上部と検品
私、神挿リーナは今日、検品の日となっている。
軍部に入るために、気合を入れる。
父と別れを告げて、上部を目指す。母もきっと応援してくれているだろう。
閉ざされた段ボールの中のようだ。
四方は壁で囲まれていて、鉄製のコンクリートが牢屋のような絶望感を出している。
しかし、外壁の中央には誰かが憧れたあの西洋の時計台が置いてある。
ゴーンゴーンと裁判の鐘らしき音とともに時計台の塔門をくぐる。
私は初めて見る上部の景色に目を輝かせた。全面が赤と黒で塗られた街は活気で溢れている。
下部では夜に明かりがないため静かな水の中みたいになるのに……。
上部では建築が行われているためどの建物もとても綺麗な外装をしている。また、クルマやキーーーーンとうるさく止まる列車、多くの文明に感動を覚えた……。
そして同時に怒りが湧いた。
さっきの鐘の音のあとだけ、下部の人の入場が許可されている。私達が塔門をくぐり抜けると、私の前にいる人は、当たり前のように食べ物のゴミを投げられていた。
建物の二階には十歳ぐらいの女の子が見えたが向けられたのは冷たい視線だけである。
ああ、、本当に腐っている世の中だ。私達は食料のために必死に働いているというのに。
この差別的扱いも伊狩家によって、対立的軋轢で下部での奴隷的支配をするために遂行された政策である。
「こっちの生活レベルは段違いね!」
隣のノーテンキな女はそう言った。まだ自分に期待しこっちでの生活に夢を見ている甘い考え。
ここの環境にムカついている私は彼女に少しため息をついた。
そして歩き出した。
明るくチカチカとした窓を眉をグニャリと曲げて睨んでいる。
今は下部の人が検品に向かうバスに乗るための場所、天楽に向かう列車の中だ。
ガタンゴトンと揺れ動き、ガラガラの下部の人専用車両は物静かだった。
そんな時、「ふぅ〜、、はぁ~!」と呼吸をした女の子が私を見て口を開いた。
「ねぇねぇ! 下部からの検品の人ってあたし達だけなのかな!」
多分そうだと思う。伊狩家は昔で言う関東地区に存在しており、新宿以外は広大な下部がぐるりと囲んでいる。だがあまり下部は人口が多くない。
月の終わり、今の九月三十日にまとめて九月生まれが検品されるがこんなに少ないのは珍しいのだ。理由は知っていたけど口にはしなかった。
この人はさっきのノーテンキな女の子だ。たぶん、考え方とか合わないと感じたから、そういう明るい態度はとらなかった。でも列車の中で一つしかない下部専用車両には私達だけなのでそれとなくそっけない返事をする。
「そうみたいだね……」
そっかぁ!と楽しそうに彼女は返答する。彼女はこの列車に乗るときも私の横にわざわざ座ってきた。お人好しの子のらしい。
「じゃあさ! 下部のどこの辺に住んでたの?」
彼女はずいずいと私に話しかけてくる。緊張を和らげたいのか分からないが嫌な人ではなさそうだ。
「私は川の下流の方に住んでたよ」
「あっ! わかるよ! 電針が傾いてるところらへんでしょ?」
「あっ そう! そこら辺の大きな家」
「私はねぇ〜? すごいよ〜?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そうやって話し合うのもあっという間に終わった。
案外私の方がガチガチに緊張をしていたみたい。彼女と話してとても気が楽になった気がする。
この列車は停止したが私達は警告があるため、すぐには降りれない。下部の人は上部の人との混雑を招くため、少し遅れて降りることになっている。
……たった二人にも関わらず。
しばらくして、車両のドアが開く。終点、天楽。
降りていくと前には大きな広場があり、何十人と乗せる大きなバスが停まっていた。
私は彼女の名前を最後に聞き出した。
「ねぇ! 名前教えてくれないかな?」
彼女は喜んで了承してくれた。
「私は神楽坂望都っ! また会おうねっ!」
私達はバスに乗り込んだ。
ミナちゃん以外の友達……一緒に軍部に行きたかったな。私の緊張や不安は少し解けたような気がする。
夜道を眺める窓には私の微笑んだ顔が見えて嬉しかった。
しばらくするとバスはお屋敷に入る門で止まり、今は参加者の確認をとっている。
そしてこのバスは唯一、上部と下部の人が混合で乗られているらしい。さっきも述べた通り、下部自体はいくつもあるが、そもそもの人口が少ないため、専用車が作られないのだとか。
バスの中では確認の終わった人達で賑わっている。
「ふふん! 私はきっと伊狩様に認められて妃になるのだわ!」
この車内に響くのは声はお嬢様らしき人のである。きっと上部の人なのだろう。するとその取り巻きの人達も口を揃えて言葉する。
「きっとそうですわ! 鹿乃様はお美しいもの!」
どうやら上部の中でも位とかが高いみたいで、このバスの上部側の人はみな彼女を贔屓している。私達下部の人達は暗い表情をしていると、そのお嬢様のような人はこっちの方をを見てこう言った。
「私は那烏様のような愚行は決して行わないもの! この身捧げて最後までご奉仕させていただきますわ!」
彼女たちは「そうですわ、そうですわ」と何回も繰り返す。
この那烏というのは私の母親のことである。
上部では母は悪者として扱われている。下部へ逃げたことはそれほど罪が深いのだ。
そして今では下部の人に対しての罵倒の言葉として用いられている。それも下部に逃げ出すという愚行を二度と行われないようにするために、伊狩家が噂を改変して広めているのだ。
だが、そんなお嬢様に口を出すものが居た。
『くそばかばかしいな』
私は突然のことのあまり驚いた。なぜだかそのような声が聞こえてきた。それも彼の声で……。
だが周りの人は誰も気づいていないらしく、立ち上がって周りを確認するも、座席にも彼の姿は見当たらなかった。私が心の中で思ったことなのだろうか。いやいや、集中しないと、もうすぐ検品の時間なんだから。
すると、私が立ち上がったからか、例のお嬢様が話しかけてきた。
「あら? どうされまして?」
「え? ああ……、なんでもないです」
「なんでもないってなんなんですの? 私が話しかけているのに!」
「そうよそうよ! 貴方どこの人なの?」
「この無礼な感じはきっと下部の人よ。絶対そうだわ!」
連中の視線だけではなく、乗客ほとんどが上部の人。冷たい視線で一瞥された。
彼女らはギラリと睨んで、プイっと無視をして話し始めた。
そこへ、彼女が入ってきた。
「リーナ! 隣座って良い?」
だが私は彼女を受け止めれる状況ではなかった。
「ごめん、今は一人にして」
彼女のためにもとか、くだらないことを考えていた。
「そう……ごめんね。また今度ね」
何か遠のいてゆくように言い放った彼女の言葉がとても突き刺さった。
雑念なんか持っている暇はない。なんとしても軍部に入るの。
それでも、一言いってやれなかった悔しさが残っていた。
次第に景色は動かなくなる。眠い目をこすりながら、他の人達は起き上がる。私もバスから降り、一番乗りで空気を吸う。
止まった先は大きな和風のお屋敷。見た感じお城にも見えるが洋風ではない。この敷地だけで私達が住んでいた地域ぐらいを形容できそうな広さだった。ピンク色の提灯や内部からの神々しい光を見ると、まるでこの場所だけ歴史上から出てきたみたい。
手前には少し長い石段があり、その先から建物に入るらしい。
私達検品の参加者は続々と屋敷の中に入っていった。
検品の試験には様々な物があり、私が受ける戦力テストと頭脳テストの他に技術士テストや補佐テスト、参加者全員が受ける心身テストというのがある。
私はまず、戦力テストを受けるために闘技場へ向かった。
コツコツと木の廊下を渡っている時に考えていたことは「神楽坂さんはどこに受けるのだろうか」など。
彼女の心配をするほど親密になったみたい。とてもうれしいこと。本来ならこんな豪勢な屋敷に嫌気を指しているところだが、そんなことも考えなかった。
野外の西洋風の闘技場は月明かりに照らされ、所々に巻きつけられたライトが眩しいくらいに光っていた。そこには二、三十人ほどの男女が集まっており、試験官がのちに入ってきた。
数分後、予定通りの人数は集まらなかったそうだが、戦力テストが始まった。
まず始まったのは単純な身体力を測ること。
割と自身のあったものなので緊張しながらもいいパフォーマンスができたと思う。
私は本当に軍部に入れる実力があるのではないか、と自信が漲ってきた。
振りほどいた汗も爽やかな輝きを魅せつける。私以外、軍部に合う人はいないと物語るように。
『さて、次は対人格闘術を見ます。対戦相手は各自で相手を決めてください』
ここは私の勝負所だ。ふと丘の上の彼の姿を思い出してしまう。不安にかられるのは仕方がない。
そうして対人格闘が始まった。私は自身の手をぎゅっと握り、自分の出番を黙って待っていた。
あいつ、俺が忠告してやったってのに。軍部の試験を受けやがって……。
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