくるりと回り、リーナの無意識の突きに対応する。

剣を弾き、リーナの後ろにたった男はこう告げた。


「一、二、四、五、六だ」


 夢中で横に斬りかかると、彼は高く後方に飛んだ。私との距離は二十メートルほどだ。


「見本を見してやる」


小さい声だが確かにそう聞こえた。

私は理解した。……動きをよく見ろと。


彼は動き出した。

右足で踏んで、つま先で蹴りながら、左足で一気に飛ぶ。

そして右足で地面に着き、勢いを殺さない踵を浮かせて回転させながら、左、右と前傾に合わせながら剣を動かす。


その姿が何故か父と重なった。


私は急いで剣で受けたがこれは受けきれないと思った。しかし彼は反動を受けてザザアーと後ろに下がった。


これを見るのは初めてじゃない! 昔、お父さんに……。


『いいか? よく見ておけよ!』


脳で情景を見ながら、リーナは目の前の彼を見た。


『一、目を真っ直ぐ向けて、視界の確認。対象の確認』


次に、今の剣の構えから右足、左足でステップを踏む。


『二、右足で少し蹴って、左足で重心を低くして、大きく踏み込む』


風に乗って彼から見て右に四十五度のところで足を着く。


『三、対象の円、三百六十度の半径三メートル以内の範囲に侵入』


『四、右足を着いて、踵を浮かせながら回転させる』


砂利を払う感覚が踵に走る。


『五、左足で下に力を入れて右足を降ろすと同時に剣を振り抜く』


ーそれが、七剣流


「【氷濤(ひょうとう) 一月(いちげつ)!!!!】」


私の一撃で彼の木剣にひびが入った時、彼は一瞬笑って、私の木剣で木くずと共に飛んでいった。


 試験官は私の方に旗を上げた。


「……勝った、、の?」



 私の握る手が燃えるように熱かったため、木剣を落とす。汗と涙の勝利を掴んだ瞬間だった。





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